5話 ユキヒロ、大地で起つ
「では目を閉じて」
目を閉じるのは転移の際にアカン光を見て意識が飛んだりするのを防ぐ為かな。神域からの移動だからいろいろヤバい物がみえるのかもしれない。そんな知識が脳裏に浮かび上がってくる。時空魔法関連なら意識しなくても、知識が湧き出してくる感じだな。
まあ俺はすでそこら辺の防御もできるのだが、ここは女神さまの言うことに従った。目をつぶっても女神さまの姿がまぶたの裏にくっきり浮かぶようだ。
まあ実際、見えるんですけどね。この空間を魔力で把握しているので3Dのゲームの様に真上などいろんな角度から視点を変えて見る事ができる。これも能力のひとつ、空間把握だ。
くっ、ここの空間、下アングルからの視点は不可とかどこのリニーのゲームだ!!。
そんな事を考えていると、
「幸弘さん、お願いします」
彼女の声が聴こえ、ぐにゃりと空間が歪んだのを感じた。さあ新天地へ……ってなんて世界で俺はどこに行くんだ?
「何もおそわってねええええええ」
叫んだが、どこからも答えは返ってこなかったのだった。
「この状況から、手探りでどうにかしろというのか……」
聞いた事の無い鳥の囀り、陽もあまり差し込まないほど茂った木々。うっそうと茂る森の中で俺はひとりごちた。
よし、まずは装備の確認からだな。
腰のポーチにのど飴代わりのキャンディが4個。輪ゴム数本。カッターナイフ1個。タオル生地のハンカチ1枚。作業着のズボンのポケットに100円ライターが1個、ガスは半分くらいか。
ペットボトルホルダーに、飲み終えたスポーツドリンクのペットボトル。空だよ……。トイレで水でも汲んでくれば良かったが、時すでに遅し。ペタペタと体中を探ってみるが
他にめぼしいものがなかった。
ってこれヤバくね?
普通は食べ物とか地図とか装備とかくれるんだろうけど、そこは自分の選んだ時空魔法のお陰で貰えないのは聞いていたが。
「この場所でのスタートはちょっとハードなんじゃ…」
時空魔法の一つ、さっき女神さまの体を眺め回して遊んでいた空間把握の範囲を広める。術を行使すると意識して、力をすこしづつ開放する。体から何かと力が抜けていく。これがマナの消費の感覚か。あー、これは確かに燃費悪い。
知覚範囲をマナ残量を意識しつつ、ウサギ球団のドーム1個くらいの範囲に拡大。なんとなく使ってしまったがわけの判らない単位だな、ドーム単位は。誰が理解しやすい単位なんだ。と自分で言って自分に文句を言う。ディスりサイクル。
イライラしつつ拡げた感覚内には、風にさざめく木々と、小さな昆虫、囀る小鳥たち。把握域を拡げるのはつらかったが、そのまま維持するのは難しくなかった。ただ、マナの回復は使用には追い付かないようで現在のマナ総量は三分の二といった感じか。
ヤバそうな化け物が居ないのはいいが、獣道も見当たらない。この森のどちらに向かえば抜けられるのかまったく見当もつかないのはマズい。
そんな時、把握してる空間内にすばやい物が進入してきた。視界を移動させて、それを視認しようとするが、凄いスピードで移動していてピントを合わせることも出来ない。
しかも、まっすぐに俺の方に向かってくる。マズい。何か対処を……。しかし、決定的な経験不足の為、どういう行動を採ればいいのか判らなかった。
そんな俺をあざ笑うかのように、それは目の前まで来てしまった。これが化け物だったらもうおしまいかな、そんな諦めにもにた感情に囚われつつ、視線を前に向ける。
ピタっと俺の目の前で止まったソレは。
身長30cmもないくらいの美少女だった。といってもその背中にはパタパタと音もなくはためく美しい銀色の羽。
青いサラサラの髪の毛にくりっとした目に浮かぶのは興味か? まっぱの体を隠すこともなく、なぜかにこにことした笑みを浮かべている可愛い妖精さんでした。
ちなみにちっちゃくてもちゃんとおっぱいだったとです。