ファーストキス奪われました
抵抗虚しく風花は明良に抱き上げられたまま保健室に運ばれた。
「先生急患です……って居ないのかよ」
行儀悪く足を器用に使って保健室の扉を開けて、この部屋の主が居ないのを確認したにもかかわらず、明良は真っ直ぐに部屋の奥に衝立で目隠しされたベッドへと風花を下ろした。
(良かった、ベッド汚さなくて済んだかな)
汚れた服でベッドに上がるのは、正直気が引ける。
明良は擦りむいて僅かに血が滲む風花の両膝を手当するために収納棚から消毒液とガーゼ、大判の絆創膏を持ってきた。
「消毒するから少し染みるぞ」
滅菌されたガーゼに消毒液のエタノールを適量染み込ませ、風花の膝に僅かに触れる。
ヒリヒリとする痛みに小さく呻く。
二人共しゃべる事なく無言で治療を行っていく。
(きっ、気まずい……)
「人の身体は、不便だな。 誰かが怪我をしていても、それを神力で治すことも、癒やすとも出来ない」
ボソリと告げられた言葉にクスリと笑う。
「ふふふっ、そんなこと気にしてたんだ?」
今は人間だけど、元々が神様の明良は現状が歯がゆいのかもしれない。
「確かに神様から見たら神力が無いのは不便かも知れないけど、神力がないからこそ医学が発達して沢山の人が病院に行けば治療を受けられるんだから私は今のままで良いと思うよ」
そう告げれば、納得がいかなそうな顔をしている明良は大きなため息を吐くと、風花の顔を見上げた。
(正直言えばあまりまじまじと見ないで欲しいけど……)
「顔も痛そうだな……」
そう言って立ち上がると、明良は痛そうに顔を顰めて、先程まで足の手当をしていた右手を腫れて熱をもった左頬へ伸ばす。
火照った頬を優しく撫でる明良の手は冷たくて気持ちよく目を瞑り思わず懐いてしまい、明良の動きが止まった事に気が付いて見上げれば、明良の顔が近づき風花の唇を塞いだ。
微かに触れるだけのキスはすぐに離れ、頬の腫れが引いていることに気が付いた。
「えっ!? 治ってる」
ペタペタと両手を頬に当てて見ても痛みはない。
「そうか、よかった……」
ホッとしたように力なく笑った明良の身体がぐらりと後方へ傾く。
「明良君!?」
(まずい、倒れちゃう!)
咄嗟に、両手で明良のブレザーを掴むと、後方ではなく風花の方へと倒れ込んできた。
覆い被さるように倒れてきた明良は、両手を風花の身体を避けるようにベッドに付けて自分の身体を支える。
「大丈夫なの!?」
「うわぁ~、ちょっと神力使って倒れるとかだっせー……」
封印されている神力を無理に使ったから明良は倒れたと言うことか、風花の上から退けるように横に転がると、明良は両手のひらで自分の顔を覆い隠してしまった。
「なんでそんな無茶したの!」
明良は蒼白い顔に脂汗を浮かべながらニヤリと笑う。
「一応女の顔に傷なんか残すかよバーカ」
そうのたまった明良の頭を風花はペシリと優しく叩く。
「一応は余計じゃボケ!」




