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68話 罪と×

「あー、今回のメンツはなかなか個性豊かだな。頼もしい……」

カーネル教官、そこで俺を見つめながら、頼もしいで言葉を濁さないでいただきたいのだが……。


 訓練場に併設された、研修施設に移動する際、藁人形のそばを通ったのは、カーネルさんが惨状を確認したかったから意図なのだろうか。


 アルガードの迷宮内で使える武器を、と考えたこの水蒸気爆発を用いた杖風コルクガンもどき。実戦では中にチタンでできたベアリング用の玉を入れるのを想定してたんだ。今回のだって、本当のところは、ぽこんと当たって笑いを獲るためのジョークグッズ扱いのつもりだったのだが、かなり計算を間違ってしまったようだ。


「……ユキ、俺が前で剣振ってるときは、この魔法絶対に使うなよ?」

と笑いを取るつもりが、リックに乾いた笑いを返されてしまったというね。


 ただ、良い方の誤算だったのが、

「私、里ではみんなにすごいすごいって言われてたんだけど、もっと凄い人が居たんですね!!」

と、目を輝かせたメイムちゃんが俺の後ろからぴょんぴょんしている事である。


 俺は振り返って抱きつきたい衝動を必死に抑えながら。

「ボクなんて、凄くないよ?」

と、平静を装って歩くのが精一杯だった。

 

 嬉しそうに跳ねるメイムちゃんの、その動きで、ぱさっとローブのフード部分がずれ落ちて、そこに隠されていた黒一色のネコ耳がお見えになった。な、なんと黒髪ツインテールにネコ耳とか。どれだけの萌え力を秘めているというのか、このメイムちゃんは……。フードが落ちたことが判ると、焦ってフードを被りなおして周りを確認してるところを見ると、耳を見られたくないのかもしれない。



 研修施設は、二階建ての建物で1階に講習室と、キッチンと食堂。2階が4人部屋の宿泊施設になっているようだ。

「ここで今日は講義を行なう。ちなみに特別な事情でもない限りは、この敷地内から出ることを禁じさせてもらう。講義以外については、皆で話し合って行動すること。これも研修の一環と思って欲しい」


 俺達は講義室に移動して、まずは座学による講義が始まった。最初はギルドの設立とか、その理念とかの話であったが、意外とカーネルさんは中々話上手で面白く聞かせてもらった。あの光る魔道具によるスライドもあったのはちょっと面白かったね。


 この世界の冒険者ギルドというのは、この都市連盟が出来る前にアルガードから広まっていったものなんだとか。各都市が分かれて統治されていた時代があり、そこを渡る商人たちが、おのおの護衛などを雇っていたが、報酬がきちんと払われなかったり、護衛たちの自信の信頼性などからのトラブルがあった。あの駅馬車の一件の様に、護衛が夜盗になるなんて日常茶飯事だったらしい、世も末だが。


 そこで、冒険者たちの身分を保証し、成果に対して報酬をきちんと定めて支払われるシステムをなんたらかんたらって感じらしい。まあ、こんなの聞き流した所で、問題ないだろ。そんな事より、この目の前のイスの下で静かにゆれている黒いしっぽの方が重要だ。


講義の議題は、旅に必要な知識や、ここ付近の地形とかそういった話題にシフトしていったが、俺はカーネル氏の喋りを左から右に聞き流しながら、午前中一杯、ゆれしっぽを楽しませてもらった。


「それじゃあ、どれだけ聞いていたかテストやるからな?」

え、何言ってるの、この教官!? 詰め込み型のうちの国の教育じゃあるまいし、こんなの覚えても意味ないじゃん。


「多分、こういった情報に意味はない、とか思っている者もいるだろうが。これは一段上の冒険者になるための講習だ。状況をきちんと把握し、報告する、これがギルドの仕事だ。俺の話を必要ないと思っていたモノたちも居るみたいだが、情報の重要性の判断なんてお前らがしなくていいんだからな?」

くそ、聞いてなかったの判っているのか、俺の方を見てニヤっと笑うカーネル指導官。くそ、イケズめ。先にテストやるなんて聞いてたら俺だってもうちょっとマジメに聴いたのに。


 皆にペンと樹皮紙が配られて、あの魔道具スライドで問題がスクリーンに映し出された。くっそ、思いつきかと思ったらマジで用意されてたのか。うわ、1問目からわかんねえ。皆はけっこうスラスラと答えを書いていくなか焦る。


 判らなければ人に見せてもらえばいいじゃない(マリー)


 俺はもうなりふり構っていられず、空間認識で皆の樹皮紙を覗いて答えをピックアップして書き写していく。誰か一人のをマネしてバレる危険を避けたつもりだ。


「おう、そろそろ集めてくれ」

というカーネル氏の呼びかけに、意外にも立ち上がって答えたのはあの斜に構えた感じのフォルドの兄ちゃんだ。後ろに座っていたフォルドさんは、皆の紙を持ってカーネル氏の所に持って行く。

「で、どうだった?」

「ああ、みんな割とマジメみてーだな。一人をのぞいて」

と笑いを堪えるように答案を渡している。

「あー、説明が遅れたがフォルドは今回の指導官の一人だ。こういう状況での動きを見たいって皆に混ざってもらっていた訳だが……あーそこの問題児。なんでギルドの創始者が俺の妻なのか教えて欲しいんだが?」

「お前俺に気付かせずに盗み見るとか、スカウトの能力高そうだな」と通りがかりにぽんぽんと俺の頭を叩いていくフォルド。そして皆の視線が俺に集中する。


「答えの正解不正解問わず、冒険者としての姿勢を問うための試験だったんだが。そういう意味ではお前失格な?」

とその言葉で午前中の講義が終わった。さっきまで尊敬の目でみていたメイムちゃんの悲しそうな瞳が俺の心を貫いて、俺も終わった。


 今日の教訓がまた増えた……、カンニング、ダメ絶対。


 午後からは、講義ではなく、皆であつまってのディスカッションとなった。この宿舎での部屋割り、仕事の割り振り。ちなみに俺は、まずペナルティでトイレ掃除という別枠で光栄なお仕事を頂いた。あとは食事担当に振られて、自信のなさそうな双子のお兄さんの方のミルさんとやることになった。残りの女性のルイさんは、ぶった切る、焼く!! みたいな男の料理以外できないと宣言して兄貴の方と交代になった。リックとともに燃料の薪割りや水運びなどに。メイムちゃんも背が低くて料理もできないというので、今日はベット作りや、雑用に回っている。


 そして俺は今、えらい香ばしい匂いを放つトイレの前に立っている。こびり付いているモノとかはないが男女共用故か、木材に匂いが染み付いてしまっているようだ。こんなトイレをメイムちゃんに使わせるわけには行かないよな? 先ほど落ちた株を取り返すチャンスだ。


 俺はトイレの板材に局所回帰をかけて行った。何度もマナが切れそうになって倒れそうになっても厭わない。フローリアは、マナの動きに気付いてウェストバックから顔をのぞかせたが、

「やー」

と言って閉じこもってしまわれた。何時もなら手伝ってくれるのに、マジ冷たい。


 しばしの格闘ののち、俺は力つきてトイレの床に寝そべっていた。しかし、悔いはない。もう作りたての状態にまで戻したこの便器だったら抱きついてキスだって出来るだろう。しかし安寧の時は短かった。掃除中の札を貼ったドアを開けられてしまったから。


「……我に留守番させて、心配させて……何をやらかしているのか、説明してくれんかの?」

 心配して駆けつけてしまったらしく涙目で怒っているリスティにこの状況を上手く説明できる自信はなかった……。

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