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イケメンの前で食欲……落ちませんけど?

(うううっ、突き刺さるような視線が痛い)


 これまで生きてきた人生で風花は一番注目を浴びていると断言しよう。


 なぜかいまだに風花の腕をつかんだまま、街中を進んでいく明良の姿に振り返る見知らぬ女性陣。


 明良の整った顔を見て頬を染めそのまま視線を移動して、親友の愛美いわく、脱いだら凄いらしい明良の胸部へ視線を走らせて、彼の腕を伝い、隣にいる風花に射殺さんばかりの鋭い視線を寄越してくる。


(不本意だ、もの凄く不本意)


「どこの店に取りに行くって?」


「えっ!? 東口のGAOだけど」


「はぁ、東口ってお前反対じゃないかよ。 早く言えよなどんくせー」


「はぁ!? 勝手に西口に連れてきたのは明良君じゃない」


「……」


「おいこら、なんとか言いやがれ」


「ちっ!」


(舌打ちしたよこの男!?)


 しかも今度は腕ではなく、風花の自称可憐な手首をグイグイ引っ張りながら今来たばかりの道を大股で逆行しはじめた。


 なぜか優雅に颯爽と歩く明良の歩行速度に合わせて風花は歩かなければならないのか、風花だけがひとり競歩大会と化しているのは足の長さの差だけでは無いはずだ。


 万年文化部の運動音痴な風花には、自慢じゃないが持久力なんてものはない。


「あっ、あき……明良君、ちょっ、ちょっとスピード下ろして」


 すっかり上がってしまった息を整えながら風花が懇願すれば、先を進んでいた明良の足が停まった。


「ごめん、足が短いの忘れてた」


 謝りながらも風花のコンプレックスを抉りにくる明良を睨み付けた。


「誰が短足だ!」


「ほらもう十分に休んだだろう。 早くしないとゲームなくなるぜ?」


「わっ、わかってるわよ」


 それでもそれ以降はGAOに着くまで、風花の歩調に合わせてくれているため歩きやすかった。


 GAOに着くとそれまで掴んでいた風花の手首を放してどこかへ消えていったため、僅かに違和感がある手首を擦りながらも、パーカーのポケットから二つ折りの茶色の財布を取り出して、予約ゲームの引き渡しに必要なレシートを抜き取った。


 にこやかに対応してくれる店員さんにレシートを手渡すと、一旦店舗の奥に下がり、ゲームと初回予約限定特典のカレンダーを持って戻ってきた。


「こちらのゲームでお間違いありませんでしょうか?」


 店員さんが風花にゲームのパッケージを見せながら確認して来る。


 極彩色に彩られたパッケージイラストにはこの乙女向け恋愛シミュレーションゲームの恋愛攻略対象のイケメンキャラが描き出されている。


「はい。 間違いなーー」


「ふーん、恋愛シミュレーションゲームねぇ?」


「うわっ!?」


 突然後ろから聞こえてきた声に驚き振り返えれば、興味深げにレジに置かれたパッケージをニヤニヤと明良が眺めている。


(……いったいいつの間に戻ってきやがった)


「恋愛なんて現実ですれば良いじゃん、痛っ!? なにしやがんだこの暴力女!」


 うるさいリア充男の爪先を思いっきり踏みつける。


「人の趣味にガタガタ文句つけないでよね」


 風花はお正月に訪ねた親戚に貰い今まで使わずに貯めていたお年玉の一万円を店員さんに渡して会計を済ませた。


 袋詰めされたゲームとカレンダーを受けとり、店を出ると自然と口角が上がってしまう。


「それで? 次はどこにいく?」


 さも当然と言わんばかりに聞いてくる明良に風花は想定外だとばかりに、瞳を瞬いた。


(いや帰りますけど)


「もちろん家に帰ってゲームでしょ、さようなら」


「はぁ!? ふざけんなっ、ゲームならゲーセンでもできんだろうが」


「それこそふざけんなっ、五百円有ったら中古のゲーム買えるっつうの!」


 アルバイトをしているわけでもない高校生にゲームセンターに寄付する小銭はない。


「どんだけゲーム好きなんだよ!?」


「好きだなんて失礼な! 私は二次元を愛しているだけだ」


「ぷっ! くくくっ、あーははははは」


 訂正しつつ力説すれば何故か突然ひーひー言いながら明良か爆笑し始めた。


「ちょっと笑いすぎ!」


「仕方ないじゃんウケるんだから、いやーお前面白いな、その突飛な発想も俺を前にしてノーメークにパーカーで現れるとかまじで色んな意味で見てて飽きないわ」


「なによそれ、誉めてるの貶してるのどっちだよ」


「誉めてんだっつうの」


 軽口を叩きつつ何故か風花の頭に手を乗せるとポンポンと優しく叩いたと思えば、いきなりわしゃわしゃと犬でも撫でるように髪を掻き回してきた。


「昼飯くらい奢ってやるよ、なにが食べたい?」


「えっ、割り勘で良いよ。 自分の分は自分で払う……ってなんで一緒にメシ?」


 そう言って首を横に振れば、呆れたような困ったような顔で風花を見詰めると今度はガシガシと乱暴な仕草で風花の髪の毛を掻き回す。


「アホっこう言う時は男を立てるのが正解なんだよ、気にすんな」


 ふっ、と笑った笑顔がまるで恋愛シミュレーションゲームの攻略対象者の様に格好良く見えてしまった。


「えっ、ご飯に行くのは確定なの?」


「俺は腹が減ったんだよ。 つべこべ言わずに付き合え」


 有無を言わせない返事にわざとらしくため息をはいた。


「はぁ、仕方ない」


 しかし男子と食事なんて人生で初めてだ。 明良に背中を向けて歩き出す。


「どこにする? 個人的にはハンバーグとグラタンとカルボナーラと……」


「どんだけ食うんだよ」


「チョコパフェとイチゴのプレミアパフェ!」


「……割り勘でお願いします」


 直ぐに付いてきた明良が隣に並び風花の歩調に合わせてくれて歩き出した。


「フッ、素直でよろしい」


 がっくりと肩を落とした明良の様子がおかしくて風花は笑いを噛み殺した。

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