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十一日目

日向陽介は驚異のマシーンを操縦してみろとナポリに言われ、ならし運転をしてみるが、原チャリのようにはいかなかった。

 十一日目


 まだ空が暗いうちにナポリが帰ってきた。

 俺はもう目が覚めていた。……あまり眠れなかったのだ。

「操縦の仕方を教えてやる。来い」

 ウエットスーツ姿のナポリに呼ばれ、車庫へと階段を降りた。そして大型のマシンにまたがる。

「ハンドルで左右。引けば上昇、倒せば下降。スロットルで速度調整」

「ああ。そこまでは大体わかる」

 バイクと同じようだ。

「前のモニターに詳細は出るが、昼間の粒子アナッサは不要だ。シールドする必要はない。速度感を体で覚えろ」

 モニターには日本語でナビが表示されている。言語設定を俺仕様に変更してくれたのだろう。

「これからエネルギーをチャージしておく。5分も待てば充分だ。20時間は飛べる」

 ナポリはケーブルをマシンに接続しながらそう言う。地球上の蓄電装置に比べると偉く効率がいいようだ。

「衝突回避機能と水平安定装置があるから自然にこの向きをキープする。操縦者が手を放せば操縦者の惰性速度と同じ速度で減速する。つまり手を放しても振り落とされない設定になっている。よほど無理な操縦をしない限り事故は起こさないだろう」

 それだけ言うとナポリは部屋へ上がった。


 乗ってみたいという好奇心と、怖いという臆病さが頭の中で闘っていた。


 こんなものに乗って本当に大丈夫だろうか……? 

 事故をして死んでは元も子もない――。

 荒削りの銀色をしたボディーが唸りながらチャージされていく。


「おいアッパ。上がって来い。ウエットスーツを貸してやる」

 ナポリが部屋から呼んだ。俺のウエットスーツがあるのだろうか。

 誰か他の宇宙人が着たお古なら少し気が引ける。そんな細かいところが気になる性分なのだ。

「これに着替えろ」

 部屋に上がるとナポリは既に部屋着に着替えていた。受け取ったウエットスーツは生暖かいどころか、中が汗でベットリ湿っている――。

「……これはもしかして……今までナポリが着ていたウエットスーツでは?」

 思わず声に出していた。

「そうだ。一着しかない。これを着ておけば音速で飛んでも寒くはない。ある程度の衝撃も吸収出来る」

 ナポリは自信満々の顔でそう語るのだが……、


 ――こいつは本当に人間なのだろうか。まれに思考が理解出来ないことがある――。


 汗でくっつき、なかなか足が通らない!

 俺の汗では無くナポリの冷えた汗でだ!


 ナポリはこれを昨日も着ていた。今まで着ていた。今日も着るだろうか……。そんなことを考えながら風呂場で四苦八苦してそれを着る俺は、鳥肌が総立ちしていた。

 まるで他人が使用した汗まみれの剣道の防具を、すぐに身に付けるような……何とも言い難い気分だった。

 念を押しておくが、決して心地よいものではなかった。

 いい香りなど……しなかった。


「くれぐれもスビードの出し過ぎに気をつけろ。最高時速は1万2250キロまで出るが体が耐えられるまでにしておかなければ死ぬぞ」

 ウエットスーツを着こんでヘルメットを被った。

「わかった。少しそこら辺を飛んだら戻ってくる」

「駄目。せめてこの星を二周以上してこい。現在地とここの場所はナビに表示される。二周するまでは帰って来るな。おやすみ」

 そう言いいながらナポリは風呂場へと消えた。


「おやすみ」の意味が……なんか、ちがうように聞こえた。


 ……重い足取りで単射のところへと向かう。

 何度も握り拳に力を入れる。

「……上等じゃないか。俺の原付自転車で鍛えた腕前を見せてやる!」


 ケーブルを外し、電源が入ったままの単射にまたがる。その驚異のマシンは、単射などという名前とは程遠いスペックを持っていた。ハンドル部のスロットルをほんの少し回すと……、


 爆音とともに、ビルの5階から飛び出していた――。


 ――遠くにあったビルが瞬時に目の前に大きな壁となり、単射は急角度で方向を変え、また急発進をする!


 爆音がヘルメット越しに耳に突き刺さる!

 皮膚はそがれるように痛い! 

 スピードの出し過ぎは分かっているのだが――、ハンドルを握る手の力を緩める余裕すらない。

「――助けてくれっ!」

 またしても目前のビルに当たりかけ、自動回避システムで直角に向きを変える。

 足の下数十メートルのところに道路があり、止まれば確実に――落ちる!


 次の自動回避システムが作動した後、俺と単射は街を飛び出していた。


 ――息を飲んだ。


 もう足元には道路も何もない――。

 三千メートル下にエメラルドグリーンの海が広がっている。

 上には朝焼けの赤い空。目の前には何も建物が見当たらない。


「俺は、――飛んでいるのか?」

 夢のようだった。

 単射と俺だけが、このオートゥエンティーの空に浮かんでいる錯覚にとらわれた。

 落下する感覚も無く、前進している感覚もない。


 ようやくハンドルを握る両手の力を抜くことが出来たその時――、単射は急減速し俺の体は慣性の法則に従い単射の前に飛び出した。

「しまった!」

 ハンドルを放してしまい、前方へ放り出され海へと急降下する。

「助けてくれー」

 気を失わなかっただけマシなのだが、海面が恐ろしいスピードで近付いてくる。


 スカイダイビングでパラシュートが開かず墜落する――衝撃映像が脳裏をよぎる。


 妻と子供、親父と叔父、おばあちゃん……。

 プティリとナポリが……次々に笑って……素敵な笑顔で俺を見送ってくれる……?


「ダメだ! まだダメだ!」

 意識が遠のくのを、声を出して制する!

 だが、――もうどうしようもない!


 海面に叩きつけられてここで朽ち果てるのか!

 そう思いながら空を見ると、単射も俺と同じ速度で落下をしていた。

 ――すぐ手の届くところにある! しめた! 引き寄せて乗れば助かる!

 必死に態勢を整えて単射を引き寄せるが、もう海面まで距離がない。波の形もくっきり見え始めている。

「こんなところで落ちてたまるかー!」

 必死でハンドルを握り、スロットルを回して引くと、海水を大量に吹き飛ばし単射は上昇した。

 体重の何倍もの重力を体に感じ、腕が引きちぎれそうになる――。


「はあ、はあ……」


 ――なんとか、助かった……。

 少しずつスロットルを調整し、第二階層付近まで浮上した。


 スロットルをどれだけ回すと、どれだけの速度が出るのかが死にかけてようやく分かった。

 バイクの感覚ではスピードが桁違いに出過ぎる。急ぐ必要などないのだが、モニターを見ると時速120キロと表示されている。

「地球じゃスピード違反だな」

 海の上を飛ぶと、足元に何もない恐怖心からか尻の辺りがムズムズする。そのせいで次第にスピードを上げて飛行してしまう。


 半日掛けて惑星を一周した頃には、操縦は大体思い通りに出来るようになっていた。

 ただしだ! 何もない広い空間に限る!

 とてもじゃないが街の中をこれで走りまわることなんてできない。こんな物で街中を飛ぶなど自殺行為だ。場合によっては他殺行為に成りかねない!


 モニターの速度表示で確認したのだが、この単射とよばれる驚異のマシンは地球上では戦闘機の速度に匹敵する機動性を保有している。自動回避システムがなければ、乗って一秒後には木端微塵だっただろう。

 乗っていて爽快感など全く感じなかった……。恐怖だけだった。

 そして恐怖は思った以上に体を疲労させるものだ。

「腹が減った」

 ヘルメットの中で呟く。

 朝から何も口にしていない。朝のナポリの様子からすると、今日の小遣いはこの星を二周しないともらえないだろう。

 大きくため息を吐くと、またスロットルを回して飛び立った。


 この星を二周もすると、色々なことが分かってきた。

 一周約千キロメートル程度の小さな天体だ。

 六つの大きな惑星と二〇の小さな惑星が見えた。この惑星自体が均等に並んでいる星の一つなのだ。

 一周しても昼夜が変わらない。太陽の様な恒星が見当たらず、自転して昼と夜になるのではないことは分かるのだが……だとすると、どうやって周辺の星に昼夜をもたらしているのかが謎だ。

 近隣の惑星自体が昼間は光っているように見えるが、どういう現象なのだ?大きさの割には地球と同じくらいの重力が働いているのもおかしい。山は低い物しかなく、その殆どが円型でクレーターであった。

 発電所や大きな工場地帯なども見当たらず、ビル状の建築物が殆どで、芸術性に富んだものも見当たらない。

 階層エレベータを中心に四方八方に伸びているエネルギービームはどこからそのエネルギーが供給されているかも解らない。この星の中心部に超巨大な乾電池でも入っていたとしても……驚かないかもしれない。

 地球に比べて不自然なことが多すぎる。

 そもそも銀河が五つも接近して存在することや、惑星が等間隔で並んでいることなど、自然にはあり得ないだろう。


 ――誰か宇宙人が、何かの目的のために星を並べたとしか考えられない……。

 ――では一体何のためにだ?


 頭を軽く振って考えていたことを追い払った。知って得にならないことを考えていてどうする。それよりも今は晩飯のことを考えなくては。


 スロットルを微調整し、ようやく車庫へ戻った。もう空は真紅の夕焼け空となっていた。

「ただいま」

「おかえり」

 ナポリは今日も違った部屋着を着ている。大きめのトレーナーとゆったりしたズボン。部屋では着心地良さそうな物を好んで着ているようだ。

 だが視線はゆったりとはほど遠い。――冷たい。

「二周は出来た。ただ、建物の間を飛ぶのは無理だ。車庫へ帰るまでに何度も自動回避システムが働いてしまった」

「ここから見ていたけれど、一応着陸出来たじゃない」

「まぐれさ」

 何十回も飛び交っていれば目を閉じていたってそのうち着陸できるさ。俺は風呂場で着替えた。

「このウエットスーツはどうすればいい。洗っていいか」

 一日中ウエットスーツを着ていたため汗だくだ。今朝、借りる前よりも重たい。

「もう仕事だ。そのままでいい。さっさと脱げ」


 ――ってことは、汗がしみ込んだこれを着るってことか? 

 ――今度は俺が恥ずかしい――!


 俺が着替えを済ませると、今度はナポリが風呂場へ向かう。

「金をカードに入れておいた。明日の夜は仕事を手伝ってもらうから、今日はもう休んでおけ」

「了解」

 カードを受け取ると、昨日と同じ文字が見える。……十円だ。


 風呂場から出てきたナポリのウエットスーツには俺の汗染みが滲んでいた。

 そのことについてナポリは何も言わないのだが、背中からお尻の辺りまで汗で濡れているナポリの姿は美しく……はなく、なんだか……いやらしかった――!

「お前はたまに私を無駄に見るが、何か言いたいことがあるなら声にして言ったらどうだ」

「いいや、何もない――」

 慌てて視線を逸らして言い返すと、果実を買いに部屋を出た。


 帰る途中、恐ろしい速度で飛び去るナポリと単射の姿を見送り、ナガイモドキをかじりながら部屋に入った。


 ナポリはいつ帰ってくるか分からない。

 やましいことをしている分ではないのだが、端末機を操作している時には帰って来て欲しくなかった。


 ナポリは俺に、ここにいて欲しいと思っているのではないだろうか……。


 決して俺に優しいわけではない。しかし、宇宙の果てでようやく出会えた異性の人間なのだ。

 普通だったら……何か特別な運命を感じずにはいられないはずだ。

 ……いや、それは今の俺の心境をナポリにあてはめているだけなのかも知れない……。


 一度頭を振ってソファーに座り、端末機で今日も自分の銀河を見つけるため、検索を繰り返した。


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