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とりあえず保護者に連絡しましょうか

 明良の告白にカッと顔が赤く染まるのを自覚しながら、意識を失った明良を抱き締めたまま、風花は愛しげに明良の脂汗を浮かべて苦悶に歪む顔に貼り付いた黒髪を梳いた。


 明良の告白を嬉しく思う自分の心が歓喜し、そして明良を愛しく思う事は、同時に親友への裏切りを意味している。


 考えなければならない事は沢山あるが、風花は一旦思考を放棄して、周囲の現状に視線を走らせた。


 はっきり言って大惨事も良いところである。


 窓と言う窓は割れ、明良から発せられた神力に直に触れる事となった廊下には、壁に神力によって傷つけられた傷跡が無数に残っている。


 怪我を負い意識を失った生徒が沢山倒れているが、微かな呻き声はするため生きていると思いたい。


 神力の影響を受けたせいでほぼ全ての生徒が意識を失い臥せっているためか、不気味な静寂が学校全体を覆っている。


 とりあえずこの状況をなんとかしなければならない、制服のポケットからスマートフォンを取り出して救急車を呼ぼうとした風花は、手帳型カバーのポケットから覗いている二つ折りにした紙を引き抜いた。


「通信呪……」


 それは何かあった時に明良の保護者で叔父と言うことになっている九重智輝ここのえともきに貰った緊急連絡用の紙だった。 


 相変わらず不思議な模様が描き出された紙を撫でる。


「なにかあったら連絡してって言われたけど、どうやって使うのこれ?」


 何回か紙の裏と表をひっくり返したり撫でてみたが、通信呪はうんともすんとも反応しない。


「通信呪〜! 智輝さんに繋いでください!」


 紙を両手で挟むようにして拝んで見ると、突然通信呪が熱を持ち風花は通信呪を投げ捨てる。


「やぁ風花ちゃん久しぶりだね~、うわぁ〜これはまた派手にやったね」


「智輝さん!」


 床に落ちた通信呪から現れ、どこか呑気な声を出した智輝は、風花の腕の中にいる明良の左手首の変色してしまっていたブレスレットに目をやり、明良の額に手を当てた。


「大変だったね風花ちゃん、あ〜ぁ封印解けかけて神力だだ漏れしてるし熱も高いな」


 わざとらしくため息をついてみせると、智輝はブツブツと何かを呟いたあと明良の額に文字を書くように指先を這わせる。


「『縛』」


 一言告げ明良の額を揃えた人差し指と中指で叩いた。


 僅かにチリチリと風花の肌を刺激していた不快感はなりを潜め、明良の顔から苦悶の表情が消えている。


「智輝さんありがとうございました」


「いや、明良を助けてくれてありがとう。 さてとりあえず明良は輝夜様の居る高天原に送るよ、すまないが明良についていて貰えないかな?」


「はい!」


「良い子だ」


 智輝の願いに頷くと、くしゃくしゃと髪を撫でられる。


 ふわりと笑った智輝の笑顔は、明良の笑い方と似ていてドキリと胸が脈打つ。


 智輝はスーツの胸ポケットから紙を取り出すと、そっと風花の頭の上に置く。


 智輝が何か呪文のような言葉を呟くと、辺りの景色が揺らぎ始めた。


「しっかりと明良を捕まえていてくれ」


 智輝がそう告げたあと、風花の視界は暗転した。

 

「さて、しかし派手にやりましたね……貸しですからね神威様」


 智輝が両の手を二度打ち鳴らすと、校舎全体が淡い光に包まれ始める。


 ここまで派手に壊れた校舎や多数の怪我人を治すことは多大な神力を消費する。


 神力を駆使して命に別状がある者が居ないことを確認し、今後の人生に影響が出そうな女子を中心にあとが残りそうな傷だけを癒やしていく。


 周囲の記憶を大きな地震が発生した事にすり替える頃には智輝の神力の半分を持って行かれてしまい、智輝の姿を維持できず因幡の白兎としての本体が姿を現した。


「ふぅ、老体には堪えますね……」


 幾分かハリを取り戻した肌を見て、若返っている事を確認し、因幡は小さく微笑む。


「天照大神様、私はいつ貴女の近くへ侍ることが出来るのでしょうね」


 もう輪廻の輪に帰ってしまった主を思い出して自嘲する。


 物陰に隠れるようにその様子を、傷一つ負わずに観察していた見ていた人影が、因幡を睨みつける。


 人の身体と精神を乗っ取るのは容易いが、もう残された時間はあまりない。


「見付けた……」


 薄れ行く因幡の姿が消えるのを確認し因幡が現れた原因である生徒を思い浮かべほくそ笑む。


 捜し者と望む者の手掛かりはこんなに近くに居たのかと。


「明良と風花か……」


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