表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/40

女子がみんなイケメン好きだと思うなよ!

 季節はまだ春と言うには早い二月十三日の金曜日、いつものように大好きなライトノベルを読みながら、沖田風花おきたふうかはいつもより浮足立った一学年の教室の様子に内心ため息をついていた。


 本来ならバレンタインは二月十四日なのだが、風花が通う私立皇桜学園高等部は例に漏れず土曜日、意中の男子生徒も当然休みだったりするため、暗黙の了解として平日の今日にバレンタインが繰り上がっている。


 あちらこちらで繰り広げられるリア充イベントに若干嫌気がさしつつも、自分には関係ないイベントとして参加しようとはせずに、風花は意識の端に追いやっていた。


 風花のクラスメイトにもすでに告白の有無は有るものの、色とりどりの包装紙にラッピングされ、可憐な装飾を施されたチョコレートを貰うことが出来た勝ち組と呼ばれる男子生徒と、義理チョコすら貰えていない男子生徒にわかれている。


 どんなに小さなチョコレートでも、女子生徒から貰うことができなかった生徒は負け組として扱われてしまうため、アチラコチラで女子生徒へのいい男アピールが水面下で白熱している。


 そんな中自分の机の椅子の下に段ボール箱を置いて、綺麗にラッピングされたバレンタインチョコレートを無造作に積み上げている男子生徒がいる。


 彼の名前は九重明良ここのえあきら、学年に関係なく女の子にモテまくっている男子生徒だ。 


 艶のある濡羽色の美しい黒髪を自然に後ろへ流し、長いまつ毛に覆われたキリリと引き上がった瞳と、西洋人のように高い鼻梁、薄く形が良い唇。


 顔立ちが整っているので、実年齢よりかなり、大人びて見える。


 彫刻すればどこかの外国のコインや美術室の彫刻になりそうな、整い過ぎた容姿は人間離れしているように風花には感じる。


 特に顎から首までは、すがすがしく清廉、少年のように引き締まった完璧なラインを描くき、運動神経も良く肉体も引き締まっていて一見すると細く見えがちだが、脱ぐと腹筋の割れた凄い細マッチョらしい。


 そんなモテモテの明良が全く魅力的に見えないのは、きっと風花が筋骨隆々のボディービルダ-のような鍛え抜かれた肉体を誇る男らしい男性、いわゆるゴリマッチョ派だからだろう。


 細マッチョとよばれ容姿の整った俺様王子様よりも、筋骨隆々で無口な歴戦の猛者である将軍様のような男性がタイプなのだから、風花にとって明良ははっきり言ってカッコイイとは感じられない。


 そんなバレンタイン戦争がくり広げられる中、昨年進級した際に教室が別れてしまった同じ歳の風花の親友、佐藤愛美さとうまなみが教室を訪れて、風花を廊下へ呼び出した。


 友達同士でチョコレートを交換する友チョコなるものが流行っているそうなので、もしかしてと一瞬期待した風花は、愛美の言葉に落胆した。  


「風花! 一生のお願い! 風花のクラスの明良君にバレンタインチョコレートを渡したいの! お願い手伝って?」


 小首を傾げる姿は小動物的な庇護欲を刺激される破壊的可愛さがある。


 愛美は同じ学年の男子生徒から可愛いと評判で、ふわふわと靡く茶色い柔らかそうな長い髪も、黒目がちな大きな瞳も、人形のように整った鼻梁やくちびるも、文句なしの美人さんだ。


「手伝ってって言われてもね……どうしろと?」


「少しだけで良いから明良君を階段下の空き教室に連れてきて?」


「えっ!? マジですか」


「うん。 マジマジ! 風花この通り!」


 風花の前で両手を合わせる愛美に溜め息をついた。


「はぁ、分かったわよ。 階段下の空き教室に呼んでくるだけだからね、もし明良君が来なくても恨まないでよ?」


「きゃー! 風花大好き!」


 感激に抱き付いてきた愛美をなだめつつ風花はどうしたものかと思案する。


 愛美は指定した空き教室で先に待っているらしいので、風花は長い髪を靡かせて廊下を駆けていく愛美を見送ると、自身の教室へと戻っていく。


 愛美から願いを引き受けたのは良いが、明良とはクラスメイトではあるものの、それ以外には全く接点なんて有りはしない。


 教室内ではあちらこちらで談笑しており、賑やかだ。


 今も数人の女子生徒がチョコレートを持って明良の机へ持参している。


 明良は笑顔でチョコレートを受け取っているように見えるが、次々と手渡されるチョコレートの山に辟易しているように風花は感じ取っていた。


 明良の彼女の座を狙っている女子が多い中、持参するならともかく大衆の面前で明良を呼び出すのは至難の技だ。


 はっきりいって風花にとってはめんどくさいことこの上ない。


 なにより明良は風花の好みじゃ無い。 


 もしこいつこの顔でイケメンが好きとか身の程を知れって言われても気にしなければいいだけの話しだ。


(よし! 女は度胸!)


「明良君ちょっと良いかな?」


 出来るだけにこやかに声をかければ、それまで明良君の周りで盛り上がっていたお取り巻きの視線が矢となってグサグサと風花の心に突き刺さってくる。


「なに?」


 私の姿を確認するなり嫌そうな顔をしてきた明良に風花は内心嘆息した。


(そうかそうか、そんなにいやか)


 確かに風花の容姿は客観的に見ても中の下のモブ顔だし、胸はまぁある方だけど、スタイルが良い訳じゃない、一応女の子なんだから髪くらい伸ばせと言われたものの、伸ばした髪は後ろで一つに結んだだけだ。


 可愛いかと問われれば、気を使った女子がお世辞で中身が可愛い……と言ってくれるかもしれない。


(可愛くない女の子には声を掛けられたくないと、ふーん?)


「ちょっと一緒に来てはくれませんかね」


「めんどくせぇ、チョコなら貰ってやるからさっさと出せ」


 右手のスマートフォンに視線を戻しながら、男性物の銀色のブレスレットが嵌まる左手を差し出されて、風花のコメカミがピクピクとひきつる。


(これがイケメンとかみんな目が腐って……じゃなくて好みは人それぞれだわ)


「残念ながら明良君私の好みじゃ無いんだわ。 私は呼んできてって頼まれたのよ」


「はぁ?」


 驚愕ですって感じで哀れみの顔で見られたが、真面目になんで風花が大好きなチョコレートを、自腹を切ってまで食べてもらえるかすらわらないこんな男に貢がなければいけないのか、そんな勿体無い事をするくらいなら風花は自分で食べたい。


「なので早くしてくださいよ。 明良君も私に呼び出されて不本意でしょうけど、私もかなり不本意なんで」


 そう言ってやればそれまでやり取りを見ていた周りが「失礼だ」とか「行くことない」だとか「早く行ってそいつの告白聞いてやれよ」と騒ぎだした。


 無言で立ち上がった明良を愛美が待っているはずの教室へ先導していく。


 風花が明良を引き連れて歩けば、廊下で談笑していた女子生徒か驚愕に目を見開き、風花を睨みつけてくる。


 風花みたいな平均以下の顔の女がイケメンを引き連れて歩けば嫌でも目につくが、女子生徒の鋭い威嚇を掻い潜り、愛美との約束を守れるだけで、風花は高難易度の無理ゲーを完遂した気分だ。


「明良君連れてきたよ~!」


 教室の出入り口の扉を開けようと手を掛けたが、肩の上から延びてきた手が扉を押さえ付け、開けられない。


「明良君どうしたの? 開けられないんだけど……」


「おい、本当にこの部屋か?」


「そうだけど……」


 渋面で扉を睨み付ける明良の息が風花の耳元を掠める。


(近い近い、近いって!)


 異性として好みじゃなくても、彼氏いない歴イコール年齢の風花が、これほど至近距離で異性に急接近することなんてあるはずもなく、動揺にワタワタしていると目の前の扉が開いて教室内に倒れ込んだ。


「ぎゃ!」


「おっと!」


 倒れ掛けた身体はポスッ、と温かな何かに当たって転倒せずにすんだ。


「ん? 大丈夫?」


「あっ、ありがとうございま、ゲッ!?」


 お礼を言うべく見上げれば、明良と人気を二分するこれまたイケメンの藤堂龍也(とうどうたつや)が……制服を着崩して高校生にあるまじき男の色気を漂わせ気だるげに薄暗い教室から出てきた。


 これでもかと開かれた胸元には艶めかしい赤く痕が複数ついている。


 どこか甘さの残る明良とはタイプの違う、精悍さのある整った容姿で、こちらも明良同様に女子生徒から絶大な人気を誇る。


(おいおい、龍也君が居るなんて聞いてないよ!? 愛美ちゃんは一体どこにいった!)


「なんだ明良じゃん。 なに? お前もヤリにきたのか?」


「龍也……学校で盛るなと言ってるだろうが」


 男性特有の低い声でこたえる明良に龍也はヘラヘラと親しげにしている。


 いったいどういうことだろう。


 イケメン二人に挟まれて途方にくれていると、スマートフォンのSNSにメッセージが届いた事を報せる着信音がなる。


『ごめーん。 なんか空き教室先約が居たみたいだから美術室連れてきて~』


(え~、連絡遅いよ愛美ちゃん!)


「はぁ、明良君すまん。 移動したから美術室だってさ行ってきて?」


「はぁ!? お前はどうすんだよ。 お前がチョコを渡すためにわざわざ呼び出したんだろうが」


「はぁ!? いやいや、好みじゃないって言ったよね? 私にだって渡す相手を選ぶ権利くらい有るんだけど!」


「ぷっ! アハハハハッ! 明良が振り回されてる! きみ美人じゃないけど顔も性格も面白いね、俺と遊ばない?」


「結構です! それじゃ!」


 踵を返して教室へ戻ろうとした風花の手首をガシッと明良に掴みまれて、ぐいぐいと美術室方向へと引きずられていく。


「ふざけんなよ? 美術室行くんだろ?」


「はい!? だからひとりで行ってよ!」


「なんでだよ。 ほら行くぞ」


「痛い痛い痛いって!」


「痛いのが嫌ならきりきり歩けブス」


「ふっ、ふざけんな顔だけ男!」


 そんな明良の姿をニヤニヤと龍也が楽しそうに見ているが、風花はちっとも楽しくない。


「はぁ、もう美術室なんだからさっさと行ってよ……」


 抵抗虚しく美術室まで引きずられ、風花が投げやりに促せば腕を掴んでいた明良の手が外された。


 美術室へ入ったの確認し、制止する声を無視して脱兎のごとく逃げ出して風花が、教室へ戻ると、先程のやり取りを見ていたクラスメイトから興味深げな視線を貰ったが概ね平和だった。


 SNSの着信音がなりスマートフォンを確認すれば愛美からメッセージが入っていた。


『うわ~ん! 明良君にフラれちゃった。 なんか気になる人がいるっぽい。 風花やけ食いでパフェ食べに行こう!』


(あのやろう速攻でふったのね。 まぁ、いつまでもタラタラと返事を引き摺るよりはましか)


『よっしゃ! 今日はパフェ奢ったげる』


『マジェスタのプレミアムイチゴパフェね!』


(げっ!? 一つ千円近いじゃん)


 マジェスタのプレミアムイチゴパフェは生クリームと二種類のアイス、それから大粒のイチゴがこれでもかとのった豪華なパフェだ。 


『普通のイチゴパフェ』


『え~! けち~』


『なら行かない。 要らないのね?』


『いるいる!』


『それじゃぁ放課後ね?』


 ポチポチと入力していた風花のスマートフォンの画面に影がさして、視線をあげれば明良が風花の机にやって来ていた。


 普段の彼ならまず他の、しかも女子の机にわざわざ来るわけがない。


 そのせいか静まり返ったクラス中の視線が風花に突き刺さる。


「どうしたの? 明良君の机はあっちだよ?」


「……お前、明日の十時にひさわ駅に来い」


「はぁ? なんでひさわ駅」


「良いから必ず来い! わかったな?」


 それだけ告げると明良は最前列の自分の席へと戻っていった。


 突然のお呼び出しに、沸き立つクラス中の視線が痛い。


 呼び出される意味がわからない。


(まじでなんなのあいつ!)


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ