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第一章 hermit 参

二人を自分の前まで運んだ香蓮は、薫の腕と、奏の額に触れようと手を伸ばした。


しかし、薫は彼女の手を振り払い、その手から逃れた。


「オレに触れるな!!」


そう叫んで、後ろへ駆け出して行った。彼女はその後ろ姿を、静かに見ている。


───まるで彼が去っていくことを予想していたかのように。


「薫!!どこへ行くんだ!?」


彼の後を追い、走り出そうとした奏を彼女はそっと制する。


「待つのじゃ。追わずともよい。奴はもとより私の弟子では無い」


「ですが…」


躊躇う奏を落ち着けるように、彼女はさらに一言付け足した。


「奴が駆けていった方には燈影がおる。奴の師だ、何とかするであろうよ」


「…はい」


まだ少し躊躇いを残したままだったが、取り敢えず彼は納得したようだ。


さて、と彼女は奏のほうへと視線を向ける。紅い瞳は、彼の紫暗の瞳を捉える。


「始めるとするかの。近う寄れ」


奏は更に近くまで運ばれた。そして彼女は彼の前へと、ふわっと降り立った。


あまりにも近いその距離に、彼の心臓は高鳴る。


彼は固まったまま、その場から動けなかった。


記憶が戻った時に、彼は彼女への想いも思い出していた。


いや、寧ろその想いが彼の記憶を戻させた、と言っても過言では無いかも知れない。


「香蓮…様…」


自分の想い人が、すぐ目の前に居る。


───彼よりも低い身長。華奢な体、ほんのりと甘い香り。触れたらすぐに手折られてしまいそうだ。


そんな彼女の細くひんやりとした指が、彼の上気した頬に触れる。彼は思わず目を閉じた。


「そう怯えずともよい…」


彼女は少し背伸びをして、自らの額を彼の額に優しく触れさせた。


パチン、と泡が割れたような音がしたかと思うと、彼は空間が引き伸ばされたような不思議な感覚の中に引き込まれて行った。


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