寝顔を見られた……
色々な事がありすぎて、すっかり疲れ果てた風花は、風呂も短時間で済ませて、髪もろくに乾かさずモソモソとベッドへ潜り込んだ。
年頃の娘としてはきちんと風呂なりシャワーなりで身を清めるべきところだが、直ぐに疲弊した身体を休めたかったのだ。
しかし翌朝、風花の部屋に本来なら居るはずのない明良がいるのはなんでだろう。
横向きで目を開けたら目の前に顔があり、驚くほどその距離は近い。
「風花おはよう!」
「出てけぇぇえ!」
無駄にキラキラしいイケメンオーラを振りまいて、挨拶をくれた明良の顔に枕と抱きマクラとティシュ箱を投げつけた。
「風花起きたの〜? 明良君ありがとう、珈琲が入ったから降りて来て〜」
階下から聞こえてきた風子の声ので、明良が部屋にいた理由がわかった。
おおかた、イケメン好きな風子が昨日と同様に訪ねてきた明良をホイホイと家に上げたのだろう。
「もう、お母さんったら! 乙女の部屋に男の子を通すとか信じられない!」
明良を追い出して、昨日のにのまえに、ならないようしっかりと扉の鍵を閉め、パジャマ替わりのパーカーを脱ぎ捨てる。
適当に引っ張り出したパーカーとジーンズを着て、顔を上げればクローゼットに備え付けた姿見に映し出された自分の姿に絶句する。
(ひどい……あまりにもひどすぎる……)
昨日風呂に入らなかったせいもあり、縦横無尽に暴れまくる髪、頬には薄っすらと寝ている時に流れたであろうヨダレの後がついている。
「うぎゃー!」
「朝からうるせーぞ! バカ姉貴!」
羞恥心に上げた絶叫に、扉の外から弟の空也の怒鳴り声がしてくる。
(くそう、人の気も知らないで!)
部屋の鍵を開けて廊下に明良の姿が無いのを確認し、コソコソと洗面所に忍び込んだ。
全くなぜ自宅でこんな泥棒みたいに逃げ回らなくてはいけないか。
すぐさま歯と顔を洗い、寝癖がひどいうねった長い髪を洗い直した。
洗面台と通路を挟むように置かれた洗濯機の上に置いたタオルを手探りで探しす。
「はいタオル」
「ありがとう……」
手渡されたタオルで顔を拭い、髪を拭く。
「はい、ドライヤーで乾かすからこっち来て」
「いやいやいや、明良君それないわ」
「ほら早くここ座って!」
ずずいと差し出されたのはいつの間に持ってきたのか、リビングの椅子だった。
椅子で洗面所からの出口を塞がれ、ドライヤーは明良の手の中。
「はやくー」
「はぁ……」
このままでは埒が明かないため、大人しく椅子に腰掛けると、明良が機嫌良くドライヤーの電源を入れて、手際よく風花の髪を乾かし始めた。
しかも家では見覚えのないコテが数種類となにやら髪飾りまで用意されている。
鼻歌混じりに、迷い無く編み込まれているであろう髪を気にしても仕方がないので、諦めて好きにさせることにした。
抵抗しても疲れるだけだし、やってもあんまり変化がないと気がつけば明良は諦めてくれるだろうと心頭滅却をはかる。
(しかし上手いなおい! 妹さんがいるからかな?)
「はい、目を閉じてー」
明良は手に取ったクリームを風花の顔に擦り込み始めた。
花のようないい香りと絶妙な力加減で首筋や顔の筋肉を解すようにマッサージを施される。
(うわ~、気持ちいいかも。)
その後顔に何やら粉を叩き、目元や口元を刷毛のようなもので撫でられてくすぐったい。
「はい、出来上がり。 もう立っていいよ、はい鏡」
お許しが出たので目を開けて立ち上がり明良が差し出した縦二十センチ横十五センチほどの鏡を受け取り、覗き込み風花は目を見開いた。
「なんじゃこりゃー!?」
大声を上げ弟に怒鳴られた。
明良君のお母さんのお話『神様の恋人【旧タイトル百万回死んだら神様になったので、自分の治める星を創ります。】』もありますので気が向いたら覗いてやってください。




