29話 次の街へ
残念ながら、ヤマバトは売り切れであった。
くっそ、悔しい。ハト胸のお陰でハト食い逃すとかもうね。
あ、なんか怒りの波動が伝わってくる。ウソウソ、冗談だって。
つかまだ繋がってるのかよ。
しかし、この目の前で見せ付けながら感想を述べるトールとかどうしてくれよう。
「くぁー、詰め込まれた香草が良い香りしているのも、この油が落ちてパリっと
して皮も旨いわ。なによりこれをクローネさんが採ってきたってとこがポイントだよな」
見せ付けるように喰いやがるので、食いついてやった。
「ってお前何しやがる! 俺のクローネさんに」
お前クローネさん食ってたのか、こえーよ!!。
「ほひほうはひただひたっ!!」旨そうな腹の部分を食いちぎる。
ああ、パリっと焼かれた皮の下から溢れる肉汁に香草の香りが乗って、マジ美味しい。
酒が欲しい。この口に残る油をよく冷えた○ガーで流し込みたい。
美味しいラ○ーが飲みたいデス…。
「…せめて飲み込んでから喋れよ。はあ、見た目貴族のお姫さまなのにトンでもないな」
「ほれほぼべも///」
「褒めてねえよ!!、はぁ、いいからはよ喰え」
ソニアさんはくすくす笑ってる。
「で、ここ出るんだって? さっきおばさんから聞いたが。
心配してたぞ、お前みたいなのが一人で旅するなんてって」
「あーうん、街道北上して、トレドの街で準備して、そこからタイセツに向かうつもり」
ポケットからサンドイッチを取り出してパクつく。ん? サンドイッチ?
皿の横に付箋が張ってある…
『ゆっくんへ、お米買ってくるの忘れてて切らしちゃいました。
ごめんね、今日はこれで我慢してね』
由香里ねーさん、死者に付箋とか……というか、考えないようにしてたけど、
これバレてないですかね。あー今度対応を考えよう。
ぱくぱくと食べていると、二人の視線が俺に刺さってる。
「おまえ、それ今どっから出したんだよ」
「ぽへっと?」
「いや、それは見たけどよ。なんだそれ白くて、なんか挟まってるのか?」
「ふなまお」
「だから口にいれて喋るなって。お前本当にマイペースな」
煩いのでもう残り2個のうち1個を渡すか。残り1個は見た感じ
フルーツサンドだ。あれはあとでフローリアに捧げよう。
いや、怖がってとかねーし。
ほい、とトールにサンドイッチを渡すとふんふんと匂いを嗅いでいる。
「もう一個出てくるのかよ……、これパンか?柔らかいけど」
警戒してか、少し千切って口に放り込み、無言で食べる。
目を見開き、無言で二口目。うむ、旨い物は人を無言にするね。
ソニアさんがこちらを見つめている。ごめんもう無いんだと目で訴え、
ふるふると首を振る。するとトールの持っているサンドイッチを奪い、
半分にして返した。ちょっと不満そうなトールだったが、また黙って食べ始める。
「これ、柔らかいパンね。中身も魚?かしらソースと合わさって美味しい」
とソニアさんが少し口にして微笑む。
ヤ○ザキが異世界入りしたら、世界を白い皿で埋め尽くしそうだな。
ツナとあえてあるマヨも日本が誇る天使印のアレだろう。
自作する方法は知っているが、アレ以上にうまいマヨは素人じゃ作れん。
ソニアさんと、近寄ってきたおばちゃんにソースの事を聞かれたが、
材料と作るふわっとした流れだけは教えたけど、再現はムリだろーなー。
「鳥の卵黄とかこのパンとか何時手に入れたんだい?」とか聞かれたけど、
「ナイショ」で押し通しました。乙女には秘密が付きものなのさ、男だけど。
村の北端の街道まで二人は付いてきてくれる事になった。
3人で街道を歩く。一人旅は気楽だけど、ってフローリアは居るけどさ、
誰かと一緒の旅ってのも楽しそうだな。そんな事を考えながら。
とりとめもないことを話しながら歩く。
時にトールにからかわれたり、いろんな話をしながら。
一着しか服がないって話をしたら、かなりソニアさんに心配されたので、
トレドの街で買うのを約束した、というかさせられた。
「私のお古でいいならあげるから!!」って本気で心配されたので仕方ない。
まあ正直俺もありえないと思っていたのですよ。
「それじゃ、行くね。いろいろ教えてくれてありがと、ソニアさん、トール」
「ってなんで俺は呼び捨てなんだよ」「うん、元気でね、ユキちゃん」
二人に声を掛けて旅立とうとすると、トールが真面目な顔で
「魔法使いの中にはさ、相手のマナがわかるヤツが時々いるんだ。
……ソニアも最初、お前が何か隠してるって心配しててさ。
その、えっと、だから変な奴とか気をつけろよ?。
そのバックの中身だって目の色変えて欲しがる奴いるぞ?」
「えっと、ありがと」と礼を言う。
そして、ソニアさんの耳に口を寄せて
「トールって可愛いね、ソニアさん逃がしちゃだめだよ?」
と悪戯っぽく囁いたら、真っ赤になってしまった。
「もしかして、分かる?」って聞かれたけど隠してたつもりだったのか。
ソニアさんも可愛いわ。もうお二人お幸せに爆発しろ。
二人に手を振って道を歩きはじめた。
その後、急いで旅立ったのを後悔した。フローリアが
フルーツサンドでべったべたになったのだ。甘いホイップクリームに、
みかんや白桃のシロップ漬けに大興奮。食べるのにえらい時間が掛かるわ、
そこら飛び回るわ。フローリアは体じゅうべたべただ、喜んでるが。
由香里ねーさん、これはダメっす、大惨事です。
暗くなるなかこっそりと村の川で、フローリアと服を洗っていると、
「おま、あの別れでここにいるとかどうなんだよ」
と呆れたようなトールに見つかりました。ソニアさんは笑ってたが。
恥ずかしながらもう1泊となりました。




