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75話 取捨選択

 必要なものと、不必要なもの。分けようと作業してはいたものの、一年この地を離れた俺は、すでにこちらの物に対する執着というのを失っているようだ。

 いつかこちらに戻りたい、とは思ってはいたものの実際戻って由香里ねーさんや兄貴と再会したら満足してしまった感がある。こちらの世界に戻っては来たものの、おれはもう戸籍上で存在しない人間だもんな。さすがにこのジト目系美少女になってしまった身で、同僚や友達に逢いに行くわけにはいかんしな。


 あ、今着てる会社のジャンバーとか返した方が良いんだろうか? と由香里ねーさんに聞いたら俺がこちらで死んだときの服装は全てクリーニングして返却してくれたそうだ。ってことはこの服とかはエリア神がコピーで生み出されたものだったのか。なら返却する必要はなさそうだ。


 もともと衣装もちでもなかったので、下着やもう着れなそうな服を不燃ごみの袋にぽいぽいとまとめていく作業はそんなに時間は掛からなかった。ジュリエッタは服の縫製などが興味あるらしく、いくつか欲しいといったので紙袋をあげて自分で選んでもらっている。

 俺のUSED服があの世界の縫製に影響を与えていく未来とかあまり考えたくないが、まああちらの服が進化するのは良いことと考える。でもそんなに下着ばかり必要なんだろうか。そういやあっちの世界の男性用下着とか見たことないや……男なのに……


 いつもは賑やかなリスティがなんか静かだなあと思ったら、俺のベットに横になっていつの間にか寝息を立てていた。一人だけ手伝わないとか良い度胸だ(フローリアさんはお味噌枠なのでノーカン)とイタズラしてやろうかと思ったがユリアナに止められた。


「リスティさん、あの街にいらっしゃってる時、あまり眠られてなかったみたいです。ご主人さまに言われたようにルエラさんや私をまもってくださってったんだと思います」

この騒ぎのなか寝ちゃうくらい疲れてたのか。にしても、俺のベットで気持ちよく寝ていらっしゃる。俺が自分用に買った腰に優しい低反発マットは寝やすかろう。兄貴が帰ってくるまでは寝かせてあげることにした。


 その後ももくもくと作業を続けて、時刻は8時を過ぎたくらいか。

「そんなに焦って処分しなくてもいいんだよ?」

由香里ねーさんもぽいぽいと物を処分していく俺を心配してくれるけどべつにムリに捨てようと思ってるわけじゃないんだよね。ただ、なんとなく変な雰囲気を察して心配そうにこちらを見ているジュリエッタや、俺のベットで幸せそうに寝ているリスティを見て俺の心のウェイトがあちらの世界に傾いていると今更ながら実感している最中だった。


 本棚のマンガたちは、口には出さないけどユリアナが興味深そうにしているので、別宅の方に移していく方向で考える。この子は家事と俺の世話を楽しんでいるけど、他に趣味とかあってもいいと思うしな。文字がわからないだろうから俺が読んで教えてあげるのも楽しそうだ。



 兄貴が車を借りて帰ってきた。借りてきたのはワゴン車だけど、○イエースだったよ……。このメンツでハ○エースとかいかんでしょ。兄貴は俺の抗議はよくわかってなかったようだが。兄貴と他は小さいのばっか4人だから普通のワゴン車で十分だったと思うんだけど。

「その机ごと運んだ方がラクじゃないのか? こっちで十分魔法が使えるならいいが」

と言われて、俺より兄貴の方が深く考えてたことに打ちのめされた。確かに机の下にゲート繋いだから、それごと運んだ方がラクだわ。くそ、なんか世界への適応力で既に負けてる感が……。


 兄貴の運転で例のセカンドハウスに移動することになった。俺は、一応試してみたくて運転席に座らせてもらったが、頑張って足を伸ばしてもクラッチとアクセルを同時に踏めない事が判った。これじゃあギアチェンも出来ないな。そもそもハンドルの上からなんとか頭が出るくらいの背ではどうしようもないか。ちなみに俺の机は兄貴と由香里ねーさんが軽々と2人で運んでいた。俺も持ち上げられそうだけど、見た目的にマズすぎるのでこちらの世界ではもっともっと自重しておく事にする。

 フローリアは初めてこの家から出ることを許されて、ちょこっと庭のあたりを飛んでいたがすぐ戻ってきて俺のウェストバックに飛び込んだ。緑が少ないこのあたりの住宅地はあまりお好きではないようだ。

「いや、フローリアちゃんと買い物とか行ったりしてたから、珍しくないんだよ」

って家から出したらダメだっていったじゃんか由香里ねーさん……


 ちなみにあちらの世界組は、由香里ねーさんの用意していた普通の服に着替えた。もうこちらに来ることを想定して用意してくれていたらしい。リスティは俺より少し背が高い程度なので、俺の服(女の子モノ)を流用。ただジュリエッタは想定外のお客さんだったので準備されておらず、大切にしまってあった由香里ねーさんのセーラー服を着ている。着替えたジュリエッタを見ていたらなんかモヤモヤとする、なんかゆるふわ金髪縦ロール少女にセーラー服とか少女マンガかよと思わざるをえなかった。

 金髪セーラー服に、褐色白ワンピース少女。エルフ耳のジャンパースカートの美少女どもにシロネコジャンパーを手放さない俺である。どこの多国籍アイドルグループかみたいな派手な集団になってしまった。目立たないように着替えたつもりが、もう変な集団すぎて笑いがこみ上げてきそうだ。兄貴も着替えた俺達の微妙な違和感を見て苦笑している。

「さっきまでの格好でコスプレって言い張ったほうがマシだったかもしれないな」


 馬の要らない馬車みたいなものだと説明して、皆を車の中に押し込んだ。兄貴がエンジンを掛けると久々に聞くアイドリング音に心が騒ぐ。やっぱり運転してえ……


 そろそろお腹がすく頃であったが、由香里ねーさんにご飯を用意してもらわなかったのは俺がアレを食べたかったからだ。身体に悪いとか、中○産とかもう気にしない。それくらいの肉体抵抗力は持ってるからな。

「ゆっくん、折角こっちに帰ってきたんだからもっと美味しいもの食べればいいのに」

いいんだよ。あっちに似たものはあったけど、かえってそのせいで俺は切望してたんだ。


ドライブスルーに車を入れてもらい、目が欲しくなってしまってやたらと注文してしまったのはまあ仕方ないよね。後ろの窓を開けて受け取ったらバイトの店員さんが俺らを見て目を見開いていたが。SNSには乗せないようにね!!


「このシュワシュワする飲み物は面白いの、この塩辛い芋が進みすぎて困るわ」

「これ携帯食にも良さそうですね。お肉は何を使われているのでしょう」

「これがご主人様の……」

 リスティもジュリエッタも始めてみる食べ物をおっかなびっくり食べている。ユリアナは分析するように少しづつ口に運んでいろいろ確かめている感じだ。彼女なら俺が望んだらいつか再現しちゃいそうで怖いわ。

 これは頼んだらすぐ食べられるのがウリの食い物だからあっちの屋台の食事みたいなものなんだ。だから構えないで食べてねと説明しつつぱくりと熱望していたブツに齧り付く。昔の身体ならがっつりいけたが、この身体だとがっつり食べられないのがちょっと悔しいが、俺はチープで、そして変わらない味のダブルハンバーガーを味わう。

俺、あっちの世界も好きになってきたけど、やっぱ俺こっちも好きだわ。ご飯でそう思うあたり、魂は日本人だなあと実感した。ファストフードで感じるとかちょっと安いなと自分でも思うけど。



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