お呼び出し
愛美は失恋のやけ食い、風花はイライラを解消するためにパフェをやけ食いした翌日、自室の母親趣味のまるでお姫様の様な装飾過美な天蓋付きのシングルベッドで風花が目覚めれば、ベッド脇にある目覚まし時計の針は九時半を指していていた。
(うん、絶対十時にひさわ駅にはつけないなぁ)
諦めて二度寝をしようとベッドに潜りかけて、不機嫌な表情をしたまま学校で問い詰める明良の姿を思い浮かべて、渋々ながらに起き上がる。
あくびをしながらノロノロとベッドからたち上がり、自分の趣味とかけ離れたピンク色を基調とした女のコらしい自室を出ると、階段を降りて洗面所へ移動し、歯と顔を洗って寝癖であっちこっちに跳ねまくった長い剛毛の黒髪を解かしつけていく。
お洒落する気も起きないので無難にジーンズと裏起毛のフード付きパーカーに着替え、風花はリビングに用意されていた朝食をいただくことにした。
こんがり焼いた食パンの上に塩コショウで味付けた目玉焼きを、大きく開いた唇で齧り付き口いっぱいに頬ばる。
既に家族は出かけていて誰もいない自宅に鍵をかけ、ゆっくりと歩きだした。
もはや十時をとうに過ぎているし、もともと行くとは言ってないので、ゆっくりとひさわ駅に向かったが、人の出入りが激しい駅に明良の姿は見えない。
時刻は既に十時四十分、言われていた十時から四十分も過ぎている。
(こりゃ怒ってかえられても仕方がない時間だわ)
ふと駅の一角に人が集まっているのを見付けて、近寄ってみることにした。
ひさわ駅にはたまに芸能人が来ることがあるため、もしかしてと覗き込めば、見覚えがあるイケメンが不機嫌丸出しの状態でナンパされていた。
(……見なかったことにしよう)
そろそろと逃げの体制に入ったとき、顔を上げた明良と目が合った。
「お前な~! おせーよ!」
ナンパをしていた肉食系女子を振り払いずかずかとこちらに近づいてくる悪鬼……じゃなくて明良に逃げを打つ。
「いやぁ~寝坊しちゃった。 それで? 折角の休みにこんなところに呼び出したんだから用事あるんでしょ? なに?」
さっさと明良の用事を済ませたらその足で今日発売の乙女の為の恋愛シミュレーションゲームを買いに行くんだと自身を鼓舞し笑顔で風花が問う。
風花の頭の先から爪先までに視線を走らせると、明良は顔をしかめた。
「はぁ、一応お前女だろうが、もう少し可愛い服はなかったのか?」
「はぁ? 別に好きな人とデートする訳じゃあるまいしなんで明良君に呼び出されたくらいでおしゃれしなくちゃならないわけ?」
そう告げれば、左右対称の形が良い瞳を見開いて驚いている。
(えっ、なに? 俺とデートするやつはお洒落するのが当たり前ってか)
「明良君まじで用事があるなら早くしてくれない? 私、このあと用事があるんだよね」
「用事って何だよ」
「発売日なの、ゲームの! だから早くしてくれない?」
こんなことを繰り返している間にも、どんどん貴重なゲームをする時間が減っていくのだ。
「……行くぞ」
そう言って明良はなぜか風花のプニプニした二の腕を掴み、足早に駅の外へ向かって歩き始めた。
「はぁ!? ちょっと腕を放して! 行くってどこに!?」
「……」
「無視すんなこらぁ!」
(本当にこいつは何なんだ!?)