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34話 約束

 杜の都に続く道、左右を森に挟まれた道を歩きながら俺はどうしようか悩んでいた。フローリアにご飯たべないの? とせっつかれている。あー、いつもこの時間に食べてるしね。いつもの様に俺の写真の前には皿が置いてあり。おにぎりと卵焼きにウィンナーが並んでる。ただし、いつもと違うのは、おれのベットに由香里ねーさんが寝ているという事。


 どういう手段を使ったのか判らないが、高坂家おにぎり連続盗難事件の犯人は俺だというのが由香里ねーさんに判明しているのは間違いないだろう。でなきゃ2ヶ月近くも毎日おにぎり作ってくれてないだろう。その事に恩は感じているし、状況を伝えないのは不義理だとわかっているんだが……。まず、この元の世界へのゲートがわりと無法な手段で開いたという裏ワザなので、下手に伝えて女神さまの不興を買う、不興どころか天罰が下る可能性だってゼロじゃない……かも。というのがひとつ。あとは由香里ねーさんに怒られるのが苦手ってのがひとつだ。


 昔から兄貴の彼女であった由香里ねーさんに俺はひどく可愛がられた。もう簡便してくれってくらい弄られて一時期は逃げ回ってたくらいだ。由香里ねーさんも、俺ら兄弟と同じくもう身寄りがない身だったので、兄貴が大学院で博士号を取って、鳴り物入りで良い会社に入ると、すぐウチの家に転がり込んできた。嫁として。そういえばあの頃から殆ど容姿が変わらないなあ由香里ねーさん。


 その頃、中3の思春期まっさかりの俺を可愛い可愛いとやたら構われればそりゃ困る。俺にとって由香里ねーさんは初恋の人だったからなおさらだった。しかも失恋してすぐにだ。一時うっとうしくなって家出まがいに友達の家を泊まり歩いたことがあった、夏休みだけどね。その時、もう怒られてかつ泣かれて、おれは彼女に迷惑をかけまいと誓ったのだ。なるべく。


 なので後回しにしてきた状況な訳なのだが。俺は、起きて出ていってくれないかなあ、とゲートを繋いだまま、部屋の様子を探っている。できればまた先送りにしたいとか後ろ向きな事を考えていると。ごはんがなかなかでてこないことに業を煮やしたフローリアが俺のポケットに潜り込んだ。捕まえるまもなくフローリアはゲートを潜り抜けて、あちら側・元の世界に行ってしまった。やっぱり通れたか。ていうか通るにしても本当はもっと生物を移動させてとかテストする予定だったのに、いきなりフローリアは行ってしまった。まあ変なことがおきなくてよかったけど。そんなフローリアは今は俺の部屋をいろいろ見て回ってる。彼女の羽ばたきは音がしないイメージ仕様だから、そのまま声を出さなければバレないだろう。はよ、ご飯とって戻ってきなさい。


 フローリアはラップを掛けられたおにぎりと卵焼きに気づいて、俺の机に降り立った。そして卵に齧り付こうとしてラップに阻まれ、ペシペシ叩いて怒ってる。あーそういやラップ見せてなかったっけ。そして、ペシペシという音に由香里ねーさんが起きてしまった……。

 フローリアがぺしぺしとラップを叩いているのを目を見開いて驚いている由香里ねーさん。フローリアの行動の意図が判ったのか、ラップを外してあげている。あ、フローリアかぶりついた。


 フローリアが卵焼きをたべるのを見ながら

「違ったの??」とか由香里ねーさんがなんか悲しげにつぶやいてる。

「ゆっくんじゃなかったの?……」とああ、泣かないでくれ由香里ねーさん、声を掛けようとしたが一瞬天罰の可能性が心によぎって口を閉ざす。だが首を傾げたフローリアが、

「ゆっきー居るよ?」と上を指差した。


 結論というか現状では天罰は落ちなかった。そして由香里ねーさんを結局泣かせて、怒られた。

「だからもっと食べ物に注意したり、運動したりしなきゃダメだってあれだけ言ったじゃない」

と泣きながら怒られ続けた。ちなみに今の俺は半泣きでジャンパーのポケットに向かって喋って謝ってる変な女の子である。そそくさと森の中に隠れた。

「ゆっくん、顔見せてくれないの? 帰ってこないの?」と泣かれたが、ゲートを今は通れない事を告げる。なので今、手だけを由香里ねーさんと繋いでいる。抱きついて、泣かれて、齧られた。

「ずっと、黙ってた!」と涙は枯れて、今はお怒りである。


「ゆっくん、なんか手小さくなった? 綺麗だし、キズは相変わらずだけど」と話しかけられて俺も今気づいたのだが、向うの世界にある時の俺の手には昔つけたキズが残っていた。こっちの世界でつるっとした綺麗な肌なんだが、不思議だ。まあそのキズを見て俺を確信してたっていうんだから、ライブカメラで見られてたってとこは本当にびっくりだ。パソコン起動してるなんてまったく気付いてなかったわ。魔法的なものや、生物以外にはこの空間把握も反応が薄いからわからんかった。まさか。あんな最初の頃からバレテたとは思わなかったよ。由香里ねーさん侮れなかった。


 それから、もう仕方なく俺は死んでから神様にこっちの世界での仕事を頼まれたこと、その為に旅をしていること、結構楽しんじゃってる事を伝えた。着替えとかどうしてるのと聞かれ、その話の延長で、今は見た目女の子だって話をしたら見たい見たいとせがまれた。仕方なく渡されたスマホで自撮りして渡したら、キャーキャー言って喜んでる。

「私も…私も行く、そっちに行きたいよ、ゆっくん」と言い出した、目がマジだ。ちなみにフローリアは由香里さんの膝の上でお昼寝モードだ。馴染んでるねえ、キミ。

「今は力が無いから、人が通れるような魔法は使えないんだ」といったら、

「今はダメなだけなんでしょ? そんな世界なら魔法のアイテムとかいろいろあるはずでしょ、見つけて、ていうか探して!!」と次の指針を示されました……。由香里さん、ディ○ニーとか好きだからなあ……。俺の姿を見たいってのもあるんだろうケド、それ以上にこの世界への興味が伝わってきた。あ、決してスベスベな俺の肌を見てアンチエイジンおっとなんか怖いので止めとこう。


 その後、由香里ねーさんはフローリアに服を作ってくれた。服の手直しやドールの衣装とか依頼されて作ってた事もあったし、由香里ねーさんは家事一般に置いて隙がない人だから、その辺は余裕だ。白いシルクのドレスみたいな服を作ってもらい、フローリアは上機嫌だ……。けどそのデザインどこかで見たことあるんだけど、って言ったらそっちに黒ネズミは居ないんでしょ?と言われた。確信犯か! 。ちなみにえらいいい布使ってるなあと触り心地に驚いたら、仕舞ってたウェディングドレス千切ったとか言ってる、何言ってるのこのおねーさん。

「だって、ゆっくんのお嫁さんにドレス手直しして送ろうと思ってたのに、ゆっくん女の子になっちゃったし……」ってまだ女の子じゃないです、見た目だけです。

「どうせゆっくんが迎えにきてくれたら、全部処分するんだし一緒だよ」って別に捨てなくてもいいよね? まあ突っ込みは置いておこう。俺にドレス作るとか言い出さなくて良かったと思いたい。


 フローリアは由香里ねーさんにおやつのぷりりんプリンも貰って上機嫌で帰ってきた。あっという間に状況かえてくれたなこの精霊ちゃんは。まあ、由香里ねーさんと話せたし、よかったかな。と頭を撫でてあげる。

「ゆかねーゆっきーと同じ匂いがするの。いいにおいなのよ?」って嬉しそうだ。由香里ねーさんはゆかねーか。ていうか由香里ねーさんこっちきたら兄貴どうするんだよ?って聞いたら。

「ん?雄介さんもいくでしょ?」と疑ってもいない様子。まあ二人で話し合ってくれ、こういう状況になってしまったら兄貴とも話さないといけないだろうなあ。

「じゃ、約束ね。ゆっくん。その世界に連れてってね」由香里ねーさんはフローリアがこっちから渡しに行った例のキラキラ石を手に載せながら笑った。てかその石俺にはくれないよね、フローリア。


 大変な約束をさせられてしまった。まあ今まで受けた恩を帰すためだ、頑張りますかね。

ちなみに由香里ねーさん、フローリアにおやつくれるのはいいけど、これ大きすぎ。

ぷるるんとしたプリンを前に、にこにこと楽しんでいるフローリアは何時動き出してくれるだろう……。



――

作中に登場する由香里ねーさんは永遠に17歳です。ヒロインではありませんが

あらかじめご了承ください。 


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