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82話 ザコ戦

「毎度あり、お嬢ちゃんたちそんなに買ってもって帰れるのかい? なんなら車だそうか?」

キャベツを山の様に買った俺達に、八百屋のおばさんがそう言ってくれたがありがたくお断りする。

「近くにお兄ちゃんが車で来てるから大丈夫です」

「あら、そうなのかい?」

と、袋一杯のキャベツを持った俺とユリアナを見て心配そうだが、俺達はぺこっと頭を下げて離れた。八百屋から離れ、角を曲がったところで俺達はユリアナのバックからイパナの街の氷室にキャベツを移しかえる。

周囲に視線が無いのは確認済みだ、あと由香里ねーさんの件もあったので監視カメラとかも気をつけていたが、この古い商店街にはそれはなさそうだった。


 人の少ない商店街を選んだのは、こういう事がし易いからだ。もう少し自転車を走らせれば、大型のショッピングモールもあったのだが、ちらっと駐車場を見たらここらの人が夕食の買い物にきているのか、車で一杯だったし、近所の高校生とかがフードコートでたむろっていたのを空間認識で見て、面倒なことになりそうなので回避してこちらに来た。


 とはいえ店に陳列されていたちょっとお高いキャベツを棚ごと買い占めた俺達はちょっとした注目の的だった。それ以前にどうやってもこの田舎の商店街には馴染まない、白メイド服の褐色少女を連れた、シロネコジャンバーを羽織った美少女()2人連れだから仕方ないね……

『山の上の方で建て替えた家の子たちかね? あっちの方から自転車で来てたから』

『なんか温泉施設も建てられるらしいよね、あそこ丸ごとだからお金持ちみたいだけど』

『うちの子たちあんな子らが転校してきたら騒ぎそうだけど、まだ静かなもんよ?』

『今日、引越しトラック来てたし、まだあっちの学校通ってるんだろうさ。落ち着いたら来るんじゃないかね?』

『うちのガキどもが色気づきそうで困っちゃうね』

先ほどの八百屋近くてたむろってた奥様たちの会話が弾んでいるようだ。おう、田舎ネットワーク恐ろしい。なんか着々と個人情報がバレていってる感じだ。


 周りに人が居るときは遠慮して話さないユリアナだったが、俺の自転車の後ろに乗って周りに誰もいないといろいろと尋ねて来た。車での移動の時はハンバーガー食べた後はくったり寝てたし、見るもの全て珍しいといった感じでキョロキョロと見回している。

「あれは何のお店ですか?」

と、指差されたのは本やらゲームやら、DVDを売ったりレンタルしたりしているチェーン店だった。あー微妙に説明に困るな。あ、そうだ。

「フローリアが家で見たりしてるあのネズミの奴とか本が売ったりしてるお店だよ」

と、言うとちょっと興味深そうに見ている。そういやうちの本棚片付けてるときも色々興味持ってたな。ユリアナが行きたいなら、そこまで時間は無いけど覗くくらいは良いかなと思うんだけど、この子はワガママ言わんからなあ。

「ゆっきー、見たい!!」

と別の精霊さんが食いついてしまった。そりゃ名前呼んだら出てくるか。でもキミ、昨日パソコンいじってアメゾン見てたじゃないですか。まあ、うちのお連れさま2人とも行きたそうだし覗いてみますか。あまり時間は無いといい含めて店内に入ってみた。


 自動ドアをくぐると、賑々しいPOPや陳列に目を輝かせるユリアナ、そしてポケットの中のフローリアたち。あまりポケットでもぞもぞされると万引きと勘違いされそうだが、それ以上に店内をうろついていた中、高校生たちの視線が男女問わず集まってしまっていた。

最近は慣れては来たつもりだったがが、思春期頃の子たちの視線というのは不躾で気恥ずかしい。何もなってないのにスカートが短くないかとか気になってしまう。

ただ幸い俺とユリアナが2人連れだったためか、直接声を掛けてくる子達は居なかった。けどちょろちょろと後ろを付いて来たりする子や、無断でスマホを向けるヤツらも居たけどね。そういう子の端末は時間停止で固定してやった、ぶっつけではあったが魔法は使えるようだ。フリーズしたかと思って電源を切ろうとしても反応せず泣きそうになっているが、盗撮はあかん。まあ声掛けてきても撮らせてあげないけどな!!


 店内を見てまわり、ユリアナには料理のレシピ本と、目を惹かれていたティーンズ雑誌を買ってあげた。フローリアはセールの所にあったパンダのアニメで満足してくれた。竹やぶが欲しいとか言い出さない事を祈る。あれはあちらの世界に持ち込んだらいけない禁輸物の一つだからな。

「あの、ヒマな時でいいですからこちらの文字を教えてください」

とユリアナに頼まれた。もちろんOKなんだけど、そのティーンズ雑誌興味あったみたいだけど、それの記事の中にあった彼氏を喜ばすHOW TOみたいな記事を朗読させられないために、なにか教材を探しておこうと心に決めた。


 人里では2人乗りで常識ハズレなスピードで走るのもあれなんで、自転車を押しながら畑と畑の間のあぜ道を後ろにユリアナを乗せてゆったりと走る。その胸にはビニール袋に入れられたさっき買ってあげた雑誌が抱かれていた。いつものバックに入れないのか聞いてみたのだが、今は持っていたいらしいらしいので好きにさせておく事にした。

 山の向こう側が赤くなりはじめ。空には家に帰るのかカラスがカーカーと飛んでいる。カラスもこちらに居る時はうるさいだけだったが、久々に聞くと郷愁を誘われる。そんな郷愁を感じる気配は、先ほどから気になっていた後ろから来ていたバンのクラクションに破られた。


「キミら、こんな所トロトロ走ってたら邪魔なんだよね?」

「送ってやるから、乗れよ?」

 昨日乗ったハイ○ースだったので、最初は兄貴か? と思っていたが、近づいてきた車に乗っているのはもう見るからにウンコな男どもだった。

運転手と、助手席、そしてバンの中に2人の男が乗っている。あー、あっちのゴブリンよりめんどくせーなこいつら、時間停止してそこらの川に叩き込んでやりたいがそうも行かない。一蹴するのは簡単だが、どうしようかね。

「乗れって言ってんだろ!!」

と助手席に乗っていた奴が声を荒げ始めるが、ユリアナもまったく動じずそちらを見る事すらなかった。彼女としたら俺が傍にいて危険な事が起こるわけがないという絶対的信頼があるからだろうか?


 道の端をとろとろ走っている俺達の自転車に併走して煽って来る車。その助手席の男の手が伸びてユリアナの持っている袋を奪い取ろうとした。おっと、それは悪手だな、なにより俺が許さない。

と俺がぎるてぃに対して手を打つ前に、その伸びた手をユリアナが払った。彼女としたら大事な物を奪おうという意思を感じる手に容赦を込めなかったらしい。結構な力がこもったユリアナの手に払われて子供相手だと思ってた所に予想外の力に顔をゆがめる男。


 そいつが運転席の男に一言二言声を掛けると、ハイエー○は加速して俺の自転車の前に斜めに停車した。横のスライドドアが開いて2人の男と、助手席に乗っていた男が降りてきた。

「くそ、優しくしてれば付け上がりやがって」

「おら、痛い目見たくなけりゃ車に乗れ」

 自転車を止めた俺たちに男達が近づいてくる。どこらへんが優しかったのか突っ込みたい所だが、その手に持ったナイフや、スタンガン。そしてもう一人が持ってるダクトテープを見るとこいつらが手馴れているクズだと判った。


 自転車を止めて、ユリアナを地面に降ろすと俺はその男たちの車に近づいた。

「へへ、そうそうおとなしくしてればいいんだよ」

と歪んだ笑顔を見せる男のツラに平手を張る。といってもお嬢様みたいにお優しいのではなく、マジで力を込めたビンタだ。少なくとも年末のバラエティのレベルの奴ではない。しかも彼らの目には留まらないスピードでかましたので、ナイフを持っていた奴は脳を揺らされてあっさりと崩れ落ちた。

「……な、テメエ何しやがる」

と何が起ったか判らず一瞬呆然としていたもう一人の男は、スタンガンを俺に押し付けようとしてきた。見た感じ明らかに違法改造されたようなスタンガン。そのさっきまでパチパチ言わせていた筈のスタンガンがスイッチを押す事もできない事に気づく。まあ俺が時間停止してるんですが。

「くそっ」

とスタンガンを地面に投げ捨てようとしたので、すっと動いて空中でキャッチした。

「いらないなら貰いますよ?」

と声を掛けると、目の前にいた筈の俺が急にそいつの側面に動いた事に気付いてこちらに向かって拳を振り上げた。俺はすっとスタンガンを彼のいきり立ったズボンに押し当ててスイッチを押す。その形はギルティだ。

「ぐぎぇっ」

とつぶれたカエルの様な悲鳴をあげて倒れる男。おっとズボンから湯気が出てきたので俺はさっと離れた。


 ダクトテープを持ってニヤニヤしていた男は、あっという間に行動不能に陥った仲間2人の惨状を見て、少しは頭が回るのか二人を引きずってバンの中に乗せた。目の前で俺がその光景を黙ってみているので、焦りまくっていたが。

『あいつはやべぇ、逃げろよっぴー』

そう中の運転手に告げて、バンの扉を閉める。このまま逃走するつもりだろうが、そうはいかんのよ。

斜めを向いて停車していた車を直して、男はアクセルを踏み込んだ。エンジンは異様な音を立てるが車は走り出せない。

『なんだよ、早く出せ。ハンドブレーキでも掛かってんじゃネーノか?』

『いや、掛けてねーよ。こんなに踏み込んでるのに、走らねーんだよ』

と、再度その運転手が焦って力強くアクセルを踏み込んだ所で俺は駆動軸に掛けていた時間停止を解いてやる。もうギアもへたってそうだけど、犯罪者に容赦はしないよ?


 踏み込んでいた分、急に発進する車に驚いてアクセルを抜いてブレーキを踏もうとするが俺はそれを許さない。踏み込まれたまま止まったアクセルと、踏み込めないブレーキに慌てふためく彼らの乗った車はけっこうなスピードで道沿いにあった木に激突した。シートベルトもしてなかった運転手は顔面をフロントガラスに打ち付けて呻き、衝撃で横転した車の中で男達は漏らした小便にまみれて呻いていた。


 あとは家に帰って兄貴に通報してもらおう。しばらくあいつらは動けないだろうし、何より車がイカレたから逃げられない。多分あいつらは常習犯くさいから余罪が出てくるはずだ、きっと持っているスマホとか絶対被害者の写真とか残ってるだろ。今更ながらにあいつらに向けられた視線が気持ち悪くなって背筋に怖気が走った。


「遅くなっちゃいますね、早く帰らないと」

と、何事も無かったかのようにユリアナが促してきたので、俺たちはまた自転車で走り出す。

ちなみにフローリアさんは俺のカバンの中でDVDを開けたり閉めたりして楽しんでいた。君ら平常運転すぎだろ。

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