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47話 かれいなる夜

「では、そなたも命を救われたのか」

「はい、それもこの大草原を脅かしていたグレイウルフたちも滅ぼしていただいたんです、しかもそれを誇ろうともせず街から立ち去られてしまって」

「わらわも命を救われたわ、里の危機もあっという間に払っていきおった」

起こるかと思われたブリザードは回避されたが、次に訪れたのは目の前での居心地の悪い現状確認の応酬だった。まあ、ギスギスされるよりはいいけどさあ。 

 

「なんじゃ、お主、あの容姿に惹かれて寄ってきた訳ではないのか、いきなり抱けとか申しとるからそういう輩かと思ったわ」

「あそこまで話を急ぐつもりもなかったんですが、ユキさんの優しそうな顔をみていたらつい気持ちが先走ってしまいました」

「……なるほど、好きでもない輩に言い寄られておるのか。嫌悪すら感じるなら相当じゃなあ。それで早くあやつのモノになりたかったというわけか、気持ちはわからんでもない」


 本人を目の前にして、二人の会話は続く……。割り込んでこっちに矛先が向くのが怖いので黙って推移を見守る。何度かユリアナがお茶をかえてくれて、それで喉を潤した二人は止まらなかった。


「ではわらわが姉ということで」

「はい、リスティリスお姉さま」

「リスティでよいわ、ジュリエッタ」

あれ、なんかフリーズしてる間に話が変な方向に固まってる。

「え、えええ、何言ってるの二人とも!!」

ってツッコミいれたら、二人はくすくすと笑う。

「他人事のような顔しとるからじゃ、まったく」

「ええ、ユキさまには私たちの気持ちを判っていただかないと」

ああ、からかわれたのか。目の前でそんな話をしていたのに気付かないとか。まあこんな可愛い子達に言い寄られたことなんてなかったからなあ。


 ぽりぽりと頭をかいていると、一段落したと判断したのか後ろからユリアナが声を掛けてくる。

「あの、夕食とかはどうすればよいのでしょうか?」

そろそろそんな心配をする時間なのか? 判りづらく置いてある時計を見て確認すると、確かに夕方過ぎだ。あれ、ジュリエッタたちはどうするつもりだったんだろう。

「私は、馬車に戻るつもりです。会議でよく移動しておりますので、あの馬車で眠るのは慣れておりますし」

ユキさまにこれ以上迷惑をかけられませんと遠慮してくれているが、正直、寝床はすくないんだよな。時折リスティが泊まって行くとユリアナのふとんで一緒に寝ている。俺のベットでって言ったけど、それだけはダメと断わっている。まあ実際スペースがないんだけど、流石にこの時間から返して馬車泊というのはかわいそうすぎるし。

「あの、私こちらの部屋で床で寝ますから」

とかユリアナが言ってるけど却下ね、それは。


「あとあと、ご主人さま。夕ご飯どうしますか?」

あー遅くなっちゃったし、この人数分いまから用意するのは大変そうだな。あ、そうだ。

「ユリアナ。ご飯は炊いてある?」

「はい。もうすぐ炊けると思います」

うちは日本直輸入できるジャポニカ米と電気があるので主食はご飯だ。最初はご飯とおかずを分けて食べる日本スタイルにユリアナはとまどっていたが今はすっかりハシも使えるようになった。

「ジュリエッタは苦手な食べ物とかある? 辛いものとか?」

「いえ、特にありません。街をいろいろ移動することが多いので、なんでも食べられるようと父や母に仕込まれております」

「もしかして、あれか?」

とリスティが会話からメニューに気付いて、目を輝かせている、もうバレたか。

「魚介とか大丈夫だよな?」

「もちろんじゃ!!」


 じゃあ、用意するかね。俺はその場を離れてユリアナと一緒に納屋の方に。納屋から寸胴のナベをだして、台所に運ぶ。さすがにちょっとこれは重いから、俺が運んだほうがいいだろう。

 時間停止を解除すると、もうスパイスの香りが漂ってくる。ああ、この香りだけでお腹がすいてくるわ。カレーの匂いは人をダメにするね。少しだけ火を入れて暖めなおす。まあナベごと時間停止かけておいた真のフリーズ食品なので前に食べたときからちょっとも変化してないんだけどね。

皆の分を用意して部屋に戻ると、リスティーが両手を挙げて喜んでいる。

「今日訪れてよかったわ、ジュリエッタにも逢えたし、かれぃにもまためぐり合えたわ」

「かれぃと言われる料理なのですか、初めて拝見しますが。いい匂いがいたしますね」

前来た時に、もらった芋でカレーを作ったら、リスティが目の色変えて食べてたんだよね。肌が黄色くなるぞ、って言ってもかれぃを食べて黄色くなるなら本望じゃとか言って皿を離さなかった。ふふふ、食べてみるがいい。今回のは由香里ねーさんも脱帽した、スペシャルだ。

私は結構ですとか遠慮しているクミさんに、貴女が遠慮したら、うちのユリアナも遠慮してしまう。一緒に食べてくれないか? って半ば脅して席につかせた。そしてジュリエッタやクミさんが、おそるおそるカレーにスプーンを入れ口に運ぶ。

「これは……」「ちょっと辛いですけど、美味しいですね」

二人とも一口食べて驚いたあと、もくもくとスプーンを動かしている。リスティは、カレー体験済なので、それを見てどや顔だ。リスティは作ってないだろって突っ込みたいが、この後がちょっと楽しみ。

「ふふふ、ユキの家の食い物は大抵美味いがこのかれぃは別格よな」

と、自分も愛おしそうにスプーンですくい、口に運ぶ。

「んっ……なんなのじゃ……。味の深みがこの前のものより更に、この豊かにいろいろな味が混じりあったようなこのかれぃは!!」

うまいーとか口から文字を噴きだしそうだなリスティは。それを見てメインで作ったユリアナも嬉しそうだ。まあ彼女だけの手柄じゃない、この土地でしか食べられないカレーだからね。

 実はこのカレーのスープは、漁師さんたちが、取ってきたカニやエビを大きなナベでがんがんと大量にゆでるときに出る残りのスープがメインになっている。カニやエビの身は入ってないけど濃厚な海鮮のうまみがこれでもかと入っていて、ある意味てっぽうカレーといった感じか。

割と大量にできたんで、ナベごと時間停止して保管しておいたのだ。そのうちまた楽しもうと思って。まあ、あそこでまた倒れる勢いで食べてるリスティがかなり減らしてくれそうだがね。


結局、リスティが3杯食べてダウンしてしまって、それ以上の話の進展はなかった。ジュリエッタはリスティと共に布団で寝ることになり、俺のベットになかば命令してユリアナを寝かせる。みんな体小さいから、一つの寝具で二人眠れる感じだ。

 ちなみにクミさんは先ほどまでいた部屋で剣を抱いてねると言って聞かないので、厚手の毛布を何枚か渡した。まあ暖房いれっぱなしなので、寒いことはないと思うんだけどね。しかしうちの実家の電気代は大丈夫なんだろうか……。電気ストーブやセラミックヒーターだけでも4台稼動してるんだが、普通にブレーカー落ちそうな勢いだしメーターぐるぐる回ってそうだな。兄貴は好きに使えの一点張りだし。甘えてていいのだろうか。まああちらでお金に変えられるようなものみつけたら渡すかねえ。


 同じベットにユリアナは寝かせたが、彼女はまだ性をまったく感じさせないので妹がいたらこんな感じなのかあみたいな感覚でいられる。変な気も起きないので俺もねむれそうなあ、と思ったら、まだ寝てなかったらしいジュリエッタが話しかけてきた。


「ユキさん、なんか私夢見てるみたいです、見たこともない魔道具や、食べたこともない美味しい料理、そしてこの木の床の上だというのに柔らかいおふとんという寝具」

ああ、こちらの生活レベルからしたら貴族みたいなジュリエッタでもそう思うのか。そういやジュリエッタの家のベットは味わう前に逃げ出したんだっけ。

「エルフの巫女様と一緒に寝たって他の人に言っても多分誰も信じてくれないでしょうね。本当に夢の世界に居るみたいです、ユキさんに出会えてから」


「ユキさんに出会えて本当によかった、心からお慕いしてます……」


 天井を見ながら告白とか、この2人の寝てる場所にリスティとユリアナが挟まってなかったら恋愛ドラマの一シーンみたいだな、なんて思った。その視界の端でニコニコとネズミーのDVD見ている精霊さんが居なければ。えっと、フローリアさん? そろそろそれ消して寝ようね? 割と雰囲気台無しなのよ。

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