清楚ビッチも悪くない…、などと思ったのは秘密である
「あら、おはよう、シンヤ。今日は早いのね?」
「………」
「やあ、おはよう、如月君。今日は早いんだね?」
「邪魔してるぜ。如月」
「お邪魔していますね。如月さん」
「お邪魔しているわ。如月君」
「お邪魔、してます」
全員が挨拶し終える頃には、如月シンヤは頭を抱えてしゃがみこんでいた。
「おや、頭痛かい? 如月君? 幸い痛み止めなら持ち合わせがあるけど、必要かな?」
「ちっげぇよ!!!! なんでお前ら今日もいるんだよ! 土曜だぞ!?」
「ん? ああ、その事なら、今日は晶子さんに料理を教える約束をしていてね。朝からお邪魔させて貰っているのはそういうワケさ」
「そうなのよ。私のシフトって土曜と水曜がお休みだから、朝から習えるのって土曜日だけじゃない? 皆さん是非にって事だったんで、お言葉に甘えちゃったの♪」
「甘えちゃったの♪ じゃねぇよお袋! こんな毎日家に押しかけてきやがって、コイツ等絶対裏があるぞ!? ポンポン家に入れてるんじゃねぇ!」
顔を真っ赤にして、晶子さんに詰め寄る如月シンヤ。
今日は先日と違って沈静の魔術は使っていない為、興奮状態になってもそのままである。
だがしかし、晶子さんも俺達もそれを笑顔で受け止める。
暫し空回りしてもらう算段だ。
「如月君、裏ならもちろんあるさ。俺達はもう晶子さんとは友達だからね。その友達の息子である如月君とも、是非仲良くしたいと思うのは当然だろう?」
「何が友達だ!? アホかお前は!」
「心外だなぁ…。まあ、今は何とでも思ってくれて構わないよ。とりあえず、まずはご飯にしようじゃないか。頭に糖分が回れば、少しは落ち着くだろうしね」
「そうよシンヤ? ホラ、このベーコンエッグ、私が作ったのよ? さっ、食べて頂戴?」
「だ、誰が食うか! それに、ベーコンエッグなんて誰にでも出来るだろーが!!!」
「…どーせ私は、ベーコンエッグも碌に作れない駄目母ですよー」
「ちが…、がぁぁぁぁぁーーーっ! 糞っ! 話になんねぇ!」
ドタドタと足音をたてて廊下に向かう如月シンヤ。
そんなに足音をさせては、階下の人に迷惑じゃないかな…?
「ちょ、シンヤ! ご飯は!? それとドタドタしないで!」
「いらねーよ! 寝る!」
ふむ…、悪態をつきながらも足音を静める辺り、少し好感が持てるな。
「残念…、折角上手に出来たのに…。 神山君達も、ごめんなさいね?」
「いえいえ、如月君も俺達がいるから恥ずかしくてあんな態度になったんでしょう。今度、俺達がいない時にでも作ってあげてください」
「…うん、そうね! とりあえず、一旦朝食にしましょうか。他の料理は、この後教えて頂戴?」
「ええ、もちろん。今日は尾田君が試食係を務めてくれますので、沢山作っても問題ありませんしね」
「宜しくね♪ 尾田君」
ウィンクする晶子さん。
チャーミングなその仕草は、実に自然で様になっていた。
流石は人気ホステスである。
やってみると分かるのだが、ウィンクを自然に行うのはそれなりに練習が必要だったりする。
その点、晶子さんのウィンクには不自然さや違和感を一切感じなかった。
きっとコツを掴むまでに色々と努力したんじゃないだろうか。
「う、うす」
その愛らしい仕草に、尾田君はしっかりとやられてしまったようだ。
まあ、それも仕方のない事だろう…
何と言っても、相手は男心を掴むプロなのだから。
「晶子さん、ウィンク上手ですね…」
麗美が真似してみる。
悪くは無いが、少し違和感があるな。
「お、思ったより難しいわ、良助」
「難しい…」
他の二人も同じように真似するが、両目をつむってしまったりと中々上手くいっていない。
一般的な女子であれば少しは練習したりしていたのかもしれないが、残念ながら彼女達の行動は主に俺が監督していたからな…
「あら、こんな事で良ければいくらでも教えるわよ? お料理も教えて貰ってるし、お礼って事で♪」
教えているのは、主に俺なのだがな。
まあ、結果的に彼女達(特に一重)が綺麗になるのは俺にとっても嬉しい事だし、全く問題無いが。
「他にも、男心をくすぐる仕草とか一杯教えちゃうわ♪」
…しかしである。
この3人が男を手玉に取るようなビッ…、いやいや、熟練の女性になるのは、正直勘弁して欲しいなぁ…
特に、一重がそんな熟練の業を身に着けてしまうと、最悪俺の手に負えなくなる可能性があるからだ。
俺の当初の計画である女神化は既に破綻しているが、方向性を見失ったわけでは無い。
そして、俺が目指した女神は、性愛の女神とも言われるイシュタルでは無いのだ…
…ただ、昨今では清楚ビッチなるカテゴリもあるし、それはそれで…って、俺は何を考えているのだ!?
そんな益体の無い事を考える事もあったが、俺達は晶子さんと日々親交を深めていった。
如月シンヤも途中からは何も言わなくなり、挨拶くらいは返してくれるようになっている。
残念ながら、学校には来てくれていないけどね。
そして、そんな生活が一週間ほど経った頃…
事件は起こった。




