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64話 コロニー

 この世界では、別に重婚は禁止されていないそうだ。旦那が妻を多く迎え入れるだけの度量を周囲が認めさせられる力を持っているかどうかというだけの話らしい。迎え入れた妻たちを養える財力や、その器量など、これは妾を取るのも同様なようで、要は相手の人生を抱える度量を計られると言ったところか。

「私はルエラを不幸にさえしてくれなきゃいいけどね。まあ、今朝のルエラの表情見てたら心配はいらなそうだけどね」


 さて、ここで俺を振り返ってみると、公称したくない神の御使いもどきの女装駆け出し冒険者である。うむ、自分でもわかります、これはアウト。ジュリエッタも、リスティもこの世界における重要人物であるからなあ。ここは、彼女たちに見合う程度には成りあがっておいた方が良いのかもしれない。彼女達と見合うってどれくらいのレベルなんだろう、ってリスティ勇者の嫁とか言ってたような…… うわ、ちょっとキツいなそれ。


 マリアさんと別れ、ギルドの前にたどり着くとそこには二人の男性冒険者と、犬耳受付嬢のユズさんが今日は軽装の皮鎧姿で待っていた。髪の毛は後ろにポニーテールにまとめ、皮鎧の後ろから今日はしっぽが見えていて、ゆらりゆらりと風に左右に揺れていた。背中に背負ってるのはメイスっていう棍棒だろうか、なかなかゴツい武器をもっていらっしゃる。

「おはようございます、ユキさん。本日は私とこちらのC級冒険者のジュウドさんとD級のフィルさんが同行させていただきます」

「ジュウドだ、今回の護衛と情報の確認を請け負っている。よろしく」

とまっすぐにこちらを見据えている30代くらいの男性。この髪を短く刈り込んだ精悍そうな鉄の胸当てを付けた人がジュウドさんか。腰から下げた片手剣を使うのだろう。一目みて強そうな感じだ。


「俺はフィルだ、このイパナ周辺で化け物狩ってる。まあ護衛だけど、ジュウドさんがいりゃ問題なさそうだけどな。お嬢ちゃんよろしく頼むぜ」

ちょっと軽そうなお兄ちゃんだが、その値踏みするようにこちらを見ている目はなかなか鋭い。その見た目より信頼できそうな気がする。ちなみにフィルさんは弓と矢筒を背負っている。

「東の森と聞いたが、お嬢さんたちの足でも行って確認して帰ってくるのに夜までは掛からないだろう。俺とフィルが安全は保障するので君らのペースで歩いてもらっていいから先導して貰えるかな?」

「はい、判りました。では行きましょうか」

 俺達は街の北門を抜けて、東へと向うことにした。朝のギルド内をちょっと覗いてみたかったけど、また今度にするかね。


 北門を抜け、街道の別れ道を東に進む。昔はここが帝国領への交通路だったんだろうが今は通る人はほとんど居ない。今日はフローリアは男性冒険者が居るせいなのか、ウェストバックから出て来る気がないようだな。ちなみにユリアナは嬉しそうに俺の後ろを離れず歩いている、いつもより妙に機嫌が良さそうな理由が朝のアレかと思うとちょっと複雑なのだが。


「あー、すまんユキさん。君らのペースでと言ったが見誤っていたようだ。すまないが少しペースダウンしてくれ」

と街を出て小一時間くらいたった頃、掛けられたジュウドさんの声に意識を向けると彼ら二人は付いてきているが、ユズさんが息が上がってヘロヘロになりかけている……、割とかわいい顔が台無しな感じになっているな。やはり犬に似通った所があるのか、舌を出してハァハァと息を荒げている。

「はへ、すぃません。これでも結構トレーニングしてるんですけど……」

ユズさんすまん、結構認識を拡げて周囲の確認をしていたので手元がお留守になっていたようだ。これはちょっと休ませてあげたほうがいいかな。


 ちょっと立ち止まってユリアナに目配せすると、バックから魔法瓶を取り出して、ユズさんに渡したコップに注いであげる。水に見えるそれをユズさんは口にしてすこし驚いたようだ。

「んくっ、これ水かと思ったら冷たくて…… しかもなんか甘くて美味しいです」

と残りも飲み干すと、興味深そうにジュウドさんとフィルさんが見ているので飲みますか? と聞いたら自分の荷物からコップを出してくるのでそこにユリアナが注いであげた。

「変わった味だが、飲みやすいな」

「水かと思ったらうめーじゃんこれ、しかも冷たいしすげーなそれ」

とユリアナの持つ魔法瓶を見ている。魔道具じゃないけど魔法瓶とかこれいかに、ちなみに中身はイオンサプライなアレである。移動時の喉が渇いた時用に部屋の小型冷蔵庫に常備してあるひとつなのだ。前につけていたペットボトルホルダーといろ○すの空きペットボトルは悪目立ちするから今はスリアの物置きの中にしまってある。

 

「……それも魔道具なんですよね? このお二方は信頼できる人ですからいいんですが本当に気をつけてくださいね?」

とユズさんは一息ついて、落ち着いた後そう忠告してくれた。あ、そうだちょっと聞いてみたいことがあったんだっけ。

「あの、冒険者のフリードって人知ってますか?」

と聞くと、ユズさんはとたんに表情を曇らせる。ジュウドさんたちの耳にも届いてしまったらしく、彼らも眉をひそめている。

「あのユキさん、あの人と何かトラブルでも?」

いきなりトラブルから入るのか。まあトラブルといえばトラブルだけど、どちらかというとT○らぶるな感じなんだが……

「帝国から来られた凄腕の方でギルド的には重要な冒険者の方です。ただ、いろいろと悪評がありまして、特に女の子を相手には。私、個人的にはお付き合いをご遠慮したい方です」

「あいつには近づかない方が良いぜ、なびかない女も強引に手にするっていう噂もある。実際姿けしちまったコも多いって話だが、腐っても帝国の貴族さまなんでな。あんなのさっさと追い出してしまえばいいのに」

「あれでもアルガードの迷宮ではトップ探索陣の一角だ。文句を言いたければアイツより上に立たないことにはな……」

 フィルさんは憤慨し、ジュウドさんはアゴのひげを弄りながら渋い顔をしている。

「ユキさんも、ユリアナちゃんも近づかないのをオススメします。金色の鎧を見たら逃げてください、全力で」

 とユズさんが目力を込めて、俺とユリアナを見つめながら語るので頷いておいた。といっても、俺に関しては、どちらにせよ接触は免れないと思うんだけどね。嫌な予感しかしないのだが。


 一休みしたあと、少しペースダウンして進んだが、昼前には森に入ることができそうだ。少し前に俺らを追い抜いて森にはいっていったフィルさんが、登っていた木から降りて戻ってきた。

「森の中は化け物の気配はないな。昼とは言え、まったくしないってのは珍しいが」

ああ、一昨日掃除したからしばらくは大丈夫だと思うけど、そこらへんはお口チャックしておこう。

「まあ、居ないなら居ないでいい。そのまま全周警戒頼む。じゃあ案内を頼む、ユキさん」


 ジュウドさんに促され、俺らは森を進んでいく。ユリアナと二人、ドレス姿でひょいひょいと森を進んでいく姿にちょっと驚いているようだが。

俺も認識を広めて一応警戒しておくが、周囲には特になにも居ないようだ。


「あー、あの湧き水のほとりなんですが」

と一昨日に皆で種まきした大葉エリアに彼らを導いた。葉を半分以上とった筈の大葉たちが、青々とした葉を広げ、そして一昨日はなかったはずの赤い葉のものがぽつぽつと混じっている。ってあれ、ナンデ?

 がそれだけではなかった。俺が種を植えたエリアよりも、もっともっと広く生えてしまっているのだから。たった一日で環境が変わってる……。

「これは……壮観だな」

「ここで水飲んだことあるけど、こんなとこにミリ草生えていた記憶がねーぞ」

「希少種もそうですが、ここまでのミリ草のコロニーは聞いた事がありません。これは凄いですよ、ユキさん」

 3人のギルド関係者はこの光景に驚いている。いやニコニコしてるユリアナ以外はみな驚いているな、俺含め。フィルさんは、湧き水のほとりに近づいて、地面を調べている。そして、こちらにもどってきた。

「お嬢さんたち、すまないが靴の裏を見せてもらっていいかな?」

と言われたので、靴の裏を見せてあげる。あ、ユリアナ相手も困ってるから靴脱いで見せてあげなさい。

「ふむ、じゃああのミリ草の周辺にある靴跡は確かにお嬢さんたちのだな。あともう一つ靴跡があるんだが、こいつは誰なんだ? 一緒に作業してたようだが、この形は木靴か? エルフ?」

 足跡だけで判っちゃうのか……。ここは正直に話しておこう、嘘は言わないようにしておこう。あとで報告書書けとかあの嘘発見紙に書かされるとかあったら困る。

「あー、知り合いのエルフです。ミリ草取る手伝いをしてもらってました」

「こんな所にはぐれエルフが居るのか? 聞いた事もないが」

「ああ、もう森に帰ってしまったので……」

「森って大森林か、まさかこのミリ草にエルフが関係してるのか?」

「いや彼女も驚いてましたし、違うと思います」

 うん、手伝えって言ったら驚いてたし違うね、嘘はついてない。

 

「しかし、依頼で受けたが本当にあるとはなあ……」

「本来ならかなり嬉しいニュースなんですけど、場所だけが悔やまれます。できるなら移植したいですけど、環境が変わって大丈夫か精査しなくてはいけませんね」

 とユズさんと、ジュウドさんは森の東に目を向けながら語る。

「こんな街の近くの森じゃあ、いつまで秘密にできるか判ったものじゃないか。まあ目的は達した、一度街に帰ろう」

「くっそ、俺も守秘義務にサインしてなきゃ2、3枚持っていきたいところだけどな」

とフィルさんが笑い、俺達は街に帰ることになった。ちなみに移動しながら食べようと渡した由香里ねーさんのサンドイッチは異常に好評であった。

「私、一生これ食べて生きて行きたい。ユキさん、お嫁さんになって?」

とユズさんにプロポーズされたが、真面目にお断りしておいた。しばらく嫁も婿もノーサンキューです、マジで。


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