21話 都市の中心でほにゃーと叫んだバカモノ
お茶会から、そのまま歓談、そして食事となった。歓談というか、次々に都市の顔役が現れる流れは少しおかしいと思う。
確かにお嬢さんを助けたのは俺なんだが、都市の商工ギルドのマスターや、守備隊の隊長とか呼ぶ必要ないと思うんだ。
服飾ギルドの明らかに太りすぎのマスターが俺を見て「ドプフォ」と噴きだして鼻息を荒くしていた。あれ危険だから早く追放したほうがいいと思う。マジキモい。
イケメンの守備隊長もムダにスキンシップを迫りすぎだと思う。イケメンだからってみんななびくと思うなよ? 自信家すぎてマジで面倒だったわ。
ちなみに門の所でいろいろ説明してくれた兵士のおっさんも来ていた。彼が容姿や服装を覚えていて、お嬢さんを助けた者じゃないかと報告したらしい。
報酬として1金貨欲したって話きいて、入城料1金貨って教えた話をすれば、そりゃ門の前で待ってるわ。俺ホイホイだな。ちくそー余計な事を。
まあ無意味な時間だけではなかったけどね。ちなみに俺はいつの間にか国境を越えていたらしい。
もうここはクラウセン都市連盟という都市群なのだとか。そのうちの城砦都市グレイスがここなのね。
アセルス王国との国境ガバガバじゃんって思ったが、精霊王の加護を持つかの王国は、その領地の北で邪な存在が住む地に接しており、この大陸における楔的存在らしい。おっと、あのまま北上?していればいきなりクライマックスだったらしいよ。
ちなみにアセルスが建国される前はこの城砦が人類の最前線だったとか。ここから旅立ったバーバリアンの王様があの平原を制したという話だ。その戦いの際にアセルス王は精霊王との契約で聖剣を与えられている。その精霊の加護を失うリスクを負ってこちらに攻めてくることは、まずありえないし、都市同盟側もアセルスに攻め入って楔が外れて邪なるものたちが氾濫するのは問題すぎる。
そういうお互いのメリットがまったくないという理性的判断があって、国家間の行き来が自由らしい。まあ実際都市に入れるかは、審査があるので問題ない。俺も弾かれたしね。
この城砦都市から拡がるクラウセン大平原を渡る街道で都市同盟は繋がっている。杜の都タイセツ、港湾都市クエリア、迷宮都市アルガードなど。その大都市の間の街道に点在する小都市などのもあるらしい。各地がそれぞれの特産品などを輸出入して経済をまわしているらしい。
なのでその街道に現れるようになったグレイウルフの群れが大問題なのだそうだ。輸送コストの増大とリスクの拡大は都市同盟の経済だけでなく、培ってきた信頼関係すら揺るがしかねない。実際送ったはずの隊商が消息を絶って、都市間の責任の所在追及などで紛糾しているケースもあるとか。
と堅い話をなどしているうちに食事は終わった。
「マナーなど気にするな、まず俺が気にしない!!」とジュリエッタに怒られていたおっさんがいたが、さすがにちょっとは気にはなる。しかも構えていたこっちが拍子抜けする程に、俺の由来や目的などには一切触れてこなかった。こっちはどんな返答すべきか緊張してたってのにね。
なんつーか、いろいろ美味しい料理などいただいたと思うのだが、正直、味はあまり覚えていない。各地の珍しいフルーツを色々もらって、食べ終わってテーブルで寝ているフローリアがちょっと羨ましい。
食事の後、俺はお風呂を勧められた。FURO!それは命の洗濯である。一般家庭では水や光熱費の関係で普及していないが、大都市には公共の湯屋があったり、貴族や裕福な家庭にはお風呂が備えられていることが多いみたいだ。日本人としてはマジでいいことだと思う。
ちなみにトイレも水洗だ。中世の欧州のような事がなくてよかった。まあこれも水魔法があるお陰というもの大きいみたいだ。ここの街には大きな川が流れてるけどね。
かく言う俺は風呂大好きだ。この世界での旅路では諦めていたが。生前も休憩時間を調整して、サービスエリアの銭湯に入ったりしていた。フェリー移動時なんて、港に到着まで何度もフェリーの湯につかっていたくらい。
大浴場は離れになるらしく、俺はメイドさんに案内されジャンパーを羽織りフローリア入りウェストバックを持って風呂に向かう。ジャンパーを着たのは、今のこのドレス姿へのせめてもの抵抗。
フローリアは飯の途中から寝ていたが、起きたら風呂に入れてやろうと思う。次にこんなチャンスいつあるか判らないしな。
鼻歌まじりに気分よくメイドさんについていく。扉を開けると脱衣所になっており、向うから湯気が漂ってくる。棚に脱いだ服と、ウェストポーチを置いておく。曇りそうなのでモノクルも外してみる。しかしこれ、全然使い方わからん。壊れてるんだろうか。この世界に来て落ち着いてから、何度か試してみたがまったく反応しない。女神さまがコレだけでもって渡されて使えないとかヒドいと思う。あとこれは付けていても他の人には認識されていないみたいだ。フローリアも気づいてなかったみたいだし。
入浴衣みたいなのが用意してあったが、俺しか居ないし、着慣れてないからいいよね?とそのまま風呂場に入っていく。そこは石造りの豪勢な風呂場になっていた。なかなか湯船が広い。素晴らしい。んー、洗い場はあれかな? 木の椅子とその前の棚に丸い石鹸のようなものが置いてある。
手で泡立ててみると、俺の知っている石鹸よりは泡立ちは弱いが石鹸と断定した。そのまま手で体を泡立てながら擦っていく。ってなんか自分の体なのに、白くて細すぎて柔らかすぎて気持ち悪い……。
汗流したりは川でしてたけど、垢も殆どでない。俺の体はどーなってんだこれ。などと自分の体の感触にドギマギしていてまたも俺は油断していた。
「本当に綺麗な肌ですのね。羨ましいですわ」
ってそこには長い金髪を上げて纏め、入浴衣を着て入り口に立つジュリエッタ嬢。
お嬢さんなにしてんのーって、彼女は俺を女だと思ってるから仕方ないのか。
「入浴衣を着ないなんてマナー違反ですよ」なんて笑ってる。
「じゃあ今日は私もお付き合いして…」って脱がなくて良いです。
俺はその隙にオケにお湯を入れ、泡を流して浴槽に飛び込んで目を逸らす。空間把握で鑑賞とかそんな余裕は無かった、大ピンチだ。心臓バクバクである。
ざざーっと湯を掛ける音がしてしばらく、ちゃぷっっと湯に入ってくる気配。そして近づいてくる? 俺は少しづつ移動して、彼女から離れようとする。しかし、ずいずい寄ってくる彼女に隅に追い詰められてしまった。とりあえず背中を向ける。
「あー、のぼせそうだから上がろう「そんな逃げないで下さいな」」
逃げさせてぇ……。
「ユキさん、私、あなたに味方になって欲しかったんです。色々と怖いことが多くて、あの時、化け物から私を救ってくれた姿に……私、天の使いかと思いました」えらい血まみれ天使でしたけどね。
「そんな姿を見て、貴女に憧れました。そして一緒に居たいって思ったんです」
「あー、友達とかでした「私、男の人嫌いなんです、乱暴だし不潔だし」」
なんか話の流れが不穏だ。こっちの話ももうスルーだし、目を見るのが怖い。
「ですから館の中には女性スタッフしかおりません、父以外。私もそうだから、判ったんです。ユキさんも、男の人嫌いですよね?」
あー、いや確かにあの直結厨イケメンとか、あの服飾ギルド長とか避けてたけどさ、そんな風に思われていたのか? あれ普通にキモくね?。
「い、いや違「判ります、大丈夫ですわ。ですから……」」
と俺の背中から抱きついてくる。脇から手を回されて……。抱きしめられる寸前、俺は拘束から逃げ出そうと腰を上げる。ただ、それは最悪の下策だった。
するっと滑った彼女の両手はすぽっと俺の股のあたりに納まった。
「ほにゃー」
俺は思わず変な悲鳴をあげてしまった。ジュリエッタはそのサンをぐにっと触り、気がついたらしい。立ち上がり、くるっと肩を持って俺を彼女の方に向けされた。って意外と力強いな。
あー、俺もなるべく見ないからさ、見ないでもらえると助かる。しかし彼女の視線が俺のサンに注がれる。次第に赤く染まっていく彼女の頬。口が大きく開いていく。
「きゃー」
と、それは自然の摂理の如く黄色い声が悲鳴が響き渡った。
能力がバレるか、捕まって罪人かという二択を迫られた俺は、全力で時間停止を広範囲に広げていく。この家全体まで時間停止を掛けて湯殿から逃げ出した。更衣室のドアはちょうど開かれ、剣を抜いたクミさんが突入してくるタイミングだったようだ。
俺は、半泣きで新しく用意されていたおぱんつを履いて、ドレスを着る。今度のドレスはライトグリーンだった、ジャンパーのモスグリーンと良いコントラスト。ってそんなのはどうでもいい。
うにーっと起きたフローリアとハウスを引っさげ移動する。モノクルはフローリアハウスに入れさせてもらった。フローリアは不思議そうにそれを見ている。
メイドさんが持っていった作業着はどこの部屋で洗濯やら補修やらされているのが判らない。腸が千切れそうな思いで諦め、俺は屋敷の外に逃げ出した。
乾かしていない髪がちょっと重かった。
初の女の子との裸の接近遭遇に、触るどころか握られた俺は、またちょっと泣いた。




