26話 輸入
俺は森をさまよい、ゴブリンを探して歩いた。目的は魔石の保持実験だ。実験が進むにつれて、どんどんゴブリン資源は減り、そしてどんどんとフローリアの機嫌は悪くなっていった。もう悪循環である。
フローリアに手を汚させないように、木の枝をナイフで削って作ったトング的な物を使って魔石を取り出そうとした。しかし、俺が持った木で魔石に触れても吸い出すような感じがし、そして魔石は小さくなっていく。木や葉、そういったものを介しても吸収が起こってしまう。
ためしに魔石に時間停止を掛けてみたり、掴むトングの時間を停止してみたりしたが結果は一緒だった。先に時間停止ナイフで切り裂いたゴブリンの、魔石がなかったのもコレが原因だろう。
もしかして強敵相手に相手の体にゾブっと手を突き刺して魔石を握ればクリティカル? 失敗したら目も当てられないことになりそうだが。トランペットのメロディと共にとどめとかちょっと憧れる。
ちなみに、元の世界のものならどうなんだろう、とペットボトルの先で触ってみたが残念ながら吸収が発生。上手くいかんもんだ。
俺が接触する魔石は吸収される、物を介在しても同様。俺とマナのパスが開いているが、フローリアにはその吸収は影響しない。とりあえず、移動しながら見つけたゴブリンを見鬼必殺で片付けつつ、実験をくりかえした。称号があったらゴブリン殺しとか付きそうだな。ちょっと嫌。
フローリアが取って、袋にいれて、運べば吸収は発生しない。んだけどなー。けど精霊と一緒なのを不特定多数に知られたくないからちょっと躊躇する。なによりこの今もまだぷりぷりしているぶらっでぃふぇありーの機嫌が問題だ。彼女のサイズからして魔石を取るためには切開した死体に入らなければいけない。
あ、ごめん。頼んどいて考えてなかったけど、俺もそれ、凄いイヤだ。ダイブインユアボディ(物理)とか。
ペットボトルに残っていた水をフローリアにかけ、体を綺麗にしてやり、残り少なくなってきたドライフルーツを捧げる。怒りながら食べてる……。
「もー、ゆっきーはいっぱいキラキラもぐもぐ食べてるのに」とプリプリしながらもぐもぐしてる。俺としては食べてるつもりはないし、美味しいともなんとも感じないのだがなあ。やはり吸収すると俺の力になっているんだろうか? 全然実感がないのはゴブリンというザコの魔石のせいなのかね。あいつらのマナなんてドーム計算したらホームベースくらいしかないしな。
とりあえず、現状での魔石集めでの金策は難しいというのが判った。困ったな。あと金策といったら何があるかなあ…今、手持ちの物で一番価値がありそうなのは…このドレスか…いや売れないだろ…なにより借り物だ。仕立ていいもんなあコレ、着心地いいし。ちょっと涼しいけど……。ってなれちゃダメだ俺。
えっとフローリアハウスには…「やー!!」 はい、すいません。ノータッチで行きます。しばらくフローリアさんはアンタッチャブルだな。
あとはグレイスの街で買ったこまごまな物だが、こんなの売っても二束三文だろうし、なにより売っても先に繋がらない。まいった。俺は街に向けて歩き出しながら、手持ち無沙汰になった手をジャンパーのポケットに入れ、ちょっと行儀悪く歩き出す。
ん?。
俺はスノフの街で唯一の宿屋兼食堂を訪れた。目的は、食堂で食事をしている商人だ。隊商らしく護衛の男たちも、別のテーブルで食事をしている。
俺が商人のテーブルに近づくと、身なりの良さげに見える俺はいい商売相手に見えるのか、
「なんだいお嬢さん?何か欲しいものがあるのかい?」と切り出してきた。残念、俺はほぼ無一文さっ!!。ちなみにジャンバーは外に隠してきた。フローリアに番して貰っている。
「こんにちわ、商人さん。あの見ていただきたい物があるんです」
ナップザックに折れないように丸めて仕舞っていたそれを取り出す。
「!! それは?」目にしたことのないようなものらしい、よし掴みはもらったかな?
「これ真っ白な紙なんです。すごくペンの走りもいいし書きやすいんですよ?」
ちょいウソだ! パソコンのプリンターから出してきた単なるコピー用紙だ。それを彼の前に紙を扇のように拡げた。
ギルドの受付時に書いた紙といい、そこらのお触れなどに使われている紙質を見てこれは商品価値があるだろうと判断したんだ。
「これは……エルフたちが白い紙を作る秘伝を持っていると聞いた事があったが……それですかな? お嬢さん」
へーエルフは紙を作れるのか。でも幻ということは出回るものではなさそうだ。
「えっと出所はナイショ、ということで」口元に指一本のジェスチャー。
「で、これ幾らなら買っていただけます?」と持ち出してみた。
商人は必死に頭の中で計算しているようだ。
「……銀貨3、いや銀貨4枚でどうでしょう?」
やったパンが40個も買える!ちょっと迷った風を見せたが、引き伸ばして交渉を打ち切られたら今日困る。そしてフローリアにまたぽむぽむされてしまう。
「えっとそれ「銀貨5枚で!!」」まあ商人さんがそう言うなら、
「それじゃあそれでお願いします」彼にコピー用紙を渡す。フフフ、近所の電気屋で1枚1円以下でかった用紙が500倍。万馬券もビックリだ。
「では、これで。すいませんが大銀貨はありませんが」
とあれ、じゃらじゃらと銀貨が積み上げられる。
って1枚5銀貨か!!。俺、まとめて5銀貨のつもりだったんだが。商人さんニコニコだしもっと高く売りつける算段があるんだろうな。
コピー用紙11枚が、55銀貨に化けたです、もう働くのやめたい。あ、まだまともに働いてなかったっけか……。とりあえず俺の机周りは思った以上に宝の山なのかもしれない、有限ではあるけど。
「あと、こんなものもあるんですが、これインク付けないで書けるペンなんです」
とコンビニで108円で買えるクリスタルな感じのボールペンを見せる。商人の目にキランっとハイライトが走ったのを俺は見逃さない。
フフフ、メインはここからだ。俺は可愛らしくイスに座り商談を開始した。今日はおいしいものたべて、ベットで寝ようなフローリア。で機嫌を早く直してくれ……。




