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45話 冬の一日

「ユキちゃんいるかい?。今朝上がったいい所持ってきたよ」

認識を向けると、家の前にブルクさんの奥さんが魚を持ってきてくれたようだ。

はーいと、家の裏手で薪を割るフリをしていた俺は声を出して、家の前に廻った。ちょっと前に彼女の接近に気付いての行動なのだ、普通の生活してますアピール。

「こんな不便なところにすんでないで、もっと街の方にすめばいいじゃない」

とこの街の人たちは言ってくれるのだが、人目が少ないほうだラクでいい。いろんな意味で。


「ホント、ユキちゃんに足のケガ見てもらってから若返ったみたいだってうちのダンナもまた仕事に励んでるし、ありがたいことだよ、本当に」

「あははは」

実際、部分的にアンチエイジング掛けたなんて言えずに笑ってゴマかした。

 漁師仕事中に足の怪我をして踏ん張りが聞かなくなったブルクさんはわかり易く酒に溺れていたが、俺が骨折がヘンにくっついて神経を圧迫してたであろう患部を、ケガする前に戻してあげたのだ。マジで涙を流さんばかりに感謝されて、今もこうして取れた魚をおすそ分けしてくれる。


 ブルクさんの奥さんとそんな話をしていると、坂をぽてぽてと登ってくる、最近は見慣れた着膨れた姿が見える。白い息を吐きながら、手にカゴを持って坂を歩いてくる姿がだんだんと近づいてきて、俺が外にいるのが判ったのか、走り出して近づいてきた。

「ごし、あっとユキさま、オルトさんの奥さんにお芋いただきました」

「あー、いいね。あとで、ふかしておやつにしようか?」

「はい! 準備します」

あとでっていったんだけど、台所にすっ飛んで行ってしまったユリアナ。まあ元気になってよかった。

「あの子も元気になったねえ。最初みたときはビックリしたもんだけど、あれもユキちゃんの魔法のおかげなのかい?」

って聞かれるけど、そうじゃない。と思う。栄養あるものを食べて、適度に運動していただけなのだが、いつの間にか凄く元気になってきた。村の子供たちにもかけっこで負けないって言ってたし、ちょっとペースが早い気もするが。まあ、元気になってなによりだ。



 あのユリアナの火傷を治してから、かれこれ2ヶ月がたっていた。あの次の日、宿を引き払った俺は、毛布にまいたユリアナを背負って街道を戻り、スリアの街に入った。衛兵長さんは、治癒されたユリアナに凄くびっくりしていたが、通りすがりの治癒魔法使いになおしてもらったっていういい加減な言い訳を聞き流してくれた。


 で、彼女の体を休める場所がないかと聞いて紹介されたのが、この昔木こりの人が住んでいたという小屋だった。もうなくなった衛兵隊の人の父が作業時に使っていた小屋なんだそうだ。海岸沿いに集まっている漁師たちが多く住む市街からちょっと離れていて近くに小川もあるから便利なはず、なんか身を隠しやすい場所みたいな場所を推薦された感じがする。その厚意をありがたくいただき、今はここに住まわせてもらっている。春になったらまた旅を始める予定、というのもユリアナは南の島の出身らしく、寒さに弱かった。そんな彼女を衰弱した状態で冬の旅に付き合わせたら何が起こるかわからないのでしばらくゆっくりすることにしたのだ、こっそりと。


 ゲートによるライフラインがある俺は、街に関わらないでも生きていけると思っていたのは数日だけだった。街外れの幽霊小屋に人の気配がするって小屋を覗きにきた子供たちが、木から落ちて大怪我したのだ。迷わず回帰でケガする前に戻してあげたんだが、アメを渡して

「今見たことは秘密ね」

って口止めしたはずが、いつの間にかすごい魔法使いの人が森に住んでいるという話が広まってしまっていた。ナイショ話なんて人に話したくなるものだが、次の日には腰が痛いとかいう人が様子を見に来ていて頭を抱えた。


 もう広まってしまったら仕方ないので簡単に相談にのってたら治癒魔法使いのユキちゃんになっていた。腰が痛いという人にサロ○パスをあげたりするくらいで大したことはしてないんだけどね。さっきのオルトさんのダンナさんくらいだ、まともに魔法使ったのは。


 オルトさんの奥さんにお礼を言って魚を持って家に入る。どうしよ、これまた由香里ねーさんにバター貰ってバター焼きにするかな、なんて部屋に戻ると来客、客なのかなこれは。

「妻に向かって、なんて他人行儀な事を言っておるか。こんなに可愛い妻を遠い里に放置するとかありえんじゃろ」

と自称通い系可愛い妻さんのリスティが電気ストーブに当たっている。あ、その目は可愛いけど、ちょっと怖いからやめよう。ちなみにリスティさんとのパスも先日の件でひっそりとパワーアップされ、俺のいる場所がなんとなく判ったりするようになった。この隠れ家がバレたのもその力のせいらしい。ここに居を構えて、2日後には顔を出したからびっくりしたわ。しかもボロボロ泣いて。


「元はといえば、心配をかけるだんな様が悪いのじゃろう、あんな遠くでマナが見るからに小さくなっていくのを見せられてみよ、心配するなというのがムリじゃ!!」 

 あの肉体回帰で限界までマナの力を振り絞った俺はかなり危険だったらしい。大量のマナの動きを感知して由香里ねーさんと一緒に寝ていたフローリアが戻ってきてくれなかったらやばかったかもしれない。ここまでは森を通ってこれるのでリスティ的には日帰りできる距離らしい。なのでこうして、しばしば訪れてきている。


 ちなみにフローリアさんはというと、今はペット用の電気カーペットの上で楽しそうにポータブルDVDでディ○ニーの映画を見ている。あちらに行っているときに仕込まれたのか操作とかDVDの交換とか自分でやってるのは見ていてちょっとシュールだ。台詞は日本語だからわからないけど、見ていて楽しいんだそうだ。日本語わからないのに、由香里ねーさんとはコミニュケーション取れてるのが不思議でしかたない。まあ存在が全部不思議みたいなとんでもないコだから、考えるだけムダか。


 とんでもないと言えば、兄が仕事を退職していた。ちょ、何してんのん。

「退職金もあるが、他に金のアテもある。好きに使え」

とか言われて困惑した。なんで、そんなにこちらに来るのに前向きなのか聞いてみたら、そんな研究対象にあふれた世界にいける可能性があって、足踏みする研究者はいない。キリッとか言われた。


 今は都内にあった家のほかに、郊外に家を探しているらしい。この付近で俺が出歩いたら目立ちすぎると言われた。もうゲート完成が確定してるように行動されているのだ。ゲートはフローリアの強化によって少し拡げることができた。今は20センチ四方の物であれば通せるゲートを戸棚に仕込んである。なのでいろいろと持ち込んでおり、電気もコードでこちらに引き込んだ。実家の契約アンペアもあげたから好きに使えといわれてる。なんか至れり尽くせりすぎだ。


「あ、リスティ様いらっしゃいませ」

とほこほこの芋を皿に載せたユリアナがキッチンから戻ってくる。着膨れしていたコートは脱いで、今は由香里ねーさんがフルデザインして作り上げた白基調のメイド服みたいなのを着ている。最初の頃は染みや汚れが付くたびに、

「こんなに綺麗な服をいただいて汚すのが耐えられません」

って泣いていたが、俺が肉体回帰を理解して、回帰を局所限定的に使いこなせるようになったお陰でなんとか普通に着るようになった。今度カレーうどんを食べさせてみよう、慌てそうで楽しそうだ。

「お、芋か。美味しそうじゃな。わらわにもわけてくれ。あのまよねーず付きでな」

「はい、用意してます、あ、あとでまた魔法見てもらえますか? 少しコントロール自信がついてきたんです」

いつの間にかリスティの魔法の弟子になっていたユリアナ。筋が良いし、底も見えんと師匠が絶賛している。


 なんかこの普通の光景を迎えられたのが嬉しい。ユリアナはもっと幸せになるべきだと思う、俺の奴隷なんかじゃ足りない。もっと何かを探して欲しい。彼女の命を繋いでくれたユリアナのお姉さんに、いつか彼女がこんなに幸せになったよって伝えられるように。

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