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「お母さん…私、怖いの……」
お母さんの温もりを感じて、お母さんの前では絶対に泣くまいと思っていたのに、一瞬で目から大粒の涙が溢れた。
「大丈夫よ。お母さんが付いてる。ミキにはお母さんがいる」
お母さんは私の頭を優しく撫でてくれた。すっかり爪は切ってあって、丸い指先が私の髪の毛を包み込むように、優しく、優しく撫でてくれた。
「ミキ。アカリちゃんはまだちゃんと生きてるよ?」
「え?なに言ってるの?」
お母さんは私を慰めるためだろうか、まるでテレビドラマや小説に出てくるであろう言葉を言い出した。お母さんごめん。私そんなこと言われたって涙は止まらない。
「ミキ。私はね死んだ後どうなるかなんて全くわからない。そういうのの専門家でもない。だけどね、アカリちゃんはきっとミキの心に生きてるんだと思うよ?」
「どうして……?」
涙を拭いてお母さんの目を見つめた。
「だってミキ、アカリちゃんのことちゃんと思い出せるでしょ?笑ってるアカリちゃん。泣いてるアカリちゃん。怒ってるアカリちゃん。いろんなアカリちゃんを思い出せるでしょ?アカリちゃんはミキの心にちゃんと生きてるの。思い出せるってことは、ミキの心にアカリちゃんがちゃんと“存在”してるってことなんじゃないかな?」
“存在”……私は思わず心に手を当てた。死んだ人が今もまだ心に生きてる。なんて馬鹿馬鹿しい。だけど……「もしもココにアカリがいるなら」そう思うと、なんか心強くなれる気がした。私とアカリは一心同体なんだ、って思えた。
「ミキにはアカリちゃんが付いてる。お母さんだっている。なんにも怯えることないんだよ。嫌なお友達とか、人間関係は大変かもしれないけど。」
「え……?」
どういうこと?嫌なお友達って……。もしかしてお母さん……。
「私、一応ミキのお母さんよ?知ってる。ミキが学校で戦ってるってこと。……ううん。正確には気づいた。かな?」
お母さんは気づいていた。私がいじめを受けていたこと。
「どうして?」
「だって私、ミキのお母さんだもん。気づくわよ。ただ、少し気づくのが遅かったね。ミキの心の傷を癒してあげられなかった。ごめんね。ダメなお母さんだね……」
そう言うと次はお母さんが涙を流した。
だから私は指でお母さんの涙を拭って、強く抱きついた。
「今まで言わなくてごめん。これからはちゃんと相談するね。お母さん、大好き。お母さんはダメなお母さんなんかじゃない」
口いっぱいにカレーを含み、涙で少し塩味になったカレーを飲み込む。やっぱりお母さんのカレーは美味しい。
……明日からは、ちゃんと学校に行く。