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※今回、後半に同性愛的要素がでてきます※
ごみ倉庫に二人で閉じ込められて、アカリは少しずつだけど私に心を開いてくれるようになった。
お弁当も一緒に食べてくれるようになったし、一緒に買い物に出かけるようにもなった。
サユとアカリ。私には二人の友達ができた。本当に心から信頼できる親友が。
でももちろんアカリは100%で私を信頼してくれているわけではないだろう。だって、アカリみたいに優しくて、今まで人を信じることしかしなかったような純粋な子は、裏切りには弱いから。アカリみたいな子が“裏切り”で受けた傷はそう簡単には消えることは無いから。
そんな事はわかってる。でも私は、アカリが私に笑顔を見せてくれる。それだけで嬉しいんだ。
私たちは二人でいつも笑っていた。だからみんなにはいろんな酷いことをされた。でも二人だから乗り越えられた。私もアカリも涙を流さなかった。なにをされても二人で笑っていた。
私達は“親友”だ
そんなある日、私はインフルエンザにかかってしまった。
39.0の高熱。具合が悪くて何度も嘔吐した。お母さんが作ってくれるゆず湯以外なにも口に入らなかった。メールを見る余裕もなく、4日間ひたすらベッドの中で寝ていた。
―――――
「あれー?今日あんたの相棒いないみたいだね」
「今日であんたの相棒が学校に来なくなって4日目だよ」
「ミキ、インフルエンザとか言ってアカリの事見捨てたんじゃないの?」
「かわいそー。裏切られたんだね。アカリは人を見る目がないからね」
「たぶんあいつもう学校来ないんじゃない?」
「ミキは逃げたんだね。アカリを見捨てて」
「アカリ、一人ぽっちになっちゃたねー」
―――――
4日ぶりに私は学校へ向かった。まだ少し熱っぽいけど、寝込むほどではないから。
教室に着くと周りの異変に気づいた。
みんなの目がいつもより怖い。口元は笑っているのに、目の奥になにか薄暗い残酷さを感じる。
そして……アカリがいない。
どこにもいない。
「ねえ!アカリは?」
教室中に響く声で、手に汗を滲ませ、額に汗を滲ませ……。
「アカリは今頃屋上だよね……」
みんなの笑い声が聞こえる。
なに?なんなの?今頃……?屋上?アカリ!待ってて!今行くよ!
なんだかわからないけど凄い胸騒ぎがして、平常心を保っていられなくなった。身体中汗だらけ。
バンッ!!と大きな音を立てて屋上の扉を開いた。
……アカリは屋上のフェンスの外側に出ていた。
「ちょっとアカリ?なにやってんの?」
息切れしながら飛び出しそうな心臓に手を当ててアカリに尋ねる。
静かに風が吹き、少し間が開いた後アカリは消えそうな声で言った。
「アタシ、死ぬから」
「え?」
ごみ倉庫の時以来初めて涙が零れた。身体中をびしょびしょにしていた汗は、知らぬ間にひいており、その代わり涙が溢れる。
「だってミキ私を見捨てるんでしょ?」
「何言ってるの?」涙が止まらない。まともに声も出ない。
「ミキ、私を置いて逃げるつもりだったんでしょ?いじめられることに耐えられなくなって私だけを置いて逃げようとしてたんでしょ?」
「……♪」
チャイムがなった。それでも私達はその場を動かず、妙な距離を保ったままずっとそこにいた。
「アカリ……みんなになんか言われたでしょ?」
「……」
「アカリがみんなになんて言われたか知らないよ。だけどね、私アカリを置いて逃げたりなんかしない。現にこうして学校に来てるじゃん。アカリ前に私がいるじゃん!信じて?私はアカリを裏切ったり、逃げたりなんかしない。だって……アカリ私の親友だもん。親友を裏切ったりなんか、しないよ?」
私は静かにフェンスへと歩み寄った。
「アカリ?」
そう静かにアカリに声をかけると、アカリは振り向いてくれた。
そしてアカリは言った。
「でも、私やっぱり……もうミキのこと信じられない!」
―――その瞬間!
バンッ!と激しい音を立てて思いドアが開いた。
「あ、ちょっとあなた達こんなところでなにやってんのよ!」
先生が屋上に私たちを迎えにきた。
「授業サボって、しかもそんなところにいて……危ないじゃない!」
先生は怒鳴り声を響かせ、私たちの元に近づいて来た。
―――私達は保健室に連れられて来た。
酷く疲れているようだから。という理由で。
自殺しようとしてたの?
なにか悩みがあるの?
お母さんに相談したほうがいいんじゃない?
と聞かれたが、アカリは「風を浴びたかっただけです。家にはなにも言わないでください」
と答えていた。その、先生とアカリの会話を私はベッドの中で黙って聞いていた。
「本当に大丈夫なの?」
「はい。本当に風浴びたかっただけなんです。心配しないでください」
「わかったわ。あなたがそこまで言うなら。じゃあゆっくり休みなさい」
アカリが私の隣のベッドに潜り込む音が聞こえた。
そして、バタンッと保健室のドアが閉まり、先生が出て行くのを確認すると私は静かに目を瞑った。アカリに言われたあの言葉を、あの現実を、瞼で押し殺すように、静かに目を閉じた。
「ミキ?」
アカリが私に声をかけてくれた。目を瞑ったまま私は返事をした。
「ん?」
「あのさ……ごめんね」
「どうして謝るの?」
たったカーテン一枚で区切られているだけなのに、カーテンの向こう側がとても遠く感じる。
「だって私、ミキを信頼してないから。ミキは私を信頼してくれるのに、私は……」
アカリが鼻をすする音が聞こえた。アカリは泣いている。
私は目を開いた。そして……
アカリの寝ているベッドにうつり……
アカリとキスをした。アカリの柔らかい唇に私の唇を重ねた。
それは、別にレズビアン(同性愛)のつもりもなく、ただ今私がアカリを暖めてあげたくなったから。唇を重ね、きつく抱きしめた。
「ミキ……?」
私は唇を外してアカリに伝えた。
「一回だけ、チャンスをちょうだい?」
「え?」
「もう一回だけ、私を信じて。私は絶対にアカリを裏切らない。お願い。一回だけ私を信じて」
「……わかった」
思い切ったように、アカリは答えてくれた。きっと今のアカリにとって私を信じるのは難しいんだろうけど、もう一度だけアカリは私を信じてくれる。ありがと。アカリ。アカリが私のことを“親友”って思ってくれるように、私、頑張るね。