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馬子にも衣装って失礼な!

(誰だこれ!?)


 鏡を食い入るように覗き込むと、大きな焦げ茶色の瞳を驚愕に見開いている少女が一人写っている。 


 白い肌とほのかに赤く色づく頬は愛らしく、ぽってりとした唇はツヤツヤのうるうるだ。


 緩やかなカーブを描いた黒髪はハーフアップに結い上げられて、金色の細工の美しいバレッタが飾られている。


「誰だこれ」


「我ながら自分の才能に惚れ惚れするな」


 風花のつぶやきに満足そうに頷いている明良の後ろから、部屋からでてきた弟の空也が顔を出す。


「明良さんおはようございます。 姉ちゃん、まじで朝から煩いんだけ……どっ!?」

  

 明良に挨拶をして風花の姿を確認するなり空也は、驚愕に固まった。


(うん、お姉ちゃんもわかるよ、空也のその気持ち……はっきり言って詐欺だもの。)


「風花、服はこれを着てね」


 そう言ってニコニコと微笑みを浮かべながら、風花に紙袋を押し付けると、明良はいまだに正気に戻らない空也を連れて廊下に出ると、洗面所と廊下をつなぐ扉を閉めた。 


 とりあえず渡された紙袋を、恐る恐る覗き込むと、綺麗な濃紺色のワンピースが出てきた。


 胸元にはダブルの飾りボタンがつけられ、ふわりと広がるスカートの裾からちらりと白いレースが覗いている。


 続いて出てきたのは白い服、両手で広げるようにして持ち上げる。


 襟にレースを縫い付けられた真っ白なブラウスだ。


 ワンポイントに可憐な小花の刺繍が襟に施されている。


 この清楚な服をがさつな風花に似合うわけがない。


「これを着ろと……」


 スカートなんて、学校の制服以外持っていない風花には難易度が高すぎる。


(これを着ろとかむっ、無理!)


「明良君、本当にこれを着ろと?」

 

 ひくひくと引きつる口を開き、扉の外にいるだろう明良へ声を掛けた。


「いや? それならこっちでも良いよ?」  


 扉を僅かに開けて差し出された紙袋に飛びつくように受け取る。


 先に貰っていた紙袋と一緒に洗濯機の上に新しく渡された紙袋を置いて、中身を引き出す。


 はじめに渡された服を遥かに凌駕するフリフリでピラピラした装飾過多なブラウスと、膝上十五cm程になりそうなミニ丈のパステルピンクのワンピースには、これでもかと華美な花の刺繍が施されている。


(背中側の腰にはでっかいリボン……うん甘ロリだね。 もういっそ殴っていい?)


「自分の服出してくる」


「多分すごく今の姿には似合わないと思うけど、それで風花の気が済むなら着てみる? 空也君、ちょっと風花の私服持ってきてくれないか?」


「あっ、はい」


 明良の要請に素直に応じた空也は、階段を駆け上がるとヘビーローテーションしているお気に入りのパーカーを持ってきて風花に差し出した。


 パーカーをひったくり、明良を脱衣所から追い出すと、ゴソゴソとパーカーに着替え、鏡に映った自分の姿に絶句した。


(にっ、似合わない……)


 しっかりと化粧を施したはずなのに清楚で上品に仕上がった容姿に、着古したパーカーが強烈な違和感を訴えている。 


 多分明良は昨日のお出かけのリベンジに挑むつもりだろう。


 この顔でこの服を着て出掛けるなんて風花の精神的に無理だった。


 ちらりと洗濯機の上にある二着のフルコーディネイトを見やる。


 しばし葛藤した風花は、パステルピンクのワンピース……では無く濃紺のワンピースに手を掛けた。


(ピンクは無理。)


 パーカーを脱ぎ捨て、着慣れないツルツルした肌触りのブラウスの袖に手を通す。


 綿にはない光沢、でもポリエステルとも肌触りが違うブラウスの原材料は考えないことにする。


 ワンピースを上から被り、紙袋に入っていたニーハイソックスを履く。


 着慣れないワンピースを四苦八苦しながら身に纏い顔を上げれば、鏡の中にお嬢様スタイルの少女が立っていた。


 清楚可憐な少女が立っていた……違和感なく。


 なんだろうこのクオリティーは、女として明良の女子力の高さにボロ負けした気がする。


「風花着替え終わったの? 開けていい?」


 脱衣所と廊下を隔てる扉が二回ほど軽く叩かれ、明良が声を掛けてきた。


「終わったよ」  


 声を掛けると、ゆっくりと扉が横にスライドしていく。


 こんな姿家族にすら晒したことがない風花の心臓は、ドキドキ緊張に早鐘を打ちっぱなしだ。


 扉が開いて風花の姿を確認した明良は、一瞬瞠目すると学校では見たこともないような、蕩けるように甘い笑みを浮かべて見せた。


「風花、凄く可愛い」


 明良の口から出た可愛いの言葉に、カッと全身が熱くなる。


(これ赤面してるんじゃない?)


「あっ、ありがとう……」


 明良から受ける熱視線についモジモジして後退る。


(いたたまれない、落ち着け私。)


「うわ~、女って怖い……普段苺柄のお子ちゃまパンツ履いてても化粧と服を変えたらこんなに化けるのか」


 明良の隣で呆けていた空也が、風花の姿をしげしげと観察して何かを思いついたのか、開いた左の掌に、ポンと右手の握り拳をのせる。


「この前学校で習ったわ、こう言うの馬子にも衣装って言うんだろ」


 馬子にも衣装、意味はどんな人間でも身なりを整えれば立派に見えることのたとえ。


「うっさいわ!」


 風花はスカートなのを忘れて、空也の腰にハイキックを入れた。


「やめろってこの凶暴女!」


「あんたが失礼な事を言うからでしょうが!」


 ギャイギャイ騒ぐ私達をよそに、明良は口元に手を当てて赤面しながら小さく呻いた言葉を聞きそびれた。


「苺柄のパンツか……今度は下着も持ってこよう、うん」



 



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