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44話 子守唄

 目覚めると、部屋は真っ暗だった。あれ、違う、起き上がろうとする頭の上からなんか押えられている感じがする。暗いんじゃなくて、なにかに挟まれてるんだ。


 俺は空間認識を起動して、部屋の様子を確認してみると俺は、さっきまで治療していた女の子に床で膝枕されていた、うつ伏せで。普通、膝枕って仰向けだと思うんだけど!! と思ったが、多分床に倒れこんだ俺を膝にそのまま乗せてくれたんだろう。あの衰弱した体じゃ俺を動かせなかったに違いない。そして、そのまま疲れて俺に覆いかぶさって、寝てしまったみたいだ。

 

 あの魔法の発動から、どれくらい時間がたったのか感覚がないな。それにしても回帰が上手く行ってよかった。彼女の惨状を見たときから術の行使は考えてはいたけど、あの取引の前に直してしまったら彼女は帝国が手放さなかっただろう。

 倒れる前にちょっと見ただけだけど、褐色の肌に緋色の瞳の可愛い女の子だった。彼女を守るために、そのお姉さんはどれほど苦悩したのか、想像もできない。そういや助けてくれたフローリアはどこにいるのだろう、と机の上のハウスを見るとしっかりと寝ていた。俺もこのまま甘えて、ちょっと目を閉じさせてもらおう……。


 さわさわとなにか触れられている。彼女が俺の頭を撫でているようだ。あーうつ伏せ膝まくらにこれはかなり気恥ずかしい。彼女は俺の髪を撫でながら、聞いた事のないけど、なにか優しいメロディを小さく口ずさんでいる。フローリアもいつの間にか起きて、彼女の頭に覆いかぶさるようにぺたっと引っ付いて歌を聴いているようだ。俺もこのまま聴いていたいのだけど、状態が……。


「それ、なんの歌?」

と聴くと、彼女は手を止めてちょっと焦っているようだ。

「これは、私の居た島の……子守歌です、ご主人さま」

子守歌か、もうちょっと聴いていたかった所だが。

「ゆっきー気持ち良さそうに寝てたよ」

フローリアがくすくす笑ってる。仕方ないだろ、この数日、ちょっといろいろあって荒んでいた所に染み入るような綺麗な歌声だった。ヒーリング効果ばっちり。

「いや、綺麗な歌声だったよ。よく眠れた、ありがとう」

女の子はちょっとはにかむ様に微笑んだ。うむ、可愛い。


「ありがとうございます。それよりも、すいません。倒れられたご主人さまを動かせなかったので、床に寝かせてしまいました」

あーそれは動かせないだろうから仕方ないだろ。俺もちびっこいけど、彼女は背が同じくらいだとしても食生活がひどかった上に、鎖で繋がれていたからか手足の筋肉はすっかりとやせ細ってしまっている。ほとんど骨って感じだ。

「うん、仕方ないよ。少しづつ体力を戻していこうね」

「はい、ありがとうございます、ご主人さま」


 あのただれた口と喉で喋れなくて片言だった彼女が流暢に喋るのは嬉しいのだが……。

「そのご主人様っていうのやめない?」

「じゃあ天使さまでよろしいですか?」

 いや俺は天使じゃないし、偽神父でもない。あ、偽勇者ではあるかも。

「???」

なんでそんな事いいますの? みたいな目で見られちゃうと困る。


「いや、私はキミを奴隷として買ったわけじゃない……。開放してあげたいと思っている」

 彼女を助けたくて、というより、あの光景から逃げたかった逃避行動だったかもしれない。しかし、それを聞いた彼女の目に涙が浮かびはじめた。ってあわわ。

「ゆっきー、泣かしたらだめなのよ?」

とフローリアに怒られるが、開放されるのってそんなに嫌なのだろうか。


「ご主人さま、わたし……要らないですか? 捨てられるですか?」

 ぽろぽろと泣いている。焦ると口調が変わるのは、こっちが素なんだろう。まだ12、3歳くらいの女の子だし、奴隷ってかしこまられないで、これくらいで喋ってくれた方がやりやすいんだけどなあ。しかし、あーそんな雨の中で濡れそぼった行き場のない子猫みたいな目で見られても。もうご主人さまでいいや……、彼女が何かしたいことが見つかるまで。

「あー、判った。しばらくはキミのご主人様でいるよ。ただ、外とか他の人の前ではユキって呼んでね」

「ハイ、ご主人さま、他の人のまえではユキさまですね。覚えます」

ってもう泣いてない、ウソ泣きってワケじゃなかっただろうけど、切り替え早いな。さまもつけて欲しくないんだけどそれはおいおいだな。ってそういえば。


「ところで、名前は?」

「ハイ、アナ以下です。あれ、もうご主人様が治してくれたですから、もう普通のアナになるんでしょうか? ご主人さま、アナってなんですか?」

や、質問をそんなきわどい疑問で返してこられたら困る。というか赤面する。

「アナちゃん?」

ってフローリア、そんな呼び方に決めちゃったらだめーっ。


「えっと、その前の名前は?」

 と聞いて見たが、彼女にその記憶は無かった。彼女らの部族が住む島にあの船が来て、姉と二人で捕まってしまった。その時に魔法を掛けられて、以前の記憶が混濁しているようなのだ。クソ、従属魔法ってマジでいけ好かないな。なんらかの方法で解除したら記憶は戻るんだろうか。いつか方法を探してみよう。そしてまた悩む、あーデフォルト名があれだと命名に困る。


「じゃあ、ユリアナ。キミは今日からユリアナで」

「ありがとうございます、ご主人さま。今日からユリアナです」

うん、ずっとその笑顔でいられる様に、これから頑張っていこう。


「アナちゃん」

ってユリアナにまた抱きついてるけど、フローリアさん待って!! それだけは変えてあげて。しかし、俺のゆっきーと同じくフローリアはその呼称を変えてくれることはなかった。


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