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如月シンヤは特撮が好きらしい




「ちょっとーっ! シンヤ! お友達が来たわよ!」



『るせぇーっ! そんなモンはいねぇっ! とっとと仕事行きやがれ!』



 廊下に出ると、晶子さんがドアをノックしながら中に語りかけているようであった。

 どうやら、あの部屋が如月シンヤの部屋らしい。

 それにしてもこの家、2DKか…

 古いマンションとはいえ、そこそこお値段がするのではないだろうか?

 女手1つ、しかも借金持ちだったという如月家が、賃貸とはいえこんな所に住めるのは少し不思議だ。



 ガチャガチャ



「もう、シンヤったら鍵かけてるわ…。個室があるのも考えものね…」



「…あの、晶子さん、このマンションに住み始めたのって、いつ頃からなのですか?」



「ん~、上のタクヤが中学に上がる時だったから、もう5年くらい経つかしら? ここに越してくる前は全員同じ部屋で生活してたんだけど、最近は少しあの頃が恋しいわねぇ」



「成程…。いえ、この部屋が中々良い部屋だったもので、少し驚きました。…経済的にかなり大変だったのでは?」



 ここは別に都会でも無いので、家賃が月々10万かかるなんて事は無いと思うが、生活費もあるのだし、相当厳しいように思う。

 …いや、晶子さんは正直綺麗だと思うし、結構余裕で稼げてしまうのだろうか?

 キャバ嬢の月収は、サラリーマンの月収を遥かに上回ると言うしなぁ…



「ふふ…、実はこの部屋なんだけど、私のお客さんが都合してくれてね? 実は結構格安なの。こう見えて私、モテるのよ?」



 そう言って、ウフンとお色気ポーズ的なものを取る晶子さん。

 こう見えても何も、普通に美人だと思うけどなぁ…、っといかんいかん。

 こんな事を考えてると、また3人に変な目を向けられてしまう。



「じゅ、十分、晶子さんは、その、綺麗だと思うっス」



 おお? 攻めるね尾田君。

 もしかして、惚れてしまったか?

 いやいや、俺はもちろん応援するけどさ。

 ただ、上手く行ったら行ったで、如月兄弟が更にグレそうな気がするけど。



「あら、ありがと♪ さて、でもあの子の言う通り、私もそろそろ仕事に行かないといけないのよね」



「あ、でしたら俺達も今日の所は帰ります」



「いいのいいの! 折角だし、このままあの子に話しかけてあげて頂戴? はい、鍵渡しておくから。帰るときは新聞受けに放り込んでおいてね」



 そう言って、テキパキと準備を始める晶子さん。

 特に急いでいるようには見えないのに、瞬く間に準備を整えてしまった。

 出来る女って感じがするね。



「それじゃ、行ってくるから! シンヤ! アンタもちゃんとご飯食べるのよ! それじゃ皆さん、また来てね。行ってきまーす」



 バイバイ、と手を振って出ていく晶子さんを見送り、俺達は再び如月シンヤの部屋の前へ。

 流石に5人もいると手狭だな…



 コンコン



「1-Cの如月君? 自分は1-Bの神山って言います。今日は学校の事でお話があるので伺いました」



『ああ? 誰だよてめぇ? 俺はてめぇなんぞ知らねぇし、学校の事なんか聞きたくもねぇんだよ。お袋も仕事行ったんだろ? だったらてめぇらもさっさと消えやがれ!』



「まあまあ、そう言わずに、ここを開けてくれませんかね?」



『………』



 返事が無い。

 どうやら、もう話す事は無いと無視を決め込むつもりらしい。



 ガチャガチャ



 依然として部屋の鍵はかかったままである。

 後から取り付けたのか、扉の作りの割には中々しっかりとした鍵だ。

 ふむ…



「静子、いけるか?」



 そう言うと、静子が鍵を観察し始める。

 10秒ほど見たり触ったりしてから、こちらに振り返る。



「いけます。し…神山君」



「そうか。ではやってくれ」



 コクリと頷き、ポケットから良くわからない金属を取り出してカチャカチャ始める静子。



「お、おい、お前らまさか…」



「解錠成功です」



「ご苦労様。では、開けるとしよう」



 尾田君のツッコミを無視し、速やかに事を終える静子。

 なんでこんな事が出来るかって? そりゃワシが育てた、からだな…



「失礼するよ如月君」



 返事を待たずに扉を開ける。

 如月シンヤはジャージのようなものを着て、ノートPCで何かの動画を見ている最中らしかった。

 ヘッドフォンを付けているので、どうやら本当にこっちの声は聞こえていなかったようである。

 しかし、音は聞こえずとも、部屋の扉が開かれた事くらいは気づいたらしい。

 こちらを振り返った如月シンヤは、目を見開いて驚愕の表情を浮かべる。



「て、てめぇら!!! 何勝手に入って…、って、ゲェェッ!? 尾田!?」



「ゲェェッ!? だってよ尾田君。凄い反応されるね?」



 面白おかしい反応をする如月シンヤ。

 その反応を見て、尾田君がどう思ったのか聞きたかったのだが、彼は気まずそうにポリポリ頬をかくだけであった。

 ちなみに、如月シンヤは余程驚いたのか、ノートPCを乗せたテーブルごと部屋の隅まで後退していた。



「…さて、面白い反応をしているところ悪いけど、早速自己紹介をさせて貰うよ。俺は1-B、『正義部』所属、神山良助かみやまりょうすけだ。今日は親友である尾田君の頼みを聞いて、君の所に尋ねてきたんだよ」



 俺の自己紹介に対し、如月シンヤは口をパクパクさせ、声にならない音を漏らすだけである。



 …うーむ、そんなに驚いたのかな?

 もしかして、本当に尾田君の事を恐れている?



『ハッハッハ! 愚かなりゴレンジャイ! 貴様らは罠にかかったのだ!』



 ヘッドフォンが抜け、スピーカーに切り替わったノートPCから音が漏れる。

 如月シンヤが見ていたのは、一重も大好きな特撮であった。






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