prologue 壱
彼は見知らぬ場所にいた。水の上であるというのに立っている。
点々と薄桃色の花が咲いている。あたりを見回すと、女の姿が目に入った。
薄霧と蓮の香りの中で、その女は一際大きな蓮の上に座っていた。
ふと。その女はこちらを見つめる。
目が合った途端、彼の意識は遠のいていった───
5限目の予鈴が鳴っている。先程の光景は夢だったのだ。
彼は不思議な気分だった。どちらが夢なのかわからないほど、夢の感覚は生々しかった。
彼の名は水城 奏。スラリとした体で、紫暗の瞳と金色に輝く髪を持つ少年である。
彼はむっくりと起き上がり、大きく伸びをした。
「奏ー!教室行くぞー!!」
陽気な声が聞こえてくる。声の主は赤城 薫。
奏の唯一の友人で、奏とは対照的な、オレンジ色の瞳と銀色に輝く髪の少年である。
奏の隣で寝ていたのだが、先に起きていたようだ。
「今、行くから」
奏は小走りで薫のもとへと向かった。
何気ない学校の風景はいつも変わらない。あっという間に授業が終わり、放課後となった。
いつものように帰る準備をしていると薫が奏に話しかけてきた。
「なぁ、奏」
「ん?」
カバンに教科書を詰めながら奏は振り向く。
「オレ、昼休みに変な夢見たんだよ」
内容を聞いていた奏はふと思い出した。
「俺も同じ夢みたぞ───全く同じな」




