36話 涙
エルフのおかっぱ少女ちゃんと、そのお付きの二人に先導され、エルフの里、あーなんたら氏族とか……。
「リスナじゃ!! なんなのじゃこの度の勇者は物知らずにも程があるわ」
「前の勇者あった事あるの?」
「そんなワケなかろう、何百年前だと思ってるんじゃ」
「それくらい生きてるんじゃないの?」
「わらわはまだ14じゃ!!」
「なんだロリBBAじゃないのか」
「なんか猛烈な侮辱感を感じたぞ!!」
うむ、打てば響く感じ、素晴らしいね。割と楽しい。
「楽しくないわー!!!!」
いやー本当に可愛いし、この裏表無い感じは非常に好みだ。首元で揃えられた綺麗な髪に、その意思の強さが表れたかのような眼差しに、吸い込まれそうなとび色の瞳。
「……」
真っ赤になってきた。まるで白い雪のような肌とかもう神々の作った芸術としか思えないくらい……って。
「……ふにゃぁ」あ、オーバーヒートさせちまった。やりすぎたか。
おかっぱ子ちゃんがダウンしてしまったので、しばし足止め。周りをみたけど特に森に変化がみられない。どの辺に里があるんだろうか。
「性悪勇者め、自分の方が容姿が優れておるくせに、わらわをいじめて楽しいか……、あとおかっぱちゃんではない。リスナ・リスティリスじゃ」
「よろしく、リスナ」
「いや、それ氏族の名前じゃ、みな振り返るぞ?」
「じゃあリスリス」
「……」
「よろしく、リスティ」
気にいったのか、いい笑顔だね、可愛い。
「うにゅ……もう、あまりいじめないでくれ」
また真っ赤になってしまった。いや、いじめる気はないんだが、ここまで気持ち伝わっちゃうのは面倒だね。
「本来ならここまで強く繋がることはないと思うのじゃが……、実際なら勇者と縁を結ぶときに繋がるはずのパスじゃからのう。ん、そろそろ着くぞ。前を見ておれ」
言われて前を向いていると、それまで森の中を通る道しか見えなかったのが、明るくなったかと思うと急に開けた。そして目の前には今までどこにあったんだと思えるほど、太く高い木が生えている。
「ここが我らがリスナ氏族の里、そして生命の大樹じゃ」
遙か天まで伸びるかのような太く力強い幹からひろがる生命力にあふれた枝葉。なるほど、これは生命の大樹って感じだな。ん、なんか結構な高さにある木の洞から暖かくて力強いマナを感じる。根元あたりにある建物から細い階段がその洞まで続いている。
「ほう、感じるか。あそこはわが氏族の祈祷の間じゃ、とりあえず今はこっちじゃ」
それにしても拍子抜けだ。もっとエルフのみなさんがいっぱい出迎えてくれて、わちゃわちゃにあんなことやこんなことになるのかと思ってたのに。他の一般エルフさんたちはこちらを珍しそうに見ているくらいで、皆、畑作業など自分の仕事に集中してる感じだ。ちやほやされるのが困るので、避けようとしていたが、これはこれで困惑してしまう。
俺が案内されたのは、木の根元にある館の、その隣に建てられている家だった。館ほどではないが、いままで里で見てきた一般エルフさんたちの家よりも豪華そうだ。
「入ってくれ、わらわの家じゃ」
中に案内された。調度品は全て木で作られているようで、そのラインは素人の俺が見てもはーカッコいい家具だなと思えるレベルだ。多分買ったらお高いのだろう、お値段以上な価値を感じる。そして、そのテーブルのイスを勧められた。
リスティが自らお茶を淹れて出してくれる。日本の緑茶に似たような味わい、うん美味しいお茶だ
「うむ、美味しいじゃろう、里の自慢の茶葉じゃ。人族の王族などに分けてやったりしておる」
さて、ここまで招かれた本題を聞きたい所だ。いつの間にかおつきの二人は部屋の外に出て、待機している。余人を交えない話って感じかな。
「実は、勇者が来るという話は皆には止めておったじゃ。知っておるのはわらわの他に、あの二人とお主の事を伝えてきたクローネくらいじゃ。なので尋ねてきているお主は、わらわの個人的な恩人ということになっておる。まあそれは事実じゃがな」
そして俺に頭をさげるリスティ。
「あの時は助かった、例を言う。わらわも、そして里の子供たちも助かった」
あれは俺が助けたというよりは、あの距離から何かを察したフローリアのお手柄なんだよなあ。
「そう、そのフローリア様というのは?」
そういや静かだな。フローリアハウスを開けてみる、あ、寝てるね。とりあえず、起こさないようにその中身をリスティに示す。リスティは寝ているフローリアを自ら動きながらいろいろな角度から見て、また椅子に座り、深く息を吐いたのち何かを考え出した。なにか引っかかることがあるのだろう。
「うむ、そうじゃ。お主がこのフローリア様と結魂しているのは見て判る。ただ、このフローリア様では足りん、邪を払うには力が足りんのじゃ。羽も4枚しかない、言伝え通りなら12枚の羽を持っているはずなのじゃ」
三分の一か。それがそのまま力に価するとすれば、確かに。でも12枚パタパタしてたらジャマそうじゃな。ってあ言葉うつった。
「そして、勇者お前もじゃ。なぜそんなに弱い。確かにマナは大したもんじゃが、そんなものではないはずじゃ、そしてなぜこんなに早かった」
そんなに弱いのか。まあ確かに俺よりマナが多いやつ今まででも割と居たしな。苦労はあまりなかったけどさ。
「本来ならわらわが次の族長となった後、大樹の実が実ったときに顕れるはずではなかったのか? その為に母はもう何年も大樹の洞で祈りをささげておるのに」
何年も祈るって飲まず喰わずなのか?
「大樹の洞の中で祈り、大地、光、風など、この世界に満ちるマナをこの大樹に集め、実を作っておる。その流れの中にあれば水もなにも必要ないのじゃ」
やっぱりそうか、世界はバランスを元にもどすための準備をしてたんだな。いろいろ予定がおかしくなってしまってるみたいだな。
「勇者、お主、何を知っておる?」
あー、話しちゃうか。聞きたいこともあるし。
「驚くと思うけど、まずは聞いて。私は勇者じゃない、神から頼まれた、ただのお手伝い」
「勇者じゃない?お手伝いじゃと、何を言っておる。お主が次代の精霊女王をつれておるのにか?」
おう、フローリアさんやっぱりそういう存在なのか。やーやー言ってるの見てたら、威厳もなにもないけどなあ。
「勇者は生まれてこなかった。生まれる前に死んじゃったの、お母さんの中で」
「まさか、あの病か!!」
思い当たる所があったらしい、アセルス王国で猛威をふるった疫病、あれが原因らしいのは女神に聞いた。
「……先先代の巫女が勇者がアセルスにて生まれると予言を受けておった。それが次の季節の事だったはず。そうか……すべて狂ってしまったわけか」
ポロリ、とリスティの瞳から涙が零れる。
「わらわは生まれたときより、勇者と番うように育てられてきた、嫌ではなかった。むしろ嬉しかった。言伝えの如く険しい旅路になるとしても、運命に定められた結果だとしても、それでも嬉しかったじゃ。それが……。すまんちょっとダメじゃ……時間を、少し時間をくれ……」
俺は席を立ち、部屋を出る。フローリアも持っていこうかな、とおもったらいつの間にか起きていた。そしてリスティの頭に優しくぽむぽむしてる。ん、ちょっと彼女に任せよう。
もうちょっとボカして話そうかとも思ったけど、変に考えてもリスティに繋がっているなら仕方ないと思って全て話してしまったが、ちょっと急ぎすぎだっただろうか。部屋を出てくるとき、先ほどのお茶をもって出てきていたが、今飲むとそれは少し渋く感じた。




