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6話 ファースト・コンパクト

 ふわふわと浮かびながらくるくると俺の周りを回っている妖精さん。ニコニコとした笑顔は変わらない。アゴに人差し指を当てたり、匂いを嗅ぐようにすんすんしてたりする。

目の前にミニマムとはいえ少女の裸体がある。普通ならエサを前にした犬のようによだれを垂らし、心のスマホを連写モードにして脳内に刻みこむ。そんな状況なのだが……。


 正直俺は恐怖していた。

最初の遭遇時こそ、驚きとともにその可愛い容姿に目を奪われてしまったが、その後理解したのだ。

この存在が、現状の俺より遙かに強い強者なのだと。


 まずマナの存在感が圧倒的だ。

先ほどまでは感知できる範囲にそれなりの存在が居なかったので判らなかったが、どうやら俺は他の存在のマナ総量を感じ取れるようだ。その上で、俺のマナ総量が兎ドーム3個分だとすると、この羽少女は軽く見ても、兎ドーム10個分くらいのマナを感じる。

これが某野菜民族みたいにマナ総量変化型とかだったらもう目も当てれない。


 そして俺の生命線の時空魔法。全俺の待望であった時間停止。これは術者が視認できる生物、無生物問わず、すべての物質・任意の固体を、世界の時間軸から切り離すことができる魔法だ。

時間軸から切り離された物体は俺が解除しない限りすべての活動が停止する。基本的に物理干渉不能だ。マジ無敵。

しかし、自分のマナ総量を越えない限りという但し書きがついてしまう。まさかの異世界ファーストコンタクトからの詰みである。少し女神さまを怨みたい。


 あとはこの目の前の少女が肉食系ではなく、もしくはご飯食べたばっかで、

おなかいっぱいな事を祈るしかない。草原の王ライオンだって、食後にインパラが目の前通ってもガンスルーするしね。

可愛い容姿なんだから怖い存在な訳がない、なんて根拠の無い妄想も今は保留だ。可愛い姿で人を幻惑して人を喰らう魔物の話なんていくらでもある話だ。特にここはまったく知識のない異世界なのだから。


 口を開いて威嚇だと思われるのも恐ろしかったので、俺は借りてきたネコ状態。

いくつもの脳内会議をこなしたが、脳内の無能内閣は現状維持!というどうしようもない結論しか出さなかった。嵐が過ぎ去るのをじっと待つしか……。


 って彼女が俺のポーチに近づいてフンフンスンスンと匂いを嗅いでいる。

もしかして! と、彼女を刺激しない様にゆっくりと手を動かしてポーチのファスナーを開く。


 ゆっくりとソレを取り出して包み紙を向いて手のひらに置いて差し出す。俺の命は、このUMA三角糖のフルーツキャンディー1袋156円(税別)に託されたのだった。


妖精ちゃんがぁ!!

近づいてぇぇ!!

妖精ちゃんがぁ!!

手のひらのうえぇぇっ!!

匂いかんでえぇっ!!

妖精ちゃんがぁっ!!!!

・・・つっ近づいてぇっ!!!

妖精ちゃんがぁ舐めたぁぁーっ!!!!


 もう脳内絶叫である。だが、許して欲しい。ワンパンで吹っ飛ばされそうなゴリラと同じ檻に入れられて、ずっと見詰め合ってた様なものだったのだ、小一時間。


あ、いや持っていってくれていいんですよ?

妖精さんは手のひらの上に腰掛けて、両手で飴を持ってペロペロしておられる。どうぞ持ち帰りOKなんで、折り詰めないっすけど。


 しかし、ここからがまぁ長かった。人には小さい飴であったが、彼女にとってはメガバーガーも真っ青の大きさである。少し舐めては嬉しそうにぱたぱたと周辺を飛び回り、また俺の手のひらに戻ってきてチロチロと舐める。

手首の辺りに飴を置いて、手のひらの上にうつぶせに横たわって、目の前の飴をにこにこと眺めている時間も長かった。

時計が無いので正確には判らないが、数時間かけて彼女は飴を楽しみ尽くした。

ちなみに手のひらもペロペロと舐められてしまった。初めての経験でした。

…ええ…ちょっと起っちゃいましたね……。


 彼女は満足したのか、俺のポーチの上に座ってニコニコしている。ここに来てやっと彼女には俺に対する害意はあまりないと判断した。

ないと思いたい。ぷりーず。


 緊張した時間が長かったのか喉が渇いた。俺も飴を舐めようかと一瞬考えたたが、これは彼女との交渉材料になり得る物で、かつ数に限りがあるものなのだ。なるべくなら温存したい。

そこで俺はコンタクトを試みる事にした。飴を食べるんだ、水だって飲むに違いない。彼女がここに住んでいるなら水場を持っていてもおかしくない。


 近くの葉っぱに腰掛けた彼女に対して川、池、水を飲むなどのゼスチャーを試す。小首をかしげてる姿はなんか可愛らしいのだが、どうも伝わった感じがしない。異世界交流失敗か?


「マジでみ、みずとかどこかにないかな」

乾いた喉から干からびた声がこぼれた。

すると彼女はぶんぶんと首を縦に振ると、森の中に飛んでいった……。えっもしかして言葉通じるのか?


 彼女はなかなか帰ってこなかった。だんだんとひりついてきた喉にイラついて、俺は汚れるのも構わずにその場に横になって上を見る。

うっそうと茂った木々のスキマから覗く空が少し暗くなって来ているのが判った。夜が近いのだろう。


 しばらくたってまた知覚範囲内に彼女が猛スピードでこちらに向かってきていた。土に汚れた体に満面の笑み。


 そして両手にみみず。


って違う、そうじゃない。どういう言語能力だよ。なんでそんな風に伝わったよ!!

なんて問題はそこじゃなかった。


 目の前にうにうに動くみみずを俺に差し出してニコニコと笑っている彼女。さっきまでキラキラしていた体がそこらじゅうドロだらけだった。

そんな好意にあふれた施しをどうお断りすればいいのか。俺は頭を抱えた。


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