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正義部は健全でクリーンな活動をしています



 その日、俺の平穏な日常は脆くも崩れ去った。


 いや、実の所、水面下でその兆しはあったらしい。

 なんせ、クラスメートの罵詈雑言の中には、やっぱり最低野郎だったのね! だとか、雨宮さんを手籠めにしただけでは飽き足らず、というような今までの鬱憤が炸裂したような内容だったのだ。

 これまでにも俺と一重の関係については色々な想像が渦巻いていたらしく、今回の件でそれが一気に爆発したらしい。

 想像から膨れ上がった俺の悪行は、ついに静子こと、本名 山田 静子(やまだ しずこ)にまで飛び火した。

 最終的にその憶測は、俺が無垢な少女を食い物にする女衒(ぜげん)なのではないか、という所まで成長してしまう。

 もちろん、俺もそれをただ見ていたワケではない。

 説得したよ? そりゃもう必死にね。

 でも…



「うるせぇ、最低野郎」



 この一言で、大体全てを否定されてしまったのである。

 まさか、あんな罵詈雑言が万能の返答と化すなど、一体誰が想像するだろうか?

 いや、想像すまい…(血涙)


 俺は帰りの挨拶が終わると、刺すような視線から逃げるようにして、速やかに部室へ避難した。

 戦況は非常に厳しい。まさに由々しき事態である。



(なんとかせねば…)



 俺が一人で悩む事数分後、部室の扉が開かれ一重に静子、そして今回の件の火付け役である麗奈が現れる。

 俺は今日の一件で、心の中で麗奈に対し『KY』の称号を授けていた。

 ステータスというものが可視化できるとすれば、きっと称号の項目にはKYが付け加えられているだろう。

 恨めしや…、とでも聞こえそうな俺の視線に、麗奈がビクリとする。



「いえ…、その…、何と言うか…、申し訳ありませんでした…」



 いくらKYだとは言っても、流石に今の状況が不味い事くらいは察しているらしい。

 いや、この見解は流石に悪意が有ると言うか、ひねくれているな…

 まあ、恐らく彼女も舞い上がっていたのであろう。

 その彼女を、一方的に責めるような事はすまい…



「…いや、いいさ。とりあえず座ってくれ。ようこそ、『正義部』へ」



 勧められるままに、麗奈は俺の向かいに座る。

 そして、一重と静子は俺の両脇に座る。あの、何故この配置なのでしょうか? 静子は普段俺の前に座ってたんだし、麗奈の隣でいいんじゃ?

 何故か集団面接のような状態になってしまった…。しかもこの部室は狭い為、各人の距離が近く圧迫感がある。

 それを感じているせいか、麗奈は若干萎縮しているように見えた。


 ちなみに、この部室は元々女子更衣室として使われていた部屋の跡地である。

 近年低下する学力の影響なのか、この学校は生徒数だけは恵まれていた。

 結果として、各教室の新設などに力を入れており、この女子更衣室もその一環で新設される為に使われなくなった所を、俺達が差し押さえるかたちで使用している。

 無論、差し押さえると言ってもしっかりと許可は取っているが。


 実の所、『正義部』は部活動における規定人数に達していないのだが、これについてもしっかりと認めてもらっている。

 生徒会長さんに誠心誠意お願い(・・・)したのが効いたのだろう。



「よ、よろしくお願いします」



 おどおどしながらペコリと頭を下げる麗奈。



「そうビクつかないでくれ。別に怒ってはいない」



「ほ、本当ですか…? なんか私、少し興奮気味で色々とやらかしてしまったと思うんですが…」



 麗奈は、今になってようやく少し冷静になってきたようであった。

 今朝の言動や態度が、まるで嘘のよう控えめになっている。



「本当に怒っていないさ。まあ、多少困ってはいるがね…。ただ、麗奈は本当に気にしなくていい。正直この状況は、俺の注意が足りなかったせいでもあるのだからな…」



 感情面はやや複雑ではあるものの、麗奈を気遣って嘘を言っているワケではない。俺も新生活に浮かれて、少し注意を怠っていた事は間違いないのだ。

 高校デビューなんて言葉がある通り、高校生になるというのは人生のちょっとした転機なのだから仕方あるまい…

 前世が中年のおっさんだとはいえ、健全な肉体に宿った今の俺の精神は若々しく、夢や希望にも満ち溢れているのである。



「まあしかし、今の状況は良くない…。なんとかしないとな…」



「すいません…」



 そう、今更悔いても仕方がない。問題はこれからどうするかである。

 それ次第で、俺の高校生活の先行きが決まると言っていい。



「ひとまず、『正義部』の外部活動は暫く自粛しよう。夜間外出も無しだ。基本は学内での問題を解決したり、ボランティア活動を中心に立ち回ろうと思うが、良いかな?」



 まずはイメージの払拭だ。

 『正義部』が、奉仕精神溢れた素晴らしい活動をしているという事を、学内に浸透させるのである。その上で、俺達が善意で人助けをしているというイメージを植え付けていくのだ。

 一部でも良いからクリーンなイメ―ジを持ってくれれば、そこから段々と噂は薄れていくだろう。



「私は、良助の指示ならそれで構わないですよ?」



「…私も、師匠の言葉に従います」



「もちろん、私も二番弟子として、マスターの指示に従います!」



「ありがとうみんな…。あと、マスターも師匠も、絶対外では言わないでくれよ?」



「「はい」」



 活動の縮小には一重辺りが反発すると思ったが、その心配は要らなかったようだ。呼び方についてはこれまでも注意したのに直っていないので、イマイチ信用できないが…

 何はともあれ、活動方針は決まった。俺の、いや、俺達の高校生活を順風満帆とする為、頑張ろうじゃないか!




 …さて、まずは学内のゴミ拾いでもしようかな。

 

 


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