22話 城砦都市とバイバイ
日が暮れゆく町並み、人通りの少なくなったメインストリートを、俺は城門に向けて歩く。
街に入る前から興味があった商店街がもう殆どしまっていて、ガッカリだ。ネコ耳店員さんの服飾店ももうしまっており、あそこで服を買い換えようとしていた俺は初手から躓いた。まあ時間も限りあるし、さくさく動くか。
ちなみにまだ首長邸の時間停止は解除していない。家の門扉も閉まっているし、外側からは異常は判らないはずだ。とはいえ誰が異常に気づくか判ったものじゃない。早めにいろいろ行動して街の外にでて、そこで解除する予定だ。
「どうして、こう余裕の無い旅が続くんだろう」とか落ち込みかけたら、ぽむぽむとフローリアに頭を撫でられた。あー心配させたね、ごめん。たとえ女装して都市に入り込み、その都市長の娘にいんこーを働いた犯罪者と罵られようとも前に進まねばならないね。そうね、あ、また涙が。
まだ店を開いていた雑貨屋らしき店に飛び込む。
「あ、お嬢さんいらっしゃい。あまり貴女みたいなコにあう物は置いてないと思うけど、気に入ったものがあったら…」と店主のおっさん。
お召し物がよろしいので、良家のお嬢様だと思っていただけているらしい。今ちょっと開き直れる気分じゃないので、その辺りはつつかないでいただきたいが。
えっと、と店の中を物色していく。確かに庶民の使うような日用品が並んでいる。まずは欲しいのは…と、旅人が背負うようなナップザック、ちょっと大きいが。小銭を入れる皮袋、なんにでも使えそうなタオル地の布。あと10mくらいの麻っぽいロープを3束と糸、針。ランタン…は要らないかな?といろいろと物色し、金は足りるだろうと、旅に使いそうなものをぽいぽいとカウンターに並べていく。
「えっと、じゃあ合わせて16銀貨ピッタりでいいかな。って持って行けるのかいお嬢ちゃん? お迎えとかは?」
と、冒険ごっこのお姫様な風の俺が、詰めてもらったリュックを軽く背負うと、かなりビックリしたようだ。そして、金貨を渡すと、
「おつり多くなっちまうけどいいかい? ウチみたいな店は大銀貨の釣りなんて持ってないんだよ。両替商ももうしまっちゃってるんで…」
急いでいたのでそれでOKした、小銭入れはもうパンパンだ。入らない分はフローリアハウスへ。キラキラした銀貨はお気に召したようだ。カラスか!
武器というかナイフくらいは欲しかったので、道具屋のおじさんに聞いてみるともう仕事上がってるだろうけど、紹介するよ、と連れて行ってくれる。そこは商店の並びからちょっと離れた所にある鍛冶屋だった。円形の炉はまだ熱気を持っているけども、火は落としているようだ。道具屋のおっさんが声を掛けると、小屋の奥から浅黒い肌をしたハゲのおっさんが現れた。ドワーフ出てくるかと思ったのにちょっとガッカリだ。まあ、またの出会いに期待しよう。
「なんだハンスか、この前の払いを持ってきたのか?」
「ああ、こちらのお嬢さんがいろいろ買ってくれてね。まあ、それは後でな。お嬢さん武器が欲しいって言うんで、ここにお連れしたのさ」
「おう、ならお客さん…か」と、ちょっと訝しそうにこちらを見るおっさん。子供の遊びに本物の剣売りつけていいのかとか普通考えるよなあ。
「普段使いできるようなしっかりしたナイフが欲しいんです」と要望を口にする。
「ナイフか、あんたの手に合うようなモノは……、ちょっと待ってくれ」と、製作物を置いてある棚を探してくれている。俺は初めての鍛冶屋に回りを珍しげに物色していると、
「炉には近づくなよ!」とおっさんにたしなめられた。おう、気をつけるわ。ここの剣は鋳物なのか。溶かした鉄を鋳型に流し込んで、その後叩いて整形する感じなのかな?
作業名の端っこの方に刃先の鋭い穂がついた、槍らしき物体がある。ってなんか柄が思ったより短いな。ショートスピアより短いんじゃ。
「こんなもんでどうだい、ってソレか。それは恥ずかしいが失敗作でな」
と小ぶりのナイフを持ってきたおっさんが説明してくれる。
長槍を運搬しやすくしたいと、柄を金具での分割を試したらしい。が、木の柄を長く組み合わすと、強度が足りずに折れてしまう。そんな欠陥品なんで、何かに再利用しようかと置いてあったらしい。
「柄と金具を太くすると、折れないけど今度は使いづらいしな」と嘆息した。
「……この槍売ってもらえませんか? あ、そのナイフもね」
これは失敗作だから、と断るおっさんに、俺のキラキラお願い攻撃を何度も仕掛けてなんとか売買交渉が成立した。勝ったぜ!
穂先に良い鉄を使っているが、失敗作だからな。とナイフとその二つの木製の鞘込みで60銀貨で売ってくれた。穂先が痛んだり、金具の修理はするからそん時は持って来いよ? というおじさんにバイバイして店を離れる。大丈夫、壊さないさ。
5つに分割された槍をロープでナップザックの背に括りつける。ナイフもどうせ普段使いだからいいやとザックに詰め込んだ。残ったお金は少ないが、店じまい途中のドライフルーツ売りの屋台でドライフルーツを仕入れる。
アンリミテッドオニギリワークスなポケットがあるので、食料の心配が少ない。ってお供えを信頼しすぎだし。いきなり供給が止まったらピンチなので、その為の保存食だ。目を輝かしているフローリアに食い尽くされなければいいけど…。
支度を終えた俺は、城壁の上に立っていた。街が一望できた。あーこんな街だったんだ。夕闇の中でともされる生活の火が、暖かさを感じさせた。もうちょっとゆっくり見て回りたかったけど、主にネコミミさんとあったりとか…。
俺は、館に掛けていた時間停止を解除して城壁から飛び降りた。遠くから黄色い悲鳴が聞こえたような気がしたけど、振り返らない。むしろ逃げる!
目的地は、目の前に広がる大草原だ。せめてもの罪滅ぼしに、グレイウルフたちをちょっと間引いてこないとね。




