69話 野営地で
「報告、連絡、忘れないようにします」
俺はトイレの中で土下座という、俺の人生の中でもワーストいう状態にあった。が、スーパー自業自得であり、納得せざるを得ない状況であった。
「主は、いつもわらわに心配をかけおって……」
いつも怒らせてばかりいたけど、自分で泣かせてしまったのは初めてであり、リスティの心も伝わってきてマジメに反省せざるを得ない。あー、でも何時ものエルフ服じゃ目立つと思って、ユリアナの服を借りてきたのか。ゴスメイドエルフ巫女とか属性盛りすぎだけど、なんか普段の装いと違って、なんか可愛いな。
「わらわは怒っておるのじゃぞ!!」
リスティの頬が紅潮して泣き笑いの様相になっている。俺は彼女が許してくれるまで、トイレ土下座を続けることになった。いやあ、舐めれるくらい綺麗にしておいてよかったね……。
リスティから開放され、俺は夕食の準備の方に合流した。
「えらい時間かかったんだな。まあ言われたとおりに野菜と肉は適当にきっておいたぜ」
と双子組のアニキのミルさんが、お願いしていた作業を終わらせて待っていた。
「じゃあ、さっくり作っちゃいましょう」
切ってもらってあった野菜は軽く塩でゆがいて温野菜サラダにしよう。鶏肉はいためた後に、残った野菜と合わせてスープに仕上げていく。
「えらい手際いいなあ……、俺の妹に半分でいいからその腕を分けて欲しいわ……」
と、ミルさんは言っているが。俺からすると、彼女の男らしさの方が羨ましいんだけどなあ……、人生ってままならないもんやね。
料理が完成したと皆につたえ、食堂で夕食となった。俺の料理を一口くったカーネル氏が開口一番褒めてきた。
「ほう、あの短時間でこの味を出すとはなあ。お前冒険者より料理屋とかの方がむいてるんじゃないのか?」
いや、料理屋はスペシャリストがうちには控えてるのでいいです。しかも、その鶏のスープの味はほぼ中華三千年の歴史が生んだなにに使ってもそれなりに美味しくなっちゃう魔法のペースト、ウェイ○ーさんのお陰だ。高坂家では俺がチャハーン作るときくらいしか使わないのに、味が変わるというウワサを聞いて買い込んだ缶が家にまだストックされている。
「しかも、あのあー飯時になんだがトイレは一体なんなんだ? 新品と取り替えたのかと思ったぞ」
あーあれは暴走の結果なんで忘れてください……。口を俺にむけているのはカーネル氏くらいで、皆もくもくと食事を勧めている。あ、でもこういうのやっぱいいな、これをルエラも楽しんで欲しいものだ。
「では、この後は基本就寝、野営ではないから見張りとかは立てる必要は無い。明日からは楽しい遠征になるからしっかり休んでおくように」
とカーネル氏が解散を宣言する。俺は皆の食器を集めて、これから洗いものだ。最近ずーっとユリアナに良いですから座っていてくださいと言われて触らせて貰えなかったからな。ミルさんにもボクがやりますから、と遠慮してもらった。しかし、さあ洗おうと思った皿たちは見事に綺麗だった……。
みんなドレッシング一滴残さず食べるとか、ありえないだろ。おれはさっと水洗いし、いきりたったやる気の振い先を見失って悲しみにくれた。
あてがわれた部屋に向うと、もう既にベットの一つでルイさんががーがーといびきを立てていた。
フードをおろし、ツインテも解いたメイムちゃんが、自分のベットの上で髪をすいていたが、俺が部屋に入ったのが判ると、ぱっとフードを被る。あー、もう昼やらかして株爆下げしちゃったし、この際直接聞いてみるか。
「……耳隠してるのはなんでなの?」
そんなに綺麗で可愛いのに……とモノローグ駄々もれはなんとかシャットアウトした。
しばらくメイムちゃんは、黙っていたがぽつりぽつりと話し出した。
「人族は猫人族をさらいます……、そんな人が全てじゃないってみんな言うけど、じゃあなんで姉は帰って来ないんでしょう……」
メイムちゃんのお姉さんか……、彼女の容貌を考えたらちょっと想像しただけで綺麗な人なんだろうなあと想像がつく。
彼女は、俺からの答えを求めていないようで、彼女はぱたりとベットに倒れこむと、頭から毛布を被ってしまった。俺もちょっと焦りすぎたかな、と反省しながら空いているベットに横になった。しっかりとメイムちゃんが藁を叩いてやわらかくしたのであろうベットは、なんとなく寝心地が悪かった。
「本来ならば東の森の先に行く予定だったのだが、ギルドの方で立ち入り禁止になってな。北東の森を目指す」
と、次の朝、研修班はカーネルさん先導の元イパナの街を出ることになった。
「立ち入り禁止ってなにかあったのか?」
「なんでもオーガが出たって話だ。専門のチームが派遣されるから、それまでは東の森には近づくなと都市連盟からもお触れが出たようだな」
リックが最後尾を歩くフォルドに近づいていって尋ねていた。
「オーガかあ、相手にとって不足は無いな。研修でそれ倒しに行こうぜ?」
と皆に問いかけて、一斉に却下されていた。ははは、残念。まあ多分オーガが出たってのはブラフだと思うぞ? リック。
実際の所、あの東の森を封鎖するための時間稼ぎだろう。人を頭から喰らうという人の2倍くらいの背を持つ化け物らしいが、殆どおとぎ話レベルの話しかない。悪い子はオーガが喰らいにくるよとはこの世界で子供を叱る定番らしいしね。
帝国へと続いているらしい東の道を進み、あのミリ草のあった森を南にみながらドンドンと東に進む。研修ということで、いろいろなケースを想定しカーネルさんの指示のもと、隊列を変更したりスピードをあげて進んだり、テントを使わずに野営などをする、川の無いところでの水の確保の仕方などいろいろと知識と叩き込まれた……けど、ぶっちゃけこういう話は俺には必要のない知識なんだよなあ。俺はあの夜の会話以降なんとなくよそよそしくなってしまったメイムちゃんを視界におさめつつ、ぼんやりと歩くだけの毎日だった。
「ここが今回の野営地だ。ここを拠点としてキャンプを張り、明日帰路につくことになる」
とカーネルさんが、示したのは、街道を外れて北に進んだところにあった深い森の入り口だった。
「飯は尽きたという設定だ。自分の食い扶持は自分で稼いで来い、ゴブリンくらいはよく見つかるだろうが、あれの肉は臭いからな。あんなのを持ち帰ったヤツは一人で食わせるからな」
うえぇ、聞いた事無いけどあんな化け物の肉を食うやつが居るのかよ。あれ肌緑だぞ、クロレラか!! って。俺ならあの豚に似たオークだって勘弁してほしいんだが。
全員で一斉に入ってはここを守る人間が居なくなるから、とまずは双子たちが森に向っていった。今日は2人とも弓を持っている、森の中の動きをみるともともと狩人だったのかも知れないな。
兄さんの方は食べられる草の実や、野草を集めている。ってフローリアの食べる、あのすっぱい実がみえるんですが……それ喰うのか? その間に妹さんは木に止まっている鳥を数羽見事に狩っていた。なかなか豪快なおねえちゃんなのだが、弓を扱いは繊細でかっこいいな、あの巨乳弓扱うのにジャマそうなんだけどなあ。
「じゃあ次はお前ら年少組か……くれぐれも無茶苦茶するなよ?」
やっぱり俺に向けてそういう事をいうのかカーネルさんよ……。
「ユキ……あの魔法だけは」
「あの……私は森だとあまり役に立たないかもなので」
「……とりあえず行こうか」
さて、狩人組は華麗に鳥や木の実などを集めてきたが、俺らはどうしようかね。認識を拡げていって、適当な獲物が居ればいいけど。あ、川が流れてるな。魚を取ろうか……川をさかのぼっていくと池の周りのすこし広く草が生えたエリアがあるな。そこであのユリアナが言ってたランドタートルとかいうカメが草を食んでるのが見えてきた。あれ結構美味かったからアレでいいかな……。ってオイオイ、こういうのをフラグっていうんだよなあ、と俺はため息をついた。
「おう、ユキ急に立ち止まってどうしたんだよ。ションベンか?」
「あのリックくん、そういうのは……」
「あー、あのさ。ちょっと先にキャンプの方に戻っててくれないかな? うん。ちょっとお腹痛くなっちゃったから、ごめんね」
と2人に話しかけて、俺は森の奥に向けて走り出した。
「走ると漏らすぞーってイテェ」
と、リック殴り代行してくれた杖を構えたメイムちゃんに感謝しつつ、俺はスピードを上げる。
「まったく変なウワサを立てるから、影が差すんだってば……。エリンのおっさん、貸しだぞ?」
視界の先に見えた、ランドタートルを引きちぎり口に運んでいた大きな影。
あれは人里に近づけてはいけない、そう判断して森を駆ける。伝承よりも遙かに大きそうなオーガをどうするか考えながら。




