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ハブゲームは意外に楽しかった。反対してた私も結構楽しんだ。でも楽しんでることに罪悪感を感じることもあった。
ある日、私もくじ引きでハズレを引き、ハブになった。
ハブになった日は結構辛かったがそれでも「明日には元通り」と思うと、その日はなんとか乗り切れた。
ハブになるとみんなが敵に見えてくる。サユまでも私をハブにするのだから怖い。誰も話を聞いてくれないから休み時間と給食時間は特に辛い。本当に辛い。でも我慢する。我慢しなければならない。ルールがあるから。ゲームのルールを破ってはいけない。それくらい私だって知ってるから、ひたすら我慢を続ける。明日への希望をもって。
次の日。普通にみんなが私と話してくれるようになった。ハブゲームは本当に一日だけなのだ。そして、朝みんなが集合するとくじ引きをする。目を瞑り神に祈る思いでくじを引く。
“ハブにはなりませんように”
みんながそう言っているようだった。声には誰も出さないが、ハブになりたくない思いがみんなから伝わってきた。
そしてその日のハブは……サユになった。
「サユどんまーい。んじゃスタート」
その掛け声でサユはハブになった。みんなサユをシカトする。サユは一人ぽっちになった。
かわいそうだな。とは思ったけど、仕方ない。コレがゲーム。こういうゲームなんだから。
「頑張ってね」
私はこっそりとサユに声をかけて、私もゲームに混ざった。
その日の放課後……なぜか私たちはみんな教室に残された。
「なんで?」「あたし勉強したいんだけど」「残されるとかまじ迷惑」
みんな塾がある。みんな忙しいのだ。みんな勉強しなければならない。だからイライラしていた。
そして私はサユがいないことに気づいた。
「ねぇサユいなくない?」
私は周りの友達に聞いた。
「まじだ…いない。どこ行ったんだろうね?」
するとそこに……先生が入ってきた。
―――サユと共に。
「ちょっとサユ!なにやってんの?」私は思わず叫んだ。でもサユはこっちを見向きもしない。
「みんなよく聞いて!!!」先生が叫ぶ。
周りは妙な空気に包まれる。分けがわからなかった。なんで先生がこんなに怒っているのか、なんでサユが先生とくっついているのか。そして先生が話をはじめた。
「私、久野(←サユのことである)さんから報告を受けたの。いじめられてると。これは本当なの?このクラスにはいじめがあるの?」
サユは、先生にチクった。
周りがざわつく。先生がまたキレル。
「静かにしなさい!!みんな目を瞑って」
先生は犯人探しをはじめた。でも誰もいじめなんてやっていない。犯人なんていない。これはゲームなのだ。
「いじめをしてます。してました。っていう人は手をあげなさい」
誰もあげるはずがない。だって、本当に誰もいじめなんてしていないのだから。ただの“ゲーム”をしていただけなのだから。
「わかりました。それがあなた達の思いなのね?誰も手をあげなかったわ。やったのにやっていないと言う。汚い人たちなのね?みんなは」
先生の言葉に私もついに怒った。その怒りを口には出さなかったが、だって本当に誰もいじめなんてしていないのに……
「久野さんはとても傷ついたんです。久野さんのご家庭と相談して今後久野さんがどうするか、決めたいと思います。みなさんとはまた今度しっかりお話をしたいと思います」
先生はそう言い、サユと共に立ち去った。
「ねぇ……サユ、チクったんだよね?」
「まじ許せない」
「これはゲームだって、サユも知ってるくせに」
「アタシ、このゲームでサユにもハブられたよ」
「なんであんなこと…」
「サユ明日から学校来ると思う?」
「知らないよ!でももし学校に来たらそれなりの罰を与えなきゃね」
「ルール違反したんだから」
みんなサユにムカついていた。私はサユにもムカついていた。
ルール違反者にはそれなりの罰が下る。これは社会の常識だ。
だからサユにもそれなりの“罰”が下るのだ。