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〜公立高校一般入試5日前〜
アカリと私が一緒にいるところをみんな不思議そうに見ていた。きっとみんな私たちの友情を壊したつもりなのだろう。だけど壊れない。壊させない。
そんな中今日の教室の様子はいつもとは違う。皆必死に勉強していた。朝も、休み時間も昼休みも。
そう、受験の日が刻々と迫ってきていたのだ。推薦入試で合格した子もいるがクラスに3人程度。大半の人は5日後に迫った一般入試に向けて熱心に勉強している。
“いじめ”は無くなった。
学校をサボったことや、授業をサボったことがある私は推薦などあり得ない。まあ、それなりに勉強はしているからレベルはそこそこの高校を狙っているが、ハッキリ言って先生には「無理」と言われている。だけど、今の私ならなんとなく「不可能」を「可能」にできる気がするから……。
〜公立高校一般入試4日前〜
この日私とアカリは静かな近くのファミレスでアルバイトのお姉さんに注意されるまでドリンクバー一杯で3時間勉強した。
帰りにゲーセンに寄ってプリを撮り『志望校絶対合格』の文字を書き込んだプリクラを二人で携帯に貼り付けた。桜色のシャープペンシルもお揃いで購入し、受験の日にはこのシャープペンシルを使うことを約束した。
「私たち、志望校違うけど絶対合格しようね!」
アカリが私の手を握りながら言ってくれた。
「そだね!でも……なんか、寂しいね」
卒業まで一週間も無い。高校に行けばまた新しい友達もできるし、いろんな出会いがある。でも、いろんな別れもある。そう思うと「なんて無駄に時間を過ごしてきたんだろう」って後悔だらけで……涙が溢れた。もっとみんなと仲良くしたかった。綺麗な教科書を使っていたかった。毎日学校に楽しく行きたかった。涙が止まらない。後悔しか残らない。
「ミキ?まだ時間あるよ!受験が終わったらさ、ディズニーランド行こうよ。悲しむの早いよ」
アカリのその一言で私は涙をふき取った。そう、確かにまだ悲しむのは早い。
すると
「あっヤバい……」アカリが肩にかけているオレンジ色の鞄の中をゴソゴソとしながら呟いた。
「どうしたの?」
「ヤバい……お母さんに頼まれたお菓子買ってない」アカリはそう言うと鞄から今朝の新聞に入っていた折り込みチラシを私に見せてくれた。最近有名になっているロールケーキだ。チラシの中のロールケーキは優しいクリーム色をしていて、真っ白い生クリームをスポンジが優しくロールしていた。私は生クリームが好きではないため食べたことはないが、うちのお母さんが食べているのを見たことがある。
「これ、あそこ方のケーキ屋さんで売ってるんだよね?」アカリはそう言い横断歩道を挟んだ向こう側の青い屋根のお店を指差した。
「だと思うよ。買ってくるの?」
「うん。すぐ戻ってくるね。ちょっとここで待ってて」
「わかった」私はベンチに腰をかけ走っていくアカリの後ろ姿を見つめていた。
そして……アカリが横断歩道を走りながら渡り始めたその時、猛スピードで大型のトラックがアカリに向かって走って来た。
「アカリ!!!」
私は大きく目を見開いてアカリに叫んだ。歩いていた人達が一斉に私を見た後、皆私の視線の方向に目を向ける。アカリに私の声は届かない。そして次の瞬間……
「キキイィィィィ!」と激しい音をたてトラックがスリップして止まった。そして、トラックの側には女の子が倒れていた。
「……アカリ」
思わず鞄や、手に持っていた荷物をみな投げ捨て野次馬をかき分け野次馬の中央で横たわっているその女の子に抱きついた。
「アカリ!!!アカリ!!!アカリ!!!しっかりしてよ!!!」何度もアカリの身体を揺さぶるが返事がない。
「……救急車」
私がそう呟いても周りはざわつくだけ。
「ねえ、救急車!なに黙って突っ立ってんの?早く救急車呼んでよ!」
口からは涎が、鼻からは鼻水が、目からは涙が止まらない……。