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尾田君は見た目で損しているよね




「…お前、何やってんだ?」



 放課後、何か拾うゴミは無いかと教室の隅々をチェックしていると、クラス1の巨漢である尾田君に話しかけられる。



「やあ、尾田君。いやなに、ゴミでも無いかとチェックをしていただけだよ」



「ゴミって…、なんでまた…?」



 訝し気な目で見てくる尾田君。



「それはもちろん、教室を綺麗にする為さ。それにしても、尾田君は優しいね…。男子で俺に話しかけてくる奴なんて、今や尾田君くらいかもしれないよ…」



 そんな視線に、俺は愁いを帯びた表情で応える。

 尾田君はそれを見て何か察したらしく、気まずそうに目を逸らす。

 こんな事で気まずく感じる辺り、尾田君の人の良さを窺える。


 ちなみに先程、同じように話しかけてきた委員長の長谷部さんに対し、今と全く同じ回答をしたのだが、「ゴミは貴方じゃないの?」と真顔で返してきた。

 悲しい。実に悲しい…



「あ、ああ、あの件か…。何か大変そうだな…。俺は興味無かったからスルーしてたが、そんな事になってんのか…」



 そういえば、尾田君はあの囲いの中に居なかったな…。

 男子であの囲いに参加していなかったのは尾田君と、同様に興味無さそうにしていた清水君、オタク寄りの地味な少数グループくらいだろうか?

 女子にはもう少し居たけど、囲いに参加していなかっただけで、こっちを見る視線は辛辣なものだった。



「まあ、なんつうか、その内に他の奴らも飽きるだろ? あんまり気にしないでいいんじゃねぇか?」



「…ありがとう、友よ」



「友って…、お前やっぱ少し気持ち悪いとこあるな…」



 そんな! 何故だ! 俺の尾田君への信頼は今まさに最高潮にあるというのに!!!!



「ま、まあいいや…。所でよ、その、あれから如月兄に呼び出されたりとか、何か言われたりとかは無かったか?」



 如月兄とは、現在不登校中で部屋に引き籠っているらしい隣のクラスの生徒、如月シンヤの兄の事である。


 一週間以上前の事だが、尾田君は如月兄から屋上に呼び出され、上級生数人に取り囲まれるという、不良漫画でありがちな状況に陥っていた。

 如月シンヤが不登校となった原因が尾田君との諍い事だったようで、如月兄が尾田君に対して報復をしようとしたらしい。

 まあ実際の所は、尾田君は適当にあしらっただけで、ほとんど如月シンヤの自爆であり、イチャモンに近い理由だったみたいだが…



「いや、特には何も…。まあ、彼らも下級生、それも女子にコテンパンにされたなんて広められたくないだろうから、大人しくしてるんじゃないかな?」



「それならいいんだがよ…」



 指でポリポリと頬をかきながら目線を逸らす。

 ありがちな仕草に見えるが、リアルでは中々お目にかかれない仕草である。

 それこそ漫画やアニメでしか見ないようなレベルだ。

 まあ尾田君の場合、特に意識しないでやっているのだろうが…



「…それが本題かい? 他に相談事が有るのなら力になるけど」



「ああ…、すまん、ちっと言い出し辛くてな…。ここじゃなんだし、少しいいか?」



 そう言って親指で後ろのドアを差す。

 どうやら、ここでは話したくない内容のようだ。

 放課後と言っても終業直後であり、教室には半分近いクラスメイトが残っているからな…

 内緒話をするには確かに人の耳が多い気がする。

 それに、今の俺と一緒にいると変な噂をたてられかねないし…

 ああ、クラスメイトの視線が痛い…



「…構わないよ。行こうか」



 俺としても、このままここで会話を続けるのは精神的にキツイので、素直に尾田君の案にのる。

 尾田君は俺の返事を聞くとそのまま教室の外に向かったので、とりあえず拾ったゴミを手早く捨て、それを追う事にした。





 ◇





 階下の喧騒とは隔離されたような空間、屋上の踊り場である。

 別に静かでも何でもないのだが、日常と隔離されたような不思議な感覚を覚える場所だ。



「…で、なんで転校生や雨宮がいるんだ?」



 俺が聞きたいよ。



「だって、良助が尾田君にひと気の無い所に連れ込まれたから…」



「怖そうな人が神山君を連れて行ったので…」



 ああ、そういう事ね。

 確かに、見た目的にかなり怖い部類に入る尾田君が、これまた見た目的には真面目な生徒である俺を連れ出したのだ、イジメや脅しの類が行われると疑うのも納得いく気がする。

 でも一重、その言い方だと聞き手によっては違う展開を予想されそうなのでやめてね?



「っと、すまん。確かに俺なんかが神山を連れ出したら、何かされると思うよな…」



 そうして謝る尾田君。こんな見た目なのに、お人好しだなぁ…



「安心しろ一重。俺から相談に乗ったんだよ。それより麗美、お前は目立つんだから、行動には気を付けろよ? …他の奴らに尾けられたりしていないだろうな?」



「大丈夫です。しっかり気を付けて(・・・・・)来ましたから」



 まあ、麗美がそう言うのであれば問題は無いだろう。

 ニュアンスからして、恐らくなんらかの術を使ったに違いない。

 人払いの術は以前も使っていたし、そのくらいの魔力は麗美の総魔力量であれば大した消費ではないだろうからな。



「なら良い。それで尾田君、尾田君の相談事は彼女達が聞いても問題無い内容かな?」



「それは構わねぇが、雨宮はともかく、転校生には関係ない話だぞ?」



「私も神山君や雨宮さんと同じ『正義部』ですよ、尾田君。それと、私は杉田 麗美(すぎた れみ)です。杉田とでもお呼び下さい」



 ニコリと笑顔を作って手を差し出す麗美。

 驚いた表情をしつつも、握手に応じる尾田君。

 恐らく、麗美クラスの美少女に笑顔で手を差し出されて、応じない男子高校生はいないのではないだろうか。

 笑顔だけ見れば、完全にどこかのお嬢様だしな…

 俺も中身を知らなきゃ、間違いなく騙されたに違いない。



「…それで、尾田君。相談事っていうのは?」



「あ、ああ…、その、隣のクラスの如月の事なんだがよ…」




 尾田君の相談事は、どうやら現在も引き籠り中らしい1-Cの如月シンヤの事らしい。




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