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56話 Into

「へぇ、きちんと見てなかったら判らなかったけど、あなたいろいろ不思議ね。ただのお嬢さんじゃないのは最初見たときから判っていたつもりだったけど」

俺を見据えながらふわりと彼女が笑うと、その燃えるような髪のロールが揺れる。


 酒場の奥の個室に案内され、あらためてルージュさんと相対することになったのだが。やっと彼女は俺に興味を持ったのかじっとその目で見つめてくる。あれ、この瞳どこかで見たような……。しかし、目力強いから、真正面から見つめられるとちょっとドキドキするわ。


「えっと……」

ああ、まだ自己紹介してなかったわ、いろいろあったせいで後回しになってしまっていたね。

「あ、ユキ…ヒロって言います」

「へぇ、ユキヒロね。不思議な響き、というか女の子らしくない響きの名前ね。どこの生まれなのかしら?」

「というか、すいません。女の子じゃないです、男です」

ここは後の事も考えて早めに誤解を解いておこう、まあ誤解というか擬態している俺が悪いのだけど。

「……はあっ!?」

あ、ひさびさに美人の顔が崩れるのを見たわ。ぽかんと口を開けて俺の顔を見つめている、いや顔だけじゃないななんかいろいろ見られてる気が。


「……はぁ、人に逢う商売してるけどこれ程驚いたのは初めてだわ。その容姿で男とか反則でしょう、喉仏だって出てないし。ほっそい脚に腕に、その肌とか。あなたやっぱりわたし達の敵だわ」

と驚きから帰ってきたルージュさんは、そう言って乾いた笑いを漏らす。後半はちょっとマジっぽい感じがしたんだが、追求しないほうが良いだろう。俺もその程度のデッドラインは感知できる。


「私、これでも人を見る目には結構自信があったんだけどねえ……」

とちょっと落ち込んでいる。

 ルージュさんはもともとこの街出身で、一度は冒険者として名を上げたらしい。あの迷宮都市で一山当てたあとに、この街に帰ってきて他に働き口の無い子たちをまとめあげこの一体で仕事するようになったとか。

「なんで、冒険者を辞めてまで?」

「んー、ちょっと用があってこの街に戻ってきたときこの街のコらを見てね、私もこの街で燻ったままだったらゴミみたいに死んでたかなとか思ったら」

街で客を取って、あのさっきの少女みたいに酷い目にあうケースは少なくなかったらしい。


「それまで一緒に探索してきてた仲の良いメンバーが結婚して引退しちまって。他のあてを探そうかと思ったんだけどあまりに勧誘が煩くなってね」

 ここまで出会えてなかったのも不思議じゃなく、治癒魔法を実用レベルで使える市井の人ってのはほとんど居ないんだとか。そういう素養のある人は、若くから神殿や、騎士団などに囲われているケースが多く。ストリートチルドレンだったルージュさんはその網から漏れていた存在だった。それもあって冒険者となった彼女は引く手数多で皆から声が掛かったという。

 ルージュさんの取り合いで刃傷沙汰にまで発展して、彼女は冒険者はもういいやと見切りをつけてしまったそうだ。そんな手で彼女を欲しがるようなメンツと命を掛けて迷宮に挑むという気にはなれなかった彼女はこの街にもどってきて、娼婦たちの親玉に納まった。


「迷宮攻略に行き詰ってきても居たし……まあ、オトコの攻略も面白いしね」

とちょっと口元をゆるめて妖しげに笑う。うあ、ちょっとゾクっときた。

「私、人のマナの流れが意識すると判るのよ。だから治癒も自己流で、漏れているマナを戻す方向に変えてあげて廻す様にしているの。神様に祈ってるわけじゃないのよ? それの応用で男達が何を求めているのか判るの。そうしてあげるとみんな喜ぶわ」

そして俺の方を見つめる。

「そして、あなたは不思議ね。マナが何処かから流れ込んでる。それが渦巻いてあなたという形を作っているのね。容姿はもう置いておくとして、そんなマナの人も初めて見たわ。でもさっきの魔法といい、そんなあなたがこの娼婦の私に何の用なのかしら?」

まっすぐにその瞳が俺に向けられた。ドクン、と心臓は跳ねた気がする。ドストレートを投げ込まれて一瞬狼狽したが、ここは意を決しなければいけない。俺はその言葉を口にする。

「……た、たた……ないんです…」

俺の言葉は彼女の耳に届いたようだ。そして彼女はにんまりと笑う。

「あー、ごめんよく聞こえなかった。で、何の用だったのかしら?」

意地悪です、この人。ここぞとばかりににまにま笑いながらそう問いかけます。



「いや、笑ってごめんなさいね。あなたみたいな人が来て何の話かと思ったら、まさか起たないとかそういう話になると思わなくて」

ごめんといいながら、笑いが止まらない感じのルージュさん。俺にとっては割と深刻なんだけど……。

「あーホント、ごめん。予想外すぎてちょっとツボに入っちゃった。そうよね、オトコノコなら起たないって大問題よね」

とやっと笑いの発作から収まった彼女が俺を見つめる。そして、ちょっと待っててと部屋を出てすぐに戻ってきた、なにやらツボを持って。

「えっと、ユキヒロさん、ちょっと立ってみて」

と言われて素直にイスから立つ。俺の周りをゆっくりと周りながら俺の方を見ている。

「んー、マナの流れによどみみたいなのは見えないんだけどなあ。えっと、自分で刺激とかは?」

なんか彼女との会話はなんか問診みたいだな。って泌尿器科とか言ったこと無いけど。

「いえ、あまり」

取れるのが怖いから弄らなかったとはさすがに言えなかった。また彼女の笑いのツボを押してしまいそうだし。彼女はツボの中に手を入れてぐにぐにしている、なんだろう軟膏とか秘薬的なモノなんだろうか。

「じゃあ、ちょっと前向いててね。屈み加減がいいかな?」

と彼女は後ろに回ると、俺のスカートを捲り上げていきなり右手を……。



「あにゃああああああああああああああああああああーー」

ちょ、ちょっ!! 中指……指ずぼって!!。

「な、なんて悲鳴あげるのよ、まるで私がレイプしてるみたいじゃないの。ていうかあなたの反応みてるとこっちがおかしくなりそうだわ、変な気起こす男の気持ちがわかっちゃいそう」

くそ、なんてこといきなりしやがるんだこの赤毛の人は。信じられない。

「でも、だめね。直接の刺激が効果ないって所みると別の原因じゃないかしら。そう、そのどこかから流れ込んでいるマナがあなたに影響を与えているんじゃないかしら?」

「にしたってプロならやり方ってものがあるでしょうに!!」

とつい食って掛かってしまった。伝説の女っていうから凄い雰囲気とかでたぶらかしてくれるかと思ったら直接攻撃とかマジありえないですよ。


「んー、ちょっと強引だったのは認めるけど、……だってあなた私の事求めてなかったじゃない?」

と言われてちょっと考える。あれ? 確かに綺麗だな、とか伝説と言われるのもわかるとか思ってたけど、どこか他人事のように語っていた気がする、確かに。

「私はこれでも女である事で金を得ている身よ。相手が自分をどれだけ求めているかわかるわ。そして今あなたに触れて判った事もある。あなた性を感じてないんじゃないかしら? いや、逆ね。もしかしたら性を無くしてるのかも」

本来男性なら力強く力の中心から下腹部に伸びているマナを感じなかったらしい。流れ込んでいるマナが本来の流れを阻害しているのかもしれない。と彼女は教えてくれた。現状、私ではムリね。とルージュに匙を投げられ、俺は挨拶もそこそこにルージュの酒場を離れた。長話をしている間にいつの間にか、空は白んできはじめていた。俺はそんな朝の空気の中をぼんやりと街を歩く。


 衝撃的な体験であった。痛みは無いのだが、なんとなく左手でお尻を押さえながら歩いてしまう。しかし、あの衝撃体験はともかくとして、ルージュの話は確かに腑に落ちるものだった。あれ、でもこの世界きてから俺そういう衝動あったよな? それ何時の間に失ったんだろう。もしかしてあの洞窟の光景のトラウマ、いやその前から自覚がなかっただけのような気がする。


 とりあえず、ちょっとひと眠りしてから考えるか。いろいろ整理したい、心も体も。俺は春宵の周囲に人影が無いのを確認すると、窓から借りていた部屋に戻る。まだユリアナは寝てるだろうな、と思ったらベットにその姿は無かった。あれ起きてる? と思ったらドアの前にうずくまっている。

「ユリアナ、具合悪いのかい!?」

と焦って駆け寄ると、ユリアナがその涙目になった瞳をこちらに向けた。

「ご、しゅじんさま。ドア開けてください」


 俺はすぐさまドアの時間停止を解除して、ユリアナを部屋から出してあげた。そういやここの部屋トイレないもんな。マジ、すまん。超ごめん。戻ってきたらユリアナともう一度ベットで寝よう、この部屋を追い出されるまでは。それからいろいろ考えることにしよう。


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