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風花の居ない空間で

 風花が出ていったのを確認して、目の前の男は慣れた様子で明良の居るベッド周辺に防音と認識阻害、結界の呪を張り巡らせる。


 これならもし看護師が戻ってきても普通に叔父と甥が話しているように錯覚するだろう。


 地球では九重智輝ここのえともきと名乗っている男は、ベッドに座る明良から一段低い位置に片膝をつけて屈むとゆっくりと頭を垂れた。


神威(かむい)様、あれ程ご無理はなさらない様にとお伝えしていたはずですが?」


 自分の容姿に似た姿は、本来の男の新雪のように白い姿とは全くと言っていい程似つかない。


「すまないな、しかし因幡いなばに連絡が行ったか」


 九重智輝ここのえともきとは、地球での明良の保護者兼監視者として名乗っている偽名。


 智輝、その本性は神話にでてくる因幡の白兎だ。 


 神々は天寿をまっとうすると、次第に神の力である神力を失い、成神の姿を維持することが出来ず、まるで人が成長していく過程を急速に巻き戻すようにして幼児退行して行く。


 因幡のかつての主だった天照大御神(アマテラスオオミカミ)は神としての寿命を使い果たし赤子まで戻っていった。


 最後は長年天照大御神に付き従っていた因幡の白兎の腕の中で、小さな光の粒となり、また生物として百万回転生しながら神気を貯めるために輪廻の輪に戻っていった。


 天照大御神亡き後、因幡はこの地球を含む銀河系を治めている明良の母、輝夜神かぐやしんの下僕としてその力を使ってくれている。


 そんな因幡は現在、九重明良ここのえあきらとして戸籍を用意され、カムイとしての神力を封印されて、地球のちっぽけな生物として監禁された明良の保護者をしている。


 ちなみに百万回の転生を果たして輝夜神がまだ人間だった明良の父との間に授かった双子神が明良……神威と妹のミナだ。


「はい、地球での保護者として登録されていますからね、真っ先に連絡が来ました」


 困った者を見るような目で明良を見る因幡に苦笑を浮かべる。


「はぁ、俺はいつになったらこの不自由な身体から解放されるんだ?」 


「さぁ? 元はと言えば妹君のミナ様が人族と恋に落ち妊娠されたことにキレて、相手の人族が住む惑星を壊しかけたのが原因でしょう、輝夜様のお怒りが解けるまでは無理でしょうね」


 まるで小馬鹿にするように肩を竦められ明良の心が苛立つ。


「母様の怒りを解くために出された課題が『愛することを学びなさい』だぞ? 俺にできるわけ無いだろうが」


 怒り任せに神気を発動仕掛けて輝夜にかけられた封印の呪に激痛が走る。


 決して自分で外すことが出来ない呪がかけられている、明良の左手首に嵌った銀色のブレスレットが恨めしい。


 明良の身体は、神気に耐えられない程に脆く儚い。


 人の身体に封印された当初は、明良だって輝夜神の出した課題をこなし、すぐにでもこのちっぽけで弱い身体から抜け出すのだと息巻いていた。 


 しかし、人の身体は食事をしなければたちどころに倒れてしまうし、食べたら排泄をしなければならない。


 風呂に入らなければどんどん汚れていくし、臭いも放ち始めることを因幡に身を持って体験させられた。


 服など違いに大差ないもの何枚も組み合わせねばならず、組み合わせによって評価が変わるなど面倒くさかった。


 それでも積極的に人に関わり、輝夜神の言う『愛することを学びなさい』を達成しようと努力した。


 良く分からないが、金と言う金属は潤沢に用意されていたし、因幡に無理やり通わされた小学校と言う場所には同じような背丈の人の子が沢山集められていた。


 必要な物はほぼ因幡が、揃えていたからあえて金属を持ち歩く事もなく、黒いカードを渡される。


 人間達の感覚からさして明良の見た目が良かったのだろう、同年代と思われる沢山の女が明良の周りに群がってきた。


 仲良くなるために、明良には何が良いのか分からない物を黒いカードで買い取り、女に下げ渡した。


 そうしているうちになぜか男どもまで明良に強請りだす。


 因幡にカードを取り上げられてかわりにピラピラした紙を一枚持たされた。


 五千円と言う名前の紙らしい、同年代の男に強請られいつものようにシンサクと言う名前のゲームとやらを買い与えようとして、売り子の女に拒否された。


 どうやら紙幣というものが手持ちの一枚では足りないらしい。


 買えないなら仕方がないと振り返れば明良は買ってくれと言って擦り寄ってきた男に殴られ気を失っていた。


 仲良くなるためにした筈なのに、それ以来しつこく纏わりついていた子供が一切寄り付かなくなった。


 因幡に状況を説明すればどうやら明良はカツアゲとイジメなるものにあっていたらしい。


 因幡の計らいで学校を変わることになり、明良は新しい学校で紙幣を使うことはしなかった。


 紙幣をばら撒かずとも女達は明良の周りに群がってくる。


 愛など感じることなく月日は過ぎて、高校に通う頃には意味もなく無遠慮に明良の身体に触れてくる。


 明良は次第にその手に嫌悪感を感じるようになって終いには拒否反応まで出始めた。


 人の子が学ぶ授業内容を聞き流し、テストなど全問正解も容易いが、因幡に正解は八割にするよう言い含められていた。


 高校に進学しろと言われ適当に選んで入学したが、女達から向けられる思念はドロドロと纏わりつき、明良には気持ちが悪いと感じてしまう。


 愛想良くしなければ輝夜神の課題は達成できないと言われ、ひとりにならないよう男達に混ざり過ごした。


 女達は相変わらず擦り寄ってきていたが、なぜか毎年二月十四日付近になると女達が色めき立ち明良に貢物を持ってくる。


「風花殿は? 随分お気に召しているようですね」


 思考の波に潜っていた明良に因幡が告げた。


 神力を使えない明良にはわからないが、風花が出ていった方角を見ているから因幡には風花の様子が見えているのだろう。


「あぁ、いままで擦り寄ってきた女は山ほど居たがあれは本能で俺を避けているからな」


「ほぅ、それは凄い」


 監禁されて気が付いたが、地球では人に溶け込み異形の者が棲み着いている。


 人を誑かし、もて遊び、思念を餌にする異形達は総じて容姿に優れているのだ。


 優れた容姿はそれだけ人を集めやすい。


 異形達は芸能界とやらに進み、定期的にライブというものを開催し一度に数万の思念を搾取する。


 学校と言う狭い空間で、風花は見事に異形達を避けていた。


 風花と言う異端の存在を知ってから様子を伺い、学校外に強引に引っ張り出し様子をみたが、あれは無意識に異形を避けている。


 そして防衛本能なのだろう異形に見つからないようにしているのだろう。


 町中で明良の隣にいる事で浮き彫りになった風花に、異形達は目の色を変えていた。


「風花の様子は?」


「凄いの一言ですね。 狭い店内で商品棚を駆使して避けているように感じます。 風花殿を認識したからこうして様子がわかりますが、そうでなければたとえすれ違っても気が付けないでしょう」


(やはりか、因幡ですら気が付けないなら折り紙付きだ。)


「おっ、戻ってきたようですよ」


 因幡は言うなり、周囲にかけていた呪を解いた。


「智輝さん、ごちそうさまですコーヒーとお釣りです。 はい明良くんダッカーラ」


 無邪気に宣言通りスポーツドリンクを差し出す風花から飲み物を受け取ろうと手を伸ばせば、背中に隠していたらしいひやりとした物を頬に押し付けられた。


「嘘だよっ、はいコーラ」


 そう言って風花はニヤリと笑った。

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