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〜公立高校一般入試2日前〜
今日はいつもよりも早起きした。というよりは早く目が覚めた。昨日の夜寝たのは夜中の2時。起きたのが5時だから……3時間しか寝ていない。だけど私の身体は全く疲れていない。眠気もない。ただ学校へ行きたかった。誰に会うためでもない。学校には私の友達はいない。ただ逃げたくないから。みんなから逃げたくないから、今日は教室に一番乗りしてやるんだ。私はあんたたちなんかに負けない。そう訴えてやりたいんだ。大切な“人”がいなくても私はちゃんとやっていける。私の心にはちゃんとアカリがいる。アカリの“魂”がある。みんなちゃんと見てて。アカリの姿はなくても、アカリと二人で、同じ身体で、みんなに正々堂々ぶつかるから。
制服を身にまとい、今日の授業の用意をし、朝ごはんを食べ、普通学校へ行くのより30分も早く家を出た。
――アカリ。行くよ!
朝、私は狙ったとおり一番乗りで学校に着いた。
アカリの机はちゃんとあった。撤去されることなくアカリの机がちゃんとあったことに感謝した。みんなでちゃんと卒業するっていうのが、先生の想いなのかな?きっと卒業式では誰かがアカリの写真を持って式に出ることになるのかな?アカリもちゃんと卒業するんだ。
私が学校について20分ほどしてから、教室にぞろぞろと人が入ってきた。みんな始めは少しビックリしていた。私が普通に学校に来ていることを。きっとみんな私はショックで寝込んでいるとでも思ったのだろう。だけどほとんどの人は今は自分が大切。私なんかにかまっている暇はない。自分の席に着き、受験に向けて必死で勉強している。
私は、あんたたちから逃げないんだぞ?目で一人ひとりにそう訴えた。
授業がはじまる。アカリと一緒に買った桜色のシャープペンシルで授業を受ける。みんな必死。私も必死。人生がかかった受験がもう目の前まで迫っているから。私はアカリと一緒に受験を乗り越えるんだ。今まで、いろんなことアカリと乗り越えてきた。
きっと今回だって、二人で乗り越えられるんだ。
今日一日、私はお母さん以外の誰とも喋らなかった。
学校では心の中のアカリとしか喋らなかった。
でも、みんな私をシカトしていたんじゃない。みんな自分のことで精一杯だったんだ。
それが私にも伝わってきた。
明日も、私の教室は静かになりそうだ。
きっと今日以上にシーンとするだろう。
でもそれは、寂しいんじゃない。普通なんだ。
いじめはない。
誰も傷つかない。
これでいいんだ。
これがいいんだ。
受験前の教室の雰囲気なんてこんなもん。
明日も、私はアカリと二人で過ごすだろう。
みんな……
明後日の受験。
頑張ろうね。