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81話 インターミッション

「じゃあ、仕入れと仕込み直しの前にどんな感じだったか聞かせてもらえるかな?」

お客さんが全てはけ、店内の掃除と洗い物を済ませて2階に集まった。

本当なら座れるお店の中が具合が良かったのだが、ドアの外からの見えないプレッシャーを感じてあそこでは気が休まらないと判断した。あそこには今何かが渦巻いている。T字型の金属片が真っ赤に染まりながら飛び回りそうなイメージだ。


 うちのプライベートスペースには、まだイスも机も足りないので、エアーマットを引いたら娼館の応援組はこてんとその上にダウンしてあっさりと寝てしまった。

彼女たちは慣れない接客や、高価だと思っているグラスの扱いで疲れきってしまったようだ。おやつをあげようと思っていたが、起きてからにしようかね。


「お好み焼きは、62枚出ました。お酒は78杯出てます」

ルエラが通ったオーダーを記録していたのを教えてくれた。ビールは2樽しかなかったから品切れストップでこの数字。テストでも数杯出してたからギリギリ一杯まで出た感じか。

「お酒は、最初頼まれるお客さんがいなかったのですが、途中で頼まれだしたら爆発的にオーダーが入りました」

1人が試しに頼んだら、それが広まった感じなのか。空間認識でみんなの仕事ぶりは見てたけど、実はお客さんの反応は自分で生で見たいと思って、あえて見てなかったんだよね。

「てことは、もっとこれから伸びる可能性があるってことかな?」

「はい、……お好み焼きももっと多く焼ければ良いんですが」

今の鉄板で、一面全部使って8枚しか焼けないからボトルネックになっているんじゃないかって事か。ルエラは向上心高いなあ。とはいえ、焼き場を増やすスペースは無い。

彼女は不満そうだが、このシロネコ亭に於いては時間7万の売り上げで十分以上の価値がある。なのでそのまま正直にルエラに伝えた。

「別に焦らなくていいよ。ハッキリ言って今のこの売り上げでも上々なんだからさ」

と、言ってもルエラの顔は曇ったままだ。この店を任されたからにはみたいに力が入りすぎてる気がするな。

「商業ギルドへの上納と、みんなの人件費、そして野菜と肉の仕入れとかで売り上げから2割抜いたとしても、純利で銀貨120枚くらい行ってるんだからさ。そんな売り上げてる店近くにあるかい?」

と、聞くとルエラはちょっと考えたあと、ふるふると首を振った。

「でもそれユキさんから提供されているお酒とか材料が考慮されてませんよね?」


 基本的にシロネコ亭は、超どんぶり勘定上等だ。あっちの世界で仕入れて持ち込む小麦粉や山芋パウダーやソースなどをこっちで使って、こちらの通貨に換えていければ良いというのが大元にある。

どうやら、兄貴たちは本気でこちらに生活基盤を移すつもりらしいから、その生活の為に現金収入がある流れを作りたかったんだ。

紙やボールペンを売った様に、あっちの工業製品を持ち込めば、あっという間に大金持ちにはなれそうだけど、派手に輸入業をするのは俺の望む所じゃない。というか、こっちの世界を壊しすぎてエリア神に天罰をくだされそうで怖い。食べ物を選んだのも、これならこっちの人も真似できるし、食べてハッピーになれば幸せな気分な人で闇に落ちる人が減るかも? みたいな思惑もあったりなかったり。だから天罰はやめてください、お願いします。


 このお好み焼き屋も元は屋台くらいでちんまりと始めるつもりだったから、このハイペースな変換は想定以上な訳なんだよね。これで1日平均で6時間稼動したとして1日40万の売り上げられれば将来的に家を買ったり、生活していくには十分以上だろう。


 ちなみにこの店はルエラには話していないが、実は彼女の権利物だったりする。バレないように対外的に俺の店みたいな形にして貰っているのだけど。

こんな大通りに面した店が、火事にあってそのまま放置されてるのは変だな? と思ってマリアさんに動いてもらったら、商業ギルドの方で押えてあったらしい、ルエラの両親が自分達に何かあったらルエラに譲ると証印した文章が残っていた。商業ギルドとしても、空白のままにしておくには惜しい土地なので、ルエラの居場所を探していたらしいのだが。まさか、娼館に匿われていたとは思ってなかったそうだ。


「えっと、それに関しては今日の閉店後にルエラに話すよ」

「……判りました、じゃあ私はお肉とか鶏卵を仕入れてきます。んー」

と、一緒に行く子を探そうとマットの方を見たルエラの表情がちょっと緩んだ。何かと思ってみてみれば、静かだねと思ったら子供たちに抱きついて由香里ねーさんもくったりと寝てしまっていた。今朝もやたら早くから起きてたみたいだし、夜、興奮して眠れなかったのかもしれない。

「それじゃあ、わらわが付き合おうかの。目利きは出来んが荷物もち程度ならできるぞ、なんとか」

と、寝ている子供達を見ながら珍しくリスティが乗ってきた。昨日、車で移動するときに渡したスカーフを頭にささっとかぶって耳を隠す。エルフだって判らなくても普通じゃないレベルの美少女だから目立つんだけど、ルエラ一人行かせるのは心配だから正直助かる。

「ありがとうリスティ、あの呼びつけておいてなんだけど、里は戻らなくて大丈夫なの?」

「今宵、ルエラとの話を聞き終わったら戻ろうかと思っておる。あの風呂にまた入りたいからの」

と言ってるけど多分彼女の狙いは風呂上りに飲んだコーヒー牛乳だろうな。長期保存できる奴だし、今回のお詫びに少しお土産で持たせてあげよう。


「ねーさん、ボクらちょっと買い出しに行ってくるけど?」

と寝ている由香里ねーさんに一応声を掛けたが、まともな返事が帰ってこなかったので子供たちとそのまま寝かせておくことにした。

「フローリアはどうする?」

って聞いたら、ぴゅーっと飛んできて俺の肩に止まった。

「あっちいくんでしょ? ゆっきーと行く」

「それじゃ行こうか」

と、俺は空の樽を持とうとすると、目の前でさっとユリアナが抱えてしまった。

「だめです、私が持ちます!!」

と激しく抵抗するユリアナからなんとか一本は奪い取れた。なんでうちの褐色メイド娘はこういう事には抵抗するんだか。

「こんなの軽いのに、なんで持たせてくれないんですか?」

ってまだ言ってるけど、今の俺よりも背の小さいユリアナに2本もビール樽持たせるのは俺的に嫌。

というか傍目からみたら虐待に見えるわ。


そんな一幕の後、俺達は戸棚の下ゲートを潜ってニュー高坂家の俺の部屋に移動した。

「なんかガタガタしてますね?」

とユリアナが気付くくらい、昨日と違って家の中は賑やかだった。他の人の気配を感じてウエストポーチに逃げ込むフローリア。俺はちょっと空間認識を拡げて、周りを見てみると部屋の外ではもう引越し荷物の運び込みが始まっていた。この家は間取りが広いからあまり養生しないで作業できるからラクそうだね。


 俺は荷運びの邪魔にならないタイミングを見計らってドアを開ける。兄貴しか居ないと思ってた作業をしていた人たちから、驚きの視線が集中するが、俺らは何事もなかったかのように玄関で指示している兄貴の元に歩いていった。

「あのさ、ビールもう空になっちゃったから交換と増量お願いしてもらっていい? 15リットルの樽を6本くらい、いや8本かな」

「ああ、それはいいが。目立ってるぞ? お前達」

って言われて2人でビール樽を軽々運んでいるのを思い出した。もう隠すのも遅すぎる……。おもーいとか小芝居しようかと思ったが、ユリアナにそのニュアンスを伝えるのも無理そうだし、もうさっさと逃げ出そう。


 兄貴から離れて二階にあがり、渡り廊下を渡って倉庫にビール樽(空)を運び込んだ。よく考えたら即交換じゃなくて納入してもらってから持ち込んでも良かったね…… まあ今更だ。渡り廊下からは、シロネコマークの引越しトラックが止まっていた。生前、この辺りには配送に来なかったし、着ているメンツに知り合いや顔見知りは居なかったが、やっぱりもと同僚たちが働いてるのを見るとちょっとクルものがあるね。

「ご主人さまと同じシロネコさんが一杯ですね」

廊下の下で荷物を運んでいる彼らを見ているユリアナ。あ、あそこにあるのは由香里ねーさんのママチャリ・クロウサ号か。カギついてるみたいだし、あれ借りようかな。確か坂を下りたあたりにスーパーやらあった気がする。

「ちょっとクロウサ号で買い出ししてきたいからお金ちょーだい」

と、兄貴に声を掛けたら無造作に諭吉を10枚くらい渡された。多いよ!!


クロウサ号のタイヤの空気を確認して、サドルの高さを下げる。ん、これくらい下げれば今の身長でも漕げるな。ってなんか作業してる人たちからやたらと視線が集中してる気がする。


『あれ、うちの去年配られたジャンバーっすよねえ? 誰かの娘さん?』

『にしたって、家族にも着せたらダメだろ。社用以外で着るなって言われたぞ』

『じゃあ、先輩注意してきてくださいよ』

『嫌だよ!! あんな可愛い子に着るなとかお前言えんのか?』

『もうあれっすよ、写真取らせてもらって今後CMモデルとかでもいいんじゃないっすか?』

『『それだ!!』』


それだ!! じゃねーっ。と言うかシロネコジャンパー着たまま来た俺が悪いのか。でもこれはちょっと今ワケアリ状態だから身から離せないんだよね。

「ユリアナ、そこ乗って」

と後ろの荷台に横向きに座らせて、俺は急いでクロウサ号で逃げ出した。自転車の2人乗りは禁止されているが、これは緊急避難なんです。見逃してつかさい。


しかし、走り出して2秒で俺は自転車をセレクトした自分を呪った。

これミニスカートだと超不安な気持ちになることが判った。こんな格好で自転車乗った事なかったから知らなかったし、知りたくなかったよ……


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