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悪化する環境と苦悩

 風花に対する親衛隊の誹謗中傷はエスカレートしていく。


 初めは私物を隠されたり、下駄箱にゴミを入れられたり、教室の机に落書きがあったりと言ったレベルだった。

 

 明良が風花を庇えば庇うほど嫌がらせは悪質になって行き、今朝は風花の教科書が破り捨てられてごみ焼却炉へと投げ込まれた。


「くそっ!」


 風花を守りたいのに何も出来ず、ただ現状を静観するしかない無力さに明良は自身の右の拳を校舎のコンクリート壁に叩き込む。


 神力を封ぜられた非力な人間の身体では、壁に穴を開ける事すら叶わない。


 拳の皮が破れたのか、赤い血が滲む。


 ズキリズキリと痛むのは、叩き込んだ右拳かはたまた何もできない自分の不甲斐なさに悲鳴を上げる心か。


(今一番辛いのは虐めを受けている風花だ。)


 自分が風花の側にいれば風花の立場は悪くなる一方……それでもともに側に居たいと明良の心が矛盾した思考を訴える。


「明良君! 怪我してるじゃない」


 苛立つ明良に声を掛けてきたのは一人の女子生徒だった。


 ふわふわと靡く茶色い柔らかそうな長い髪、黒目がちな大きな瞳をした女子生徒はたしか明良と同じくクラスの男子が可愛いと騒いでいた生徒だ。


 容姿は学園でもトップクラスに整っていると男子生徒たちが評価していた。


「……なに?」


「あの……風花の事なんだけど……」


 女子生徒が風花の名前を出した事で、バレンタインの日に風花に明良を呼び出させ、チョコレートを渡して告白してきた生徒だと気が付いた。


 正直女子生徒とはあまり交流をもつつもりなど無かった明良はバレンタインに押し寄せる女子生徒の顔など一々覚えていない。


 また風花と言う自分に興味を示さない異性の登場ですっかり記憶から消えていた。


「えっと……ごめん名前が……」


「愛美です。佐藤愛美」


「愛美さんだね。 風花がどうしたの?」


 苦笑いを浮かべたまま名乗った愛美に話の続きを促せば愛美は周囲を気にした様子で視線を走らせる。


「ここでは他の人の目もありますから移動しませんか?」


「……わかった」


 正直に言えば女子生徒と二人だけになどなりたくはないが、話の内容は明良の想い人について。


 素直に歩き出した愛美の後ろについて行けば、バレンタインの日にはじめに風花に明良が連れて行かれた階段下の空き教室に案内された。


 室内に人は居らず、先に明良をカーテンがしまっているのか薄暗い教室の中へと招き入れると愛美が静かに扉を閉めた事で二人きりになる。


「それで話って?」


 明良が話の続きを促せば、愛美は何かを決意したように明良と視線を合わせた。


「明良君は風花の現状をどう思ってるの?」


 愛美の問に明良は視線を僅かにそらし答えを奥歯で噛み締めた。


「風花は優しいから、たとえ自分が辛くても笑顔で隠しちゃう、私は風花を守りたいと思ってる」


 守りたい……それは明良の願いと同意で、ハッと視線を愛美に向けた。


「明良君、私とお付き合いしてください……それで風花を目の敵にしてくる女子生徒は減るわ」


 確かに愛美は客観的に見ても学園内に在籍する生徒の中でも容姿が整っている。


 明良に背中を向けるように窓に近付くと閉まっていたカーテンをゆっくりと撫でるように開けていくと、暗がりに慣れた目を日の光が焼く。


「しかし……そうすると今度は愛美さんが」


「ふふっ、心配してくれるんだ」


 窓辺に腰をかけるように座った愛美の顔は逆光が眩しくて良くうかがい知ることが出来ないが、声色は楽しげだ。


「大丈夫よ、これでも学園で可愛いって評判なんだから。 明良君の隣にいても風花程目の敵にはされないわ」


 自信ありげに笑う愛美に、明良は確かに彼女なら他の女子ともうまく渡り合うかもしれないと思う。


 他の女子から風花を守るためならと愛美の案に乗るのも良いのかもしれない。


「……わかった」


 逡巡したあとボソリと了承を伝えると、愛美はスッと明良との距離を詰める。


「よろしくね彼氏さん?」


 明良に差し出された愛美の手を見て、無意識に身体から固まる。


 怯む自身を叱咤して心を落ち着けるように何度も深呼吸を繰り返し、ゆっくりと手を伸ばし愛美の手を握る。


「あぁ……」


 空き教室から手を繋いだまま出てきた愛美と明良の姿に学園内に激震が走った。

  



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