告白
明良やクラスメイトから逃れたい一心で風花は教室を飛び出してきてしまった。
(私のバカ! どうして気が付かなかったんだろう)
目撃者がたくさんいる教室で、あの“女嫌い”の明良が堂々と風花に話しかけてくる事態だって想定できたはずだった。
「もう! 私のバカ!」
風花は自分の頭を叩きながら、自分を叱責する。
(自分の認識の甘さに嫌気がさす)
人気のない図書室に逃げ込み、さらに図書室の奥に今年から設置された半個室の一つへ逃げ込み椅子に座ると風花はぐったりと項垂れた。
同じ様に女子に人気がある龍也と、女性を寄せ付けない明良では女子生徒の監視の度合いが違う。
もしこれが龍也だったなら、始終女子生徒をつまみ食いするため、多少であれば個人的に接触してもそんなに騒ぎにはならなかっただろう。
しかし明良は抜け駆け禁止の女子による呪いが強い。
しかも明良のファンクラブは過激派だ。
「はぁ……しくじったなぁ」
勉強机に顔を押し付けるようにして貼り付き、大きな溜息をついた。
どれくらいそうしていただろう、薄暗くて静かな空間、大好きな本の香りにウトウトと眠りに誘われる。
昨日、一昨日といろんなことがあり過ぎて風花の疲労は、自分が自覚していた以上に疲弊していたらしい。
物音に目が覚めると隣の個室から図書室に相応しくない淫らな効果音が聞こえてくる。
(あの、ここ図書室です……十八禁お断り。)
息を潜めているのも悪いような気がしたので、わかりやすく椅子を引き物音を立ててやると、音がやみ……ません。
気にせずに個室の扉を開けて図書室の外に出る。
「はぁ……このまま帰っちゃおうかな?」
だんだんと悩む事すら馬鹿らしくなってきた。
「風花!」
「うわっぷ!」
教室に鞄をとりに戻ろうかと踏み出した足が廊下につくよりも早く右の二の腕を掴まれて後ろに引き戻され、抱き締められる。
「捜しまわったんだぞ、どこに行ってたんだ?」
顔を上げれば明良が怒ったような顔で風花を見下ろしている。
正面から抱きしめられるようなかたちで抱き込まれているから、顔が近い。
「あっ、明良君!? とりあえず離して!」
ジタバタともがきながら、腕の中から逃れようと抵抗を試みる。
「いや駄目だ、離したら逃げるだろうが」
まるで風花が悪いとでも言わんばかりに拘束を強めてくる。
「わっ、わかったよ! 逃げない、逃げないから離せー!」
廊下には騒ぎに気が付いたのか数人が集まってきてしまっている。
「逃げないな?」
「女に二言はない!」
言い切れば渋々ながらに開放されてホッとした。
「なんで逃げたりしたんだ」
こんな人が多いところで話をするのは嫌だったので、明良の手を掴み、強引に引っ張って急いで移動する。
学校の裏側にある植物栽培用の施設に明良を連れ込み、周りに人がいないのを念入りに確認した。
「なんで逃げたりしたんだ?」
先ほどと同じ質問をしてきた明良に向き直り、まるで迷子の子犬のような風情を漂わせるイケメンに思わず顔を背けた。
「あっ、明良君はカッコイイんだから他の女の子と話をしたりとか仲良くなったりしないの? ほら、輝夜神様のお題もあるし、私なんかより何倍も可愛い娘いっぱいいるんだからもっと仲良くした方がいいよ?」
背を向けて一気に言い放った風花は、背後で次第に不機嫌になっていく明良の様子に気が付かなかった。
「俺が仲良くしたいのはお前だけだ」
後ろから抱きしめられるように耳元に囁かれてビクリと体が跳ねる。
「俺が仲良くする者は自分で決める」
ゆっくりと顎に触れた手に導かれて顔を向ければ、明良の真剣な視線とかち合った。
「風花、好きだ……付き合っていたほしい」
(明良君が私を……好き?)
それが明良から風花への告白だと理解したとたん、カッと頭に血がのぼる。
「ふふっ、真っ赤になってるぞ?」
愛しそうに目を細め、近づいてくる明良の薄いくちびるに一瞬目を奪われ、次の瞬間突き放した。
「あっ、その、えっとごっごめ」
ワタワタとせわしなく突き放した事を謝ろうとして、明良からの告白が脳内でリピートされる。
「うぎゃー!」
逃げ出した風花は悪くない……と思う。




