プロローグ
完結まで書き上がってます。お楽しみいただければ幸いです。
二月十ニ日、既に日は落ちて部活動に励んでいた運動部の生徒たちが帰宅準備をしている中、人気の無い校舎内で睦み合う男女がいた。
「ねぇ、明日バレンタインデーじゃない? 私の作ったチョコレート一番に貰ってくれるわよね?」
情事を終えて男の目の前でブラジャーのホックを嵌めながら女子生徒は甘えるように声を掛ける。
毎年男子生徒は容姿が良いこともあり、沢山のチョコレートを貰うため今更一つ増えたところで変わりなかった。
むしろ朝早く自宅にまでチョコレートを持ってくる女もいるから一番に貰うなど無理なのだ。
「もちろん食べさせてくれるんでしょ? 口移しでさ」
「え〜、どうしようかなぁ」
「さてもう暗くなっちゃったし家まで送るよ」
「あっ、ごめ〜ん荷物教室に置いたままだから取りに行ってくるね。 玄関で待ってて?」
そう告げて男の唇を軽く塞ぐと、女子生徒は手を振りながら教室を後にした。
「はぁ……めんどくせぇ、そろそろ別れ時かな……」
バリバリと頭を掻きながら、乱れた制服の胸元を直していると、どこからか泣き声が聞こえてくることに気が付いた。
「なんだ?」
声のする方向へ足を向けて歩き出すと、薄暗い廊下に窓から射し込む月明かりに照らされて、小さな幼子が廊下に蹲るように座り込み泣いていた。
場違いな着物姿の子供に幽霊かと身構えたが、あいにく男子生徒は今までそう言った霊感やオカルト体験はしたことがない。
「うぇ〜ん姉様〜どこに居るの〜?」
「おい、どうした? おまえひとりなのかなんでこんなところに居るんだ?」
声を掛けられ振り向いた子供の姿に男子生徒が息を呑む。
男とも女とも取れる中性的な容姿は見た事もないほど神々しい。
幼子はすくっと立ち上がると、男子生徒を見詰める。
「姉様と離れ離れになっちゃった〜」
着物の袖で乱暴に顔を擦り、涙を拭うも止めどなく流れ続ける涙は止まる気配がない。
「そっか〜、なら俺と一緒にお前の姉様とやらを捜すか?」
本来なら子供嫌いの男子生徒は、自分でもらしくない発言だと苦笑しつつも、気がつけばそう言って幼子に手を差し伸べていた。
「うん! ありがとう。 身体借りるね」
「えっ!?」
男子生徒が止める間もなく幼子の伸ばした手がズブズブと男子生徒の腹に埋もれていく。
まるで霞が掛かったように男子生徒の意識が強制的に眠りにつかされると、憑依を完成させた幼児は男子生徒としてゆっくりと目を開ける。
「これで堂々と貴女を探すことができます姉様」
誰もいない月明かりだけの真っ暗な廊下に男子生徒の声が響いた。
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