59話 森の奥で
「という訳で、こういう件のオーソリティをお呼びしました」
と、フローリアとユリアナが離れているので、ちょっと一人芝居をしてしまう俺。
「まさか、旅に出たユキと逢うのがこんな形になるとは……、もっとこうロマンチックにじゃな……」
俺はちょっと微妙な表情のリスティを空間ゲートから引っ張り出す。引っかかる所もなくするりと狭いゲートを抜けたのを見て俺は人選、もといエルフ選が間違ってなかったことを確信する。
「で、わざわざココまで呼び出して、わらわに見てもらいたいものとは何じゃ?」
と胸を張って腰に手を当てているリスティに、先ほど紫に変わってしまった地面に生えたミリを見てもらう。
「な!! これはもしや絶滅したはずのミリの希少種ではないか!! まだこのような株の状態で残っているものがあったのか」
やたらと興奮して、生えているミリの希少種? に近づき、葉の状態などを調べている。
「そんなに貴重なものなのか?」
「貴重も何も、わらわもこうして生きているものをみるのは初めてじゃ。普通のミリよりも薬効がはるかに高くて、薬などにしたときの効果は段違いらしいの。私は薬作りは門外じゃがそれでもとんでもなく貴重なのは間違いないのじゃ」
はー、なるほど。元の世界でも赤紫蘇の方が栄養価が高いのと似たような状況なのかな、にしてもなんで赤だけ絶滅したんだ。と思ったら、それ専門の害虫が発生したらしい。
「葉から根から根こそぎくらう虫だったそうじゃが、もともと虫がつきにくいミリに更にキツい希少種を好んで食べたのか本当にナゾじゃな。しかし食う物が無くなって虫も死滅したらしいがの」
「しかし、このように生きていたものがあったとは。ちなみにこの森はどこじゃ? さほど離れてないように思えるが」
リスティは周りを見渡しながら問うので、イパナの東の森だと伝えると。
「まさか、そのような都市に近いところで自生していたのか」
と奇跡にうるうるしているようだが、そろそろネタバラシをしておこう。いや隠しておくつもりはなかったのだが、リスティのマシンガン対応が可愛くてつい伝えるのが遅くなってしまった。
「あー、説明が遅くなったけど。それ元は普通のミリだったんだ。それをフローリアが育てたらそうなった」
可愛いと考えたあたりで、ちょっとぽやーんとしかけたリスティが、俺の言葉に反応してさらに驚いていた。
「で、こちらがユキの世界のミリの葉なのか」
先ほどフローリアが草笛にしていたのとは別の葉だ。リスティはしげしげと地面に生えたミリと見比べている。
「種類としては恐ろしいほどよく似ておるの。ただ、このユキの世界から持ち込んだものはマナを含んでいる量が圧倒的に少ないのう」
女神さまに向うの世界から来た人間にマナは充填されるって聞いてたけど、葉っぱはダメなんだろうか。じゃあ苗みたいなのを植えたらどうなるんだろう。
「苗か、わらわはマナが無い体というのを知らないので想像でしかないが、大地から根がマナを吸い上げて満ちるのじゃないかと思うぞ」
じゃあ、紫蘇の苗を植えてフローリアに育ててもらえば一気に収穫できそうだな。って苗を手に入れるには由香里ねーさんに連絡しなくてはいけないが。今俺のジャンバーはユリアナに貸し与えてあったんだよな。フローリアの音楽隊の録画係に任命して後を追う係として。と、そこでちょっと気になる事が。
「あの、この希少種のミリって普通の人間に見つかったらどうなると思う?」
「自然の事を考えない人間であれば、高価で売れるじゃろうから狩り尽くされるであろうな。まあそれ以上に人が集まってえらいことになりそうじゃが」
やばい、音楽隊を追いかけなくては……、無制限に赤ミリを増やされたら面倒なことになりそうだ。ユリアナたちを追うのはそう苦労はなかった。俺のジャンバーがあるので位置は判るし、その途中に点々と赤くほのかに光っているミリが見つかったから。俺は生えているミリを株ごと時間停止してぽいぽいとバックの中に仕舞って行く。ほどなく木の根に腰を下ろして、由香里ねーさんから貰ったらしいおやつのミニプリンを食べているユリアナとフローリアに合流できた。
「フローリア、ごめん。赤いミリを増やすのは今はやめておいてくれ」
「うん、いいよ。でも、もういいの? ゆっきー欲しかったんでしょ?」
ああ、もともと俺の為だったのね。彼女にもリスティと同じようになんとなく俺の考えが伝わることが多いな。これも結魂の影響なんだろうかね。
「赤いのじゃなくて、青いまま育てる事はできるの?」
「うん、できるよ。でももう青いのないかも?」
あーそれでオヤツタイムになってたのね。俺はユリアナに預けていたジャンパーを着てあちらに話かける。
『あー由香里ねーさん、紫蘇の苗とかって手に入るかな』
『紫蘇の苗ならホームセンターでいくらでも買えると思うけど……、あ、そうだゆっくん。大葉の種ならあるよ。スプラウト用の種』
と、大葉の種を持ってきてくれた。フローリアに確認しなかったけど、前に小梅ちゃんの種から芽だしてたし大丈夫だろう。森のちょっと奥にあった、小川の基点となる湧き水のほとりが人目もなくちょうど良さそうだったので、ユリアナが土に掘ってくれた穴に種をまく。土をかぶせた上からリスティが魔法の水しぶきで土を水で湿らせていく。
そしてフローリアが、今度は青いふつうのミリの葉を持ってなにやら神妙な顔でしゃがんでいる。
「んー、はっ!!」
と力を込めて立ち上がりながら気合を入れる。と羽ばたきから光がこぼれ落ちていき、またぽぽぽんと音が出そうな勢いで芽が地面を突き破って双葉を広げる。
『うわ。ゆっくん、今度はミブリだよ。隣でとろとろみたいだねー』
と由香里ねーさんは大喜びだ。あんなDVDまで買い与えていたのか。まあ、ネズミーよりは怖くない光景だけどさ。
精霊女王(仮)の力の行使に、目を輝かせているリスティと、フローリアに付いていきながら芽を吹くミリたちに楽しそうな表情のユリアナ。
「ん、マナも満ちておるし良いミリの葉じゃな」
と生えた紫蘇の葉を一枚取り、確認するリスティのお墨付きも頂けた。
「さて、もう用事は済んだかの?」
とそのリスティの手をきゅっと握る。見詰め合う俺とリスティ。そうだ、まだ終わってない。
「ななな、なんじゃ。いきなり……その、あの」
「ごめん、手伝って。収穫」
とにこっと微笑む。
「この量をか……」
この湧き水のほとりにこれでもかと生えているミリの群を見て、がっくりと肩を落とす。なーに、1本から10枚づつ取れば足りるくらい種は撒いた。俺とリスティとユリアナの3人でやればよゆーよゆー。
「まったく、呼び出したのはもともとこういう腹か。まったく、手も出してくれんくせにイケズなだんな様じゃ。この借りは高くつくと」
「夕ご飯、カレーにするから。お願い」
「はあ、仕方ないのう。おかわりもじゃぞ?」
日が暮れるまで、ひたすらに葉を取り続け、10枚ごとに時間停止してカバンに放り込む、もう途中で数えるのも嫌になって思考停止しながらむちむちとミリの葉を取り続けた。途中からテント設営と食事の準備にユリアナは離れていたが、それでも日が暮れて葉が見えなくなる前にはあらかた取り終えることができた。
今夜は、このまま森の中でテント泊という事になった。ユリアナが何も言う前に準備しちゃってたのもあったが。
「しかし、エルフの姫巫女がぐぇーって声あげるのはどうかと思う」
「ユキのゲートがギリギリすぎるのじゃ。なのにあんなにぐいぐい押しおって、あやうく大惨事になるところだったではないか」
カレーをおかわりまで食べ過ぎてリスティがぎりぎりゲートを通れなくなってしまったのが悪いような気もする。まあ俺もそういう性癖はないので、美少女の○ロとか見たくないし。
「だから想像するなと言っておろうが!!」
くすくすと、ユリアナが抑えた感じで笑っている。
その夜は、そのままなんとなく楽しい気分のまま、森の奥で眠りに付くのだった。




