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49話 礼拝堂

 ついちょっと前まで歩くのもおぼつかなかったユリアナだったが、少し早めに歩いても彼女は軽々と俺の歩きについて来た。最初からそんな早く歩いては居なかったのだが、ふいに振り出した小雨を避けようと

「あの木で雨宿りしよう」

と示した先に走りこんだユリアナの速度を見てびっくりした。はええ、ウサギンさんぶっちぎるんじゃないかっていう加速だった。

「うう、ユカリさんに作ってもらった服が汚れちゃいます」

とか涙目になっているユリアナは、自分のポテンシャルを判っていなそうに服にドロがはねていないか確かめている。今、着ているのは最初に作ってもらった白基調のメイド服風エプロンドレスで、やはり最初にもらったときの感動からか、一番のお気に入りのようだ。今日も旅立ちはこれって決めてたみたいだけど、旅に出たら汚れると思うぞと思ったが嬉しそうな顔に言えなかった。


 しばらくは様子をみようかと、雨宿りとなってしまった。いきなり幸先わるいなと思わなくも無いけど、これもまた旅の楽しみか。

「ユリアナは昔から運動とか得意だったの?」

「いえ、何も無いところでころぶのが得意でした」

 そんな事はなかったらしい。島で同世代の子と遊んでも、どんくさいからと放置されたことも多かったと明るく語った。そんな事明るく言わんでもと思わなくもないが、ユリアナは俺が話しかけるとなんでも嬉しそうに語る。なんでも構われていればうれしいワンコみたいな娘さんだ。見えないしっぽがスカートの中でぶんぶん揺れているような気がする。

「でも、いま走ってたの結構早かったと思うのだけど?」

「??? ご主人さまのお力なのではないのですか?」

と質問を疑問で返された。ふむ、契約してからの変化ってことなのか。俺にまったく実感がないんだけどなあ、確かに契約の時なにか感触はしたけどリスティみたいにパスが繋がっている感じもしないし。なんなんだろうなあ。


 ちょっと待つと雨は降り止み、水たまりができるまでもなかった街道をまた東に歩きはじめた。ユリアナの体力測定もかねて、ちょっとスピードを上げたりしながら街道を駆けて行く。旅人など他の人が見えたら少しスピードを下げて追い抜いたり、すれ違ったりした。それでも普通の旅人よりも早く移動していく俺らに驚いているようだった。


 そして気付いたら、あっという間に港湾都市のクエリアにたどり着いた。ここはアセルスや、かの帝国と海路で結ばれていてクラウセン都市連盟の海の玄関というべき街だ。海風で腐食させないようにするためか、石で作られた建物が多い印象だ。街にみえる人々の数も、今までの都市でみたより多い気がする。文化が交じり合っている為か、ちょっと面白そうだ。あの時はいろいろあって何も見て回れなかったからな、俺とユリアナは街に入るための列に並んで順番を待った。


「お嬢さん2人なのかい?」

クエリアの衛兵の人に話しかけられる。前の時には見なかった顔だな、まああの時はぼーっとしていたから見逃していただけかもしれないけど。

「はい、アスリから来ました。旅の途中です」

「あー、ここの街は荒っぽいのも居るから気をつけてな、あと港の東側には特に近づかないように」

「はい。ありがとうございます」

礼を言いつつ、二人分のお金を払って街に入ることができた。初めて自分の目で見る大都市に目を輝かせているユリアナの手を引きながら、門を通りクレリアの街に入った。

あの兵士さんが忠告してくれた東側ってのはあの帝国の居留地あたりの事だろうな。やりたい放題やってそうなイメージだし、自分から面倒ごとに近づく必要もない、近寄らんほうがいいね。


 なんて考えていたのがフラグだったのか……、街のメインストリートに入ってすぐ、俺達の前からあの兵士たちの長をやっていた見覚えのあるクズが歩いてくる。近くの屋台から果物を取って、一口齧ってそのまま捨てていたりする。マジクズだ。もちろん金は払っていなそうだ、屋台のおばちゃんも諦めたようにその光景を見ている。


 このまま歩いてくると、俺らが視界に入ってしまうだろう。俺の姿をなめるように見ていたあいつが、今この可愛くなったユリアナを見たらどういう反応、いや推測をされるか判ったもんじゃない。

とりあえず視界から外れるか。俺は周りを楽しそうに見物していたユリアナの手を取ると、右手にあった石造りの建物の扉を開けて入り込んだ。

 

 先に空間認識でひとけが少ないと確かめていた建物にはいると、壁に掛けられたシンボルが目に入ってくる。これはエリオットの家でも見たことがあったし、いろんなところで目にしたこの世界の

神のシンボルだろう。とは言っても俺の逢ったエリアなんちゃらさんじゃなくて、その下にいる善の神さまの物なのかな?


「ほう、お若い娘さんが二人で礼拝堂に来られるとは珍しいですね。ここは善なる女神シルフィス様に静かに祈りを捧げる場です、祈りを捧げれば……」

奥の祭壇らしき場で祈りをささげていた、初老の神父っぽいおじさんがこちらに話しかけてきた。ってあれ? 人の良さそうなおじさんの顔が何かを見つけてフリーズしてしまっている。


 もしや!! と思ってウェストポーチを見てみるが、まだフローリアは寝ているようだ。さっき街に入る前までふらふらとあっちの花からこっちの花へと飛び回っていたし満足していたみたいだ。

じゃあ、とユリアナはというと、すでにヒザをついて祈りを捧げているようだ。ってなんでこっちを向いているのか。

 その姿を目にしたのか、目の前のおじさんもヒザを着いて、目を閉じてこちらに祈りを捧げている。ってなんなんこれー。


「……女神様では無いと、申されるのですか?」

「いや、何度も説明しましたけど……」

だいたい、男だし女神であることはありえない、千切れない限り。信じられんみたいな神父さんに、否定しているとユリアナが後ろから答える。

「ご主人さまは、天使さまですから」

ってそこもちがーう。ってそういえばユリアナって最初からそんな事言ってたよね、あの肉体回帰の時の雰囲気からそんな事を言っていたのかと思っていたのだが。


「あー、ユリアナ? 聞きたかったんだけど、その天使さまっていうのは?」

と聞いてみると、本当になに言われてますの? みたいな顔をされて、その祭壇にたっている像を手で指し示された。


 Oh……、そこには髪を降ろした俺の石像が立っていた。


 違うのは身長と髪型、そして豊かな母性を感じさせる胸元だけだろうか、いや目もとは俺の方がちょっとキツい気がする。トレドの街に居たくらいから、時々年配の人が驚いたような顔をしていたのはもしかしてこれか……、俺が可愛すぎるからかなとか勘違いしてたわ。

 こういう礼拝所みたいなのは今まで通ってきた街でも時々見受けられたけど、今まで寄ろうとも思わなかったからなあ。無神論でほぼ固まっている日本人の感性の俺にはイベントでもないと入らない場所だ。生前も観光地に行っても、宗教的建築物の持つ美は認めていたが、まだそれに安らぎをかを感じるような歳でもなかったしなあ。


 いや、しかしこれは無関係と言い張るには流石に姿が似すぎている気がする。あー面倒さけるために髪の毛切るかなあとかちょっと言葉が口から漏れたら、ユリアナがひどく悲しそうな顔をした。あー彼女は俺の髪をフローリアと一緒になってブラッシングしたりセットするのが楽しそうだからなあ。

「この像の元になった姿というのは、大昔に光の女神シルフィス様がこの地に光臨されたときに、絵心のあったものが残したものとされています」

 想像の産物ですらなかった。なんども違いますと否定を繰り返したら、神父さんは納得というか、それ以上俺を女神様扱いはしなかった。言葉としては。なにか理由があってその正体を隠していらっしゃるのか、わかりました。みたいなオーラを感じる。いや、隠したいならこんな姿で光臨しないと思うんだ……。


 空間認識を拡げて、まわりにあの帝国兵が居なくなったのを確認したので、

「宿を探さないといけないので、失礼しますね」

って退去しようとしたら、すがりつかんばかりに引き止められた。

「宿ほど快適ではないかもしれませんが、この礼拝堂の後ろに泊まれるお部屋がございます。是非こちらで過ごされませんか」

と涙を流しそうな勢いで迫られて、了承してしまった。


 流石に今日はここを離れられなそうだ。この街の名物とかないかちょっと気になっていた俺は、自分の選択ミスをちょっと後悔した。

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