育て方、間違えました
「お、目覚めたね尾田君」
「……ここは、保健室か?」
「その通りだよ尾田君。ウチの一重ちゃんが粗相をして申し訳ない」
「ウチのって……。雨宮ってやっぱりお前の女なのか?」
俺の女、か……
実際の所、俺は彼女を自分の娘のようにしか見てこなかった。
しかし、最近はどうなのだろうか? 正直、自分でも少し自信が無くなってきている。
「いや、まあ正確には違うけど、大事な子であることは確かだよ」
「……そうか。そういや、その雨宮は?」
「そこで寝てるよ」
「!? まさか、何かあったのか!?」
「いや、単に眠くなったみたいでね」
尾田君を運んだ後、暫くは一緒に彼の目覚めを待ったのだが、10分もしないうちに彼女は船をこぎ始めた。
恐らくは魔力を使った反動のようなものだろう。
彼女の使った魔術はテクノブレイク以外に、実はもう1つある。
まあ所謂、身体強化の術ってやつだ。
彼女の魔力総量から言えば、微々たるものに過ぎないのだが、慣れていないと独特の精神疲労を伴う。
加えて、動き回った事も相まって、眠気として表れたのだろう。
……もと研究者であるが故に、俺は下らない事でも理由をつけて考察したがる悪癖がある。
実際のはシンプルな答えが用意されているのに、無駄に考えては良く思考の迷路に迷い込んだものだ。
一重の眠気に関してだって、冷静になってみれば考え過ぎの類である事くらい理解しているのだ。
何故ならば、正直俺も眠いからである。
適度に体を動かした後、夕日を浴びながら静かに尾田君が目覚めるのを待っていた俺達。
そのシチュエーションに加え、さらに目の前にベッドなんてあったら、そりゃもう眠くならないわけがない。
「……そうか。なあ、俺が気絶したのって、やっぱ雨宮に蹴られたからなんだよな?」
「そうだね。それについては本当に済まなかった。ちょっと彼女、短絡的な所があってね……」
無論、そう育ったのは半分以上が俺の責任だったりする。
俺は彼女の育て方を、盛大に間違えてしまったのだ。
「いや、別に蹴られた事は事故みたいなもんだし良いんだけどよ……。ただ、俺ってこんな図体だろ? 頑丈さには正直自信あったんだが、まさか女の蹴りで気絶するなんて思いもしなくてな……。信じられないっていうより、信じたくなかったから確認したんだよ……」
ショックを受けている尾田君。
まあ、身長188センチ、体重100キロ超で坊主頭の巨漢が、JKの蹴り一発で沈むとかね。
情けなく感じてしまうのも無理は無いと思う。
でも、大丈夫だよ尾田君。
間違いなく一重が規格外なだけだからね。
「そう沈まないでくれ尾田君。彼女はちょっと特別でね。普通の女子高生と同じくくりには出来ないと思うよ。何せ、彼女の蹴りの衝撃は1tを超えているからね」
「1トン!?」
以前、とある施設で魔術強化中の一重の身体能力を計測した事がある。
どのデータもトップアスリートに匹敵する素晴らしい結果をだしていたが、脚力については特に強化と相性が良かったらしく、同年代の平均を遥かに上回る結果を残した。
特に蹴りの威力については、あらゆる位置で計測を行った平均が1tという驚異的な記録を叩き出している。
単純な威力だけであれば、元警官の某格闘家すら上回りそうなレベルであり、当たり所が悪いと人を殺しかねない程なのだ。
当然一重を殺人者にするわけにはいかないので、威力に関しては十分な制御を体得させている。
しかし、加減したとしても、一般人にとっては驚異的威力であることは変わらない。
だから、尾田君が凹むようなレベルの話では全く無いのである。
「というワケなんで。はっきり言って尾田君が気絶したのも無理は無いって話さ。まあ気絶させるのに1tの威力なんて必要ないし、ちゃんと加減はされているので後遺症の心配は無いと思うよ」
暫くはむち打ちみたいになるかもだけどな……
「ん、ぅん~? 良助? 朝ぁ?」
っと、どうやら話題の中心人物が目覚めたようだ。
「夕方だよ一重。ほら、しゃきっとして」
「ん~? ………………あ、尾田君!? さっきはどうもすみませんでした! 私、結構突っ走り気味で……」
「あ、ああ、それは別にいいんだ……」
「本当にごめんなさい。もう尾田君の事は覚えたから、次からは平気だと思う……って、もうこんな時間!?」
時間はもうすぐ17時を回ろうとしている。
そろそろ帰らないと、晩飯の準備が出来ないな……
「大変……、早く帰らないと……。尾田君! 時間が無いので今日の所は帰ります! また今度正式にお詫びするので! 良助! 急ぎましょう!」
「慌てるな一重! 部室に静子が置いてけぼりだ!」
「それは大変! 迎えに行ってくるわ!」
そう言って慌ただしく保健室を飛び出す一重。
スパッツを履いているとはいえ、スカートの捲れ方が危うい。あとで注意しておこう。
「さて、では尾田君。自分もこれで引き上げるよ。また後日、話をしようじゃないか。でわでわ……」
「あ、ああ……」
色々と状況に付いていけずポカーンとしている尾田君を残し、俺は保健室を去る。
若干ながら思考力を低下させるように、魔術をかけていたのだが、一応は効果があったようだ。
俺のゴミのような魔力ではこの程度が限界だが、まあ、やらないよりはマシだろう……
さてさて、一重が何か問題を起こす前に、俺も追いつかないとな……




