痴漢行為は犯罪です。
母である風子と空也に見送られ明良と電車へ乗る。
昨日の失敗を繰り返さないようにきちんとサイフも持って来た。
いつもジーンズばかり履いているせいか、風が太腿をすり抜ける際に舞い上がりそうになるスカートが心もとない。
しかも明良は風花の靴まで用意していたようで、その用意周到ぶりには仰天した。
電車内は予想外に混雑していて大量の人が乗り降りしている。
ぎゅうぎゅうに詰め込まれた電車内で座席は確保できなかったので二人で立ち乗りすることになった。
「風花危ない、こっちへ」
「う、うん。 ありがとう」
明良は風花を人波から庇うように電車の壁際へ連れて行くと、まるで守るように壁についた両腕の真ん中に囲い込んだ。
密集した車内で、至近距離に感じる呼吸が距離の近さを物語っている。
「大丈夫か?」
「うん平気だよ」
心配げな明良に風花は笑顔で返す。
しばらくそうしていたのだけど、ふいに風花のおしりにサワサワとした違和感を感じて硬直した。
「風花? 急に黙り込んでどうしたんだ?」
硬直した風花の様子に不信をいだき、声を掛けてきた明良に視線で示す。
サワサワとお尻を撫で回す手を確認した明良はすぐさま痴漢捕獲に掛かった。
犯人にバレないよう素早く壁から手を離すと、痴漢の手首を捕まえて捻り上げた。
「痛ってぇ!」
突如上がった男性の悲鳴に何事かと周囲の人波が少し移動した事で痴漢魔の姿が顕になった。
到底痴漢などするようには見えない青年が整った容姿を痛みに歪めている。
なぜ寄りにもよってモブ顔の風花を狙ったのか、他に美人な女性方がいるにもかかわらず、風花を狙ったとは、めめしや周りになにか幻覚でも出るような危ない薬にでも手を出しているのかもしれない。
「次の駅で降りてもらおうか」
ギリギリと音でもしそうな勢いで犯人の男を締め上げた明良は逃げられないようにするためか電車の壁に男を押し付けた。
「大丈夫か、風花」
「うん、ありがとう」
呻く男を押さえつけて明良がいい笑顔で聞いてきた。
宣言どおり次の駅で痴漢男を駅員に突き出し、簡単な事情聴取を受けて連絡先を書類に記載すると早々に開放してもらえた。
しかしまさか風花が痴漢にあう日が来ようとは思ってもみなかった。
目的地とは違う駅で降りたので、また電車に乗る必要があるんだけど、正直駅へと向かおうとすると足がすくむ。
「風花、こっちだ」
そう言って私明良は駅とは反対方向へ手招く。
「えっ、だって駅はあっちでしょ?」
「バスで行こう」
動こうとしない風花の右手に掴むとバスターミナルへ足早に歩きだした。
「ねぇ、どこに行くの?」




