7話 森を駆ける
先ほどのみみずさん2匹は、彼女に説明をして謝り土に埋めてきた。勘違いとはいえ、み+みずを持ってきてくれた彼女に飴ちゃんをまた1個進呈。
その上での交渉となった。
「俺の名前はユキヒロっていうんだ。ちょっと道に迷っちゃってね。頼むから水の場所を教えてくれないか?」
「それで水が欲しかったのね、ユッキー。良いわよ、ハイ」
「えっと、そのユッキーって俺のこと…だよね? できれば他の呼び方が良いんだが、お兄ちゃんとか……」とと、ちょっとどもってしまった。小さくても女の子だからちょっと緊張が。
って差し出されたのは今度は木の葉の上に溜まった露だった。ああ、なるほど彼女の体の大きさからすれば十分喉を潤せるのだろう。
言い方を改め、川か池みたいな水がたくさんある所を教えてもらうことにした。
「えっと、じゃあこっちの方に水がざーざー一杯流れてる所があるわ」
と深い森の先を指さした。
「ありがとう、じゃあこれお礼に」と先ほどのお詫びと合わせて2個の飴を渡そうとすると、
「えっと、あとで食べたいから持ってて?」とお願いされた。
おや、付いてきてくれるつもりらしい。
確かに、この辺りの地理や動植物に詳しくない状況下、暗くなる空を考えた結果、まずは暗くなる前に水場への移動する事が重要だろう。暗くなってからの水場への移動はさまざまな危険が予想された。
方向は時空魔法の空間把握で間違えないとは思うが、この暮れ行く空の下ロスなく、そこに辿りつくために、案内人が居ればベストだと判断した。
「じゃあ、そこまで案内してくれるかな?」
「えへへー、いいよー」と彼女はにこにこと笑みを浮かべながら頷いた。そして、くるくると俺の周りを飛び回るのだった。
「えっとねー、川はこっちだよユッキー」
俺の肩に座り、耳たぶをそっと持って妖精ちゃんが囁く。非常に可愛らしいんですが、その呼称はやめてともう一度頼んだがダメだった。もう彼女の中で俺の呼称は確定済らしい。
なんか斧で叩き切られそうで怖いのだが……。
そんな俺は彼女を肩に乗せて、森を疾走していた。
走り出して判ったのだが肉体能力はかなり上昇していた。女神さまの説明で、体にマナが充填されれば肉体が活性されると聞いてはいたのだが、後ろ走りでウサギン・ナット氏に勝てるのでは? という脚力に自分でもびっくりだ。
ついでに空間把握によって進行方向の木々の枝ぶりや地面の凹凸が判別できるので、まるで草原を駆けているかのようなスピードで森を駆け抜けていた。
肩に乗っている彼女はなにやら上機嫌だ。自分で飛んだ方が速いだろうと思えるのだが、乗り物に乗っているのは普段と感覚が違うらしい。
「あはは、すごーい。サラマンダーより、ずっとは」
おっとそれ以上はいけない。
なんでこんな言葉に変換してるんだ俺の脳内語彙変換回路は……。この子がそんな元ネタを知っているわけは無いだろうに。
もしかして無意識に彼女をまだ恐怖の対象としてるのだろうか。
しばらく森を駆けていると、次第に植生に変化が見られてきた。
周りの樹木が幹が太くて背の高い木ではなく、背の低い木々に変わってきたのだ。かすかに水が流れるような音が聴こえてきて、ばっと視界が開けたかと思うと森がひらけ、そこにとうとうと豊かに水をたたえた川が流れていた。
妖精ちゃんにありがとうと言葉をかけると、俺は即座に川にかけよって両手に水を掬った。冷たくて気持ちいい。一瞬寄生虫…とか頭によぎったのだが、何より体が水を求めていた。そしてこのマナで強化された体にそのような虫如きやられる訳は無いと確信していた。
ごくごくと喉を潤し、空いてたペットボトルの中身を軽くゆすいで水を汲もうと水面に映った姿に驚愕した。
「……誰、この美少年…」
いや、つい口走ったが本当は知っていた。まあ、美少年は言いすぎだったがこの中世的な顔つき、俺があの頃猛烈に嫌いだった顔だ。
そこにあったのは13、4歳くらいの頃の俺だった。
この頃は預けられて居た家も嫌い、自分も嫌い、寄ってくるホモも、小動物的に構おうとする女子も嫌い。全てを嫌った俺はテンプレ的な不良になっていた。
髪もバリバリにセットして、4649していた時代だ。マジで黒歴史。現存する写真は、中学の卒アルくらいか。全て同級生から奪って焚書にしたいレベルだ。
それまで気にしてなかった体つきも確かめてみる。最近緩んできていた腹回りどころか、全体的に細いというかか弱くなってしまっていた。意識してなかったが背も縮んでいるようだ。ズボンの裾が余って土で汚れてしまっている。最近はすっかり硬くなってた髪質もさらさらに戻ってるみたいだ。
肉体の活性化ってのはこういうことも起こるのか。まあ説明ちゃんと受けてないから、判らないことだらけな訳だが。
水を飲んで容姿に驚き、それも落ち着いた。さて、これからどうするかな。と少し考え始めることにした。
妖精ちゃんは報酬の飴ちゃんの包装をちょっと剥いて中身を見てうふふと微笑み、また包装紙をもどす作業を繰り返してた。
まあ、幸せそうでなによりです。




