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61話 路地裏

「これはそんなにギルド的に大変な事なんですか?」

「化け物の分布状況や、その動向などの情報も、こちらに届けていただければ報酬が出るのは当然ですが、こういった価値のある情報は、大きな成果として評価されます」

 俺は、まだギルドの部屋に拘束されていた。お腹がすき過ぎたので、ユズさんらギルドの人の許可を得て時間停止保存しておいたおにぎりと、ユリアナの入れてくれたお茶を飲みながら話を聞いている。ユリアナの小さな手で握られたおにぎりは、一口サイズでぽいぽい食べれるのでラクだな。同じくお腹すいてそうなユズさんたちにも勧めたけど遠慮された。

 そんなのん気そうな俺の様子を見て、ユズさんはちょっとため息をついている。

「かなり昔に絶滅したと思われてたミリの希少種なんです。もう乾燥状態のものも残っていないくらい稀少で、そしてそれを用いた薬は絶大な効果を発揮するものですから。この最近の化け物の活動の多さから薬の需要は上がるばかりですし、このイパナの街の東にこれが見つかったとなれば凄い話題になると思います。それこそ近くに国境を接する帝国の動向が気になるくらいに」

と、ユズさんは表情を曇らせた。


 ちなみに、あの赤シソ1枚はこのイパナギルドの代表というエリンというおじさんに、俺が証文を書いて貸し出した。俺としては口約束で貸し出すどころか、あげてもいいって言ったらめちゃめちゃ断われた。こんな貴重なものをギルドがタダで接収したとかいう話になったらトンでもないことになると。そして俺との挨拶もそこそこに馬で迷宮都市のギルドの方に走っている途中だろう。


 まさか、俺のシソが地政学的な問題にまで発展するとは思わなかった。まあ外来種の恣意的というか個人的な繁殖という割と大きい罪を犯している気もしないでもないが。


「本日出発しても、もう時間的に遅いと思いますし。先ほど申しましたとおり明日朝、ギルドの方に来ていただけますか? 今回の採取の場所をまず確認しないといけないです。その後に、この情報に関する評価と報酬が発生すると思いますので」

 そして、テーブルの上に今回のミリ草の報酬が並べられる、しめて1金貨と31銀貨だ。半日くったくたになったけど、3人で10万稼げたなら上々だな。

「今回のミリ草の納入の報酬になります。そしてこちらですね」

テーブルの上に新たなギルドカードが1枚、Fランクユキちゃんカードだ。カードの質はGのと変わってない気がするが、まあ新しいのは言いことだね。これでもう、トールにはデカい顔はさせないで済むな。


「今のユキさんの功績点が131点です。今回の報告の件で、すぐにEランクの300点は超えてしまいそうな気がしますね」

 まじか、報告の功績は思ったより高いな。報連相大事にされてるんだなあ。ミリの葉の報酬と新しいギルドカードを俺たちは受け取って、そのまま解散となった。

「あの、くれぐれも例の事は内密に。いらぬトラブルを招く可能性が高いですから」

とギルドの職員通用口から出ることになった俺達に、再度ユズさんから忠告される。

「わかりました、おつかれさまでした。じゃあまた明日ー」


 挨拶をして裏口から出ると空間認識では判っていたが、もう日が落ちて街灯が点灯していた。通用口側なので細い路地のため、ちょっと街灯の明かりが少なくて薄暗い感じがする。そして暗い路地の影からこちらを探っている数人の男どもが居るのが判る。

『ほれみろ、表張ってるボンクラどもには悪いが。通用口でドンピシャだったろ』

『ガハハ、小娘2人とか聞いたがそんなのがお宝持ってたら危ないから預かってあげねーとな』

『返してやらねークセに。こっち来てから実入り悪いしな、もちろんお楽しみ込みでな。フヒヒ』

ぐへへと笑い合う男たち。うーむ、ぎるてぃな香りがぷんぷんする会話だな。もう一人居るみたいだけど、ガタガタ震えてるな、ん? なんか既視感が……。


 まあもう視認されてるみたいだし、このまま行くか。彼らが隠れている小道を通り過ぎようとしたとき、彼らの手が俺達に伸び小道に引き込もうとする。バック持っている俺はともかく、ユリアナまでか。

 俺は自分の方に伸びてきた手を力任せに叩き弾きながら、ユリアナの時間を一瞬停止する。ユリアナの肩より長いきれいな髪を掴んで引き倒そうとしたゲスは、彼女の髪に指という指を切り裂かれて悲鳴をあげる。肩とかならともかくそんな所掴もうとした奴に遠慮は要らんな。倒れこむそいつの腹にケリを入れて跳ね飛ばした。

 そして、時間停止を解除しつつ、小道に向って踏み出して、ユリアナの前に立ちふさがった。俺が手を殴った男は痛みに顔をしかめながら、怒声をあげる。

「くそ、なまいきなガキがっ。痛い目見たくなければそのバックを渡せ!!」

「痛い目みてるのはそっちだと思うけど?」

4人組の男たち…… ん? もう2人戦意を失ってるな。魔法使いっぽい男の人は杖を投げ捨てて両手をあげて無抵抗モードだし、ハゲも俺を見て逃げ腰になってる。ユリアナの髪に触れたクズは腹を押えて呻いてるし、これもすでに無力化ずみか。

「おい、お前ら一気に掛かるぞ。ロブ、どうした魔法を使え!!」

「や、やめろって、こいつには勝てない。なんで草原の反対まで来たのにまた逢っちまうんだよ……」

とロブとよばれた魔法使いっぽい人はもう涙目になっている…… あー、私思い出しました。この良い人です。

「くそ、こんな小娘にガタつきやがって」

手を傷めたらしい男は、腰の剣を抜き放とうとする。うむ、ギルティ確定。だがしかし、それはもう処置済なんだ。

「くっ、抜けねえ」

 と力をこめて剣を抜こうとして一瞬俺から目を離した奴の前でぴょんとジャンプして右のこめかみに向って右足でキックを叩き込む。いや流石に靴の時間停止アタックはしないけど、これじゃ終わらせない。

 そして、その瞬間に男に時間停止を掛ける。蹴った反動でくるっと空中で一回転しながら、インパクトの寸前に時間停止を解除しつつ、左のこめかみに向ってヒールキック。右と左からほぼ同時に打撃を食らった男は一瞬で白目をむいてその場に倒れこんだ。後は、腹を押えて呻いている男の股間にケリを一発叩き込む。こいつは改心してないし、ユリアナまで手を出そうとしたのでもうボツシュートです。2個目もいただきました。

「ユキさま、あんまりぴょんぴょん跳ねたら、下着見えちゃいます」

とかユリアナはいつも通りと言った感じで、危険を感じていないようでなにより。いや私の下着はいいから、自分の安全を優先して欲しいのだけど。


「まだ悪い事しますか?」

と問いかけると、ガハハハゲとロブと呼ばれた魔法使いの人は顔を真っ青にしながら顔をぶんぶんと振っている。

「もう、やらねえ。許してくれ……、あんただって判らなかったんだ」

「ぼ、ぼくも故郷に帰って畑仕事をします。もう魔法も使いません」

 ガハハは私相手じゃなければこのままだとまたやらかしそうなので腹に適度に力を込めたキックを一発。ぐえええとうめき声をあげてます、まあ次は無いからね?

最後の一人になったロブは俺が近づくと、ヒッと声を上げた。そして、彼の手に私は4銀貨を乗せた。半年くらいたってるから1銀貨くらいは利子をつけていいと思う。

「これ、お借りしてたお金お返ししますね。ありがとうございました」

でももう彼もこっちの話は聞こえてないようだったけどね。


「じゃあユリアナちゃん。行こうか?」

と言ったらなんか不思議そうな顔をされる。

「ご主人さま、なんかいつもと違うような?」


 とりあえず明るい道に出ようと裏路地から、大通りに出た。ギルドの入り口はもう閉鎖されているが、そこらに男ども数人づつこちらを窺っているのが判った。はぁ、こっちも掃除しないとダメかー、と思ったら見覚えのあるローブの人が駆け寄ってきた。

「待ってたよ、ユキヒロ。あんた何も言わないで街を出ちまったのかと思って探し回ってたんだけどさ……」

と周りに厳しい目をやりながらマリアさんが話しかけてきた。ユキ……ヒロ、ってまたユキちゃん暴走モードに入ってたのか。頭をぶんぶん振ってユキちゃんを追い出す。

「なんかキナ臭い感じになってるじゃないか。まあ、それとは別件で、キズを治してもらったのに礼もしてないってウチのルエラに泣かれちまってね、悪いんだけど、とりあえずウチらのヤサに来てくれないか? そちらも面倒事みたいだしちょうどいいだろ?」


渡りに船と言った感じのお誘いだったので、二つ返事でお誘いに応じることにした。この街で、ルージュたちののヤサに仕掛けるバカは流石に居ないだろう。街に居る男どもほぼ全員が敵になりかねないしな。



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