第二回想
惑星オートゥエンティーに来る前、日向陽介は実家に帰省していた。
父親と叔父の遺産相続問題に巻き込まれ、イライラしていたのを思い出す。
――あんな家、もう二度と帰るもんか!
第二回想
ここに来る前に俺が車に乗っていたのは、実家から安アパートへ帰るためだった。
実家に帰省するのは嫌ではないのだが、今回は腹立たしいものだった――。
「陽介、途中で拾ってくれないか」
一人で帰って来いという親父の電話の後、叔父が俺の携帯に電話を掛けてきて、そう頼んできたんだ。
番号を教えた覚えはない。どうせ親に聞いたのだろう――。
「ああいいよ」
電車で帰れば往復で一万円を越える。田舎道を叔父と二人で実家へ向かった。
叔父とはそれほど面識はなかったが、車内で昔の話を懐かしそうに語った。
「あのときは陽介もこんなに小さくて、よくわしが抱っこしてやったんだぞ」
……そんな昔の話なんてされても、覚えてねえに決まってるだろ。
声に出しては言わなかった。
実家の木の扉を開けると……親父は険しい顔で睨みつけた。
「何でお前らが二人揃って帰って来るんだ」
「乗せてもらっただけだ。別にお前の許可なんか要らんだろ」
言ったのは叔父だ。
靴を脱ぎ、ドスドスと家へ上がった。親父はまだ睨んでいる。
「な、何だよ。帰って来いって言うから帰ってきたのに「お帰り」の一言もなしかよ」
親父は何も言わない。怒っているのだけは分かる。だが一体何に怒っているのか、――その時はわからなかった。
今思えば簡単だった。
遺産相続の話だった。
叔父には妻も子もいない。
たまたま住んでいるところが俺のアパートから車で数分程度の近場だった。
俺は就職してから一度も会っていなかったが、叔父は何度も俺に親切をしたと言い張っていたのだ。
少しボケてしまった祖母は、俺の父親が世話をしているのすら分からなくなり、叔父はそこへ付け入った――。
自分が本人はおろか、孫まで世話をしていると信じさせたのだ。
――遺産欲しさに!
叔父と一緒に帰ったのはまずかった。
祖母は初孫の俺を大事にしてくれ、今でも可愛がってくれる。……小遣いまでくれる。
「陽介、また大きくなったねえ」
「中学卒業してからはそんなに変わってないよ」
帰る度に同じ会話を交わしている。
祖母はいつものように財布から五百円玉を出すと、大きな柔らかい手で手渡してくれる。
「陽介、これは五百円玉なんだよ。珍しいだろ。五百円札に比べると価値がないように見えるが、これでも同じ物が買えるのさ。無くすんじゃないぞ」
「ありがとう婆ちゃん」
手渡された五百円玉を大事に財布に仕舞う。ポケットに入れたりすると、お金を粗末にするな! と叱られるからだ。
親父の二言目は耳を疑いたくなるものだった。
「この家が兄貴の物になったらどうする気だ! 少しは考えて行動しろ」
――!
その時は意味が分からなかった――。
「知るか! なんで俺が親父の兄弟喧嘩に巻き込まれなきゃいけないんだ!」
親父とは高校を出てからほとんど会話をしていない。いつも喧嘩になるからだ。
この日もそう言うと、親父は「出ていけ!」と言いやがった――。
「帰って来いと言っておいて、今度は出ていけだと? もう知るか! こんなところ、二度と帰って来るか!」
車に乗って実家を出た。
窓際から祖母と叔父が笑顔で見送っていた。
――思い出す度に苛立ちが増す。
あんな奴ら、家族じゃない!
遺産に餓えた俗物だ!