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27話 朝と出会いと私の事情

 ふぃー。お金がある朝って良いですね。おはようございます、ユキヒロです。

 昨日手に汗にぎる商談は夕方まで続き、ボールペンは金貨1枚で売ることに。実はそれ以上を提示されたんだが、この見えているインクが無くなったら使えなくなりますから!!と、自分から提示された額を下げた。永遠に使える魔法のペンみたいに思われて詐欺扱いされたら困る。

 正直、ボールペンなんて使い切った事ないから、どれくらい持つかわからないし。大体いつも途中でどこかになくなる。あれは見えない妖精さんに持っていかれやすい物体だ。おのれアリ○ッティめ。


 ちなみにウチの見える妖精さんであるフローリアとは、もう魔石を取りに、肉体ダイブ(物理)をさせない事と、5日間食事に果物を用意することで、なんとか合意に達した。

 とりあえず俺の部屋にある物品で、金の心配はしばらく所なくなった。魔石に関しては保留ということでいいだろう。将来的にはなんとかしたいが。


 ほんとに昨日の一件まで、自分のポケットが、おにぎりとおかず専用ゲートという固定概念に囚われていた。ジャンパーのポケットを通るものは、いろいろ持ち出せるんだよな。由香里ねーさんのおにぎりの魔力のせいだな。仕方ないね。とはいえ、あのグレイス邸の時点でこれに気づけば、一線を踏み越えなくてすんだのに、と昨日はちょっと血の涙を流しかけた。


 つか俺この世界来てから泣きっぱなしだ。妙に涙腺がもろい。こんなんじゃ、そのうちクライマジシャンユキとか異名を付けられてしまうかも。シロネコユキ? 知らない子ですね。


 で。衣服を元の世界から取り出して着替えようかと思って、持ってるものをテーブルの上に並べて気づいた。なんでギルドカードの性別が女になってんだ!!


 あの職員さんめ、性別をちゃんと確認してカード作ってくれよ!!

まあこんな容姿をしている人に性別はなんて質問を投げるのは勇気がいるというか、正直正気を疑われるか。


 すでに見た目という点で俺は完全に女の子になってしまっていた。膨らむ様子のない胸と、無くなる様子のないマイサン、外見上の違いはそれくらいだろうか。


 俺も頭おかしくなってたから、登録名ユキにしちゃってるしな。途中で記入をやめるのは虚偽でないと判断したのか、それとも、あの混乱時の俺が自分をユキと100%思い込んでいたから、誤認したのか?

どちらにせよ、問題なのは俺の現在の公式証明書の性別が女という事実。


 今なら、あの時の記載まちがってたんで修正してください!!。と行けば直してもらえるかもしれない。そうするとですね……いつもドレス着て、うふふとか言ってたのは何だったんだという話になるわけだ。


 というわけで、冒険者ユキです。うふふ。もう知らんこれで行く。


 つか盛大にバレたグレイス城砦都市からまだ指名手配が掛からないな。娘に淫行を働いたってあのおっさんが手打ちにくるかとも思ったんだが。あの狼どもを狩ったんでお目こぼしをしてもらえたんだろうか。それならラッキーだ。その為に俺がやったって証拠をひっそり残そうと、武器を残してきた甲斐があったってもんだ。

 

 しかし、新しい服も買わなきゃなあ、女装で押し通すにしても着たきりスズメでいるわけにも行かないのだが。ちなみにもう10日くらいスズメさんだ。ただ例の異常な新陳代謝の低下によって汗臭かったり、汚れが出るみたいなのは無いんだよね。そしてまだ髪は伸び続けている。この、呪いの人形じみた体質はなんか理由がありそうなんだが。この世界の事すら良くわかってないからホントわかんないことだらけだよ。


 とりあえず、朝ごはんがあると聞いたから食堂の方に行くかね。さっき宿の下働きをしている女の子が運んできてくれた水で顔を洗って、部屋を出ることにした。フローリアはまだちょっと眠いようなので、ウェストバックでごろごろしてる。フチに足かけちゃいけません、はしたない。


 宿の廊下を食堂に向かって歩いていると、カウンターの前で宿屋のおばさんと話しかけているのは耳の長い女性だ。背中に弓を背負い足元にはなにやらカゴが置いてある。なんかこっち見てますが……。

「ああ、おはようユキちゃん、良く眠れたかい?」とおばさんが声を掛けてくる。

「はい、おはようございます。久々にやわらかいベットで気持ちよく眠れました」

「ユキちゃんみたいなコが野宿なんてしちゃダメよ! 冒険者なんてヤクザな仕事してないで、おばさん家の子にならない? なんなら息子の嫁に」

あー、それはノーサンキューの方向で。おばさんの息子の嫁にならなくても息子付いてますし。それに人は良さそうだけど、もう30からみのおっさんじゃねーか、あんたの息子。

「心配ありがとうございます。で、こちらの方は?」と話のポイントを切り替える。なんかフリーズしちゃってるしね。


「ああ。この人はあの森の奥に住んでるエルフ族の人さ、時々罠に掛かった獲物を持ってきてくれるんだよ、うちの畑の野菜と交換にね。昼来れば良いヤマバトを貰ったから焼いてあげるよ?」

 それは気になる。昨日の料理も美味しかったし、期待が持てるんだが。

「エルフさん?」

俺が声を掛けると、エルフな人はやっとフリーズが解けたようだ。

「あ、ああああの、その方もしかして」

と視線を向けた方を見ると、なるほど、気にしていたのは俺じゃなくて、ウェストポーチの中でだらしなく、でろーんとひっくり返ってるフローリアか。


「あー、アセルス王国の方でであった連れ合いです」と説明する。

その答えにエルフさんはどこか納得したようだ。動揺もちょっと収まったのかな?

「私は大森林の奥にあるリスナ氏族に連なる者です。勇者様、是非我が…」

「私勇者じゃないですよ?」

残念ながら、この世界を救うはずだった勇者は生まれる前に死んでしまった。俺は、女神さまから勇者の仕事を任されてない。その力が無いと判断されたからね。適当に世界を回って、なんとなく善側な事をやっていればいい、そんな感じだったはず?。


「……できましたら、大森林においでいただき、我が氏族の巫女に逢って頂きたい」

是非からできたらに変わった。ふーむ。

「今すぐ、という約束はできませんが。杜の都には行く予定でしたので、その時にそちらにお伺いします」と約束した。


 エルフのおねーさんは、

「お待ちしております。では急ぎ要件が出来た故、失礼いたします」

と本当に急いで走って森に駆け込んで行った。速いなー、認識で追いかけていたが、そのうち振り切られた。ちなみに全然揺れてなかったね。あれはあれで良いモノだ。


 なぜ直ぐ行くという約束をしなかったかと言うと、あのまま招待されたら勇者様!! みたいな大歓待をされかねないから。それは俺の望む所でないし、なにより役どころが違う。


 とりあえず知らなきゃいけないこともあるし、フローリアの事もちょっとは判りそうだ。杜の都、そしてエルフの里に向かう事にするか。こっそり行って、やばそうなら逃げてくるかね。逃げるのは大得意だしな。


 

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