月讀命(ツクヨミノミコト)
「龍也君!」
愛美と風花の間に割り込んだ龍也は不機嫌さを隠しもせずに愛美を睨みつける。
「俺言ったよね? 姉様に手を出すなと」
気圧されるように、愛美は自分のブラウスの胸元を震える右手で強く握りしめ後退る。
「そっ、その女が貴方の探しておられた姉上様なわけない! だって……だって」
ワナワナと唇を戦慄かせながら龍也の後ろにいる風花を睨みつけた。
愛美にとって大切な親友だった風花は、愛美を裏切っていたのだから。
「貴女なんて消えてしまえぇぇえ!」
風花に、向かって手を伸ばし距離を詰める愛美を、龍也は冷たい視線で見据え自らの右手を払うように動かした。
「消えるのはお前だよ」
途端に愛美の身体が、何かに弾かれたように吹き飛び教室の壁に叩きつけられる。
「愛美ちゃん!?」
駆け寄ろうと龍也の影から走り出た風花の腕を掴み引き止めた龍也は勢いのままに風花を自分の懐深く抱きとめた。
「龍也君離して!」
「やっと見付けた姉様を僕が離すわけ無いでしょう? 因幡を見付けた時からずっと姉様を取り戻す機会を伺ってたんだよ?」
愛しげに顔を緩ませて風花に甘えるように擦り寄る龍也に明良は低い声で威圧する。
「龍也、風花を離せ」
「うるさいよ輝夜神の小倅、若造は黙っていろ」
龍也から放たれた輝夜の名前に風花は自分を抱きしめる男を見上げる。
普段茶色いはずの瞳が金色に変わっていた。
「龍也君じゃ……ない」
「姉様……行こうか、人間ごっこなんてやめて元の身体にもどろう?」
子供のように首を傾げると、龍也のあしもとから二人を囲うように風が渦を巻き立ち上る。
「くそっ、風花!」
「明良君!」
風花から明良に向かって差し出したては空気の層に阻まれ届かず、風花に伸ばした明良の手を遮るように風が刃となって明良の制服を切り裂き、皮膚をなぞり血が滲む。
お互いに伸ばしあった手は触れ合う事なく、教室から風花と龍也の姿が消え失せた。
「クソッ!」
タイル張りの床を握りしめた拳で強く叩きつける。
龍也の瞳は金色に変化していた。 そして古き神々の強力な神力を意のままに操っていた。
あれほどの古き神の力を操れる者は天照大御神亡き後、二柱のみ……
一柱は天照大神の弟神、須佐之男命、そしてもう一柱。
「月讀命」
下唇を血が滲むのも気にせずに噛みしめる。
「絶対に救い出す」
明良は今だ動かない愛美を放置するわけにも行かず、抱き上げて保健室へ放り出すと、自らの意思で実家のある高天原へ向かうため、因幡を呼び出した。




